4、電話
仕事が終わり、家に着いたのは十時すぎだった。
まっすぐ部屋に入り、バッグから一枚の名刺を取り出す。
表には笑顔でキレイなドレスを着る佐藤さんの写真と、《遥》という名前。
キャバクラでは、自分を忘れられない為にも写真付きの名刺が流行っているらしい。
そして裏には、佐藤さんの携帯が書いてある。
『キャバクラなら紹介するよ。稼げるよ!』
彼女はそう言った。
絵里は少し迷いながら、名刺をながめ続ける。
普通なら、断るような話。
でも、絵里はお金が欲しかった。
新作の服も、ブランド物も今の給料じゃ買えない。
確かに飛鳥でも足を触られたり、文句を言われたり、嫌な思いをする事がある。
でも、帰りにママからお金をもらうと幸せになれる。
時給2000円なんて、地元のマックのバイトの三倍だよ!?
そう思うと我慢できる。
絵里は携帯を出し、深呼吸をしてから佐藤さんのナンバーを押した。
そして通話ボタンをゆっくり押す―――
緊張してきた・・・。
三回コールした時、電話ごしに騒がしい音がした。
『はぁい』
そして、佐藤さんの声がする。
今になって少し後悔をした。 思わず勢いでかけちゃったよ・・・。
「あ、あの。
咲坂ですけど・・・。
わかりますか?」
『・・・あっ!わかった!
エステの咲坂さんでしょ??
電話くれたんだぁ。』
佐藤さんの声は昼間より1オクターブ高かった。
そして、佐藤さんは絵里にお店を見においでよと誘ってくる。
『体験で一日働いてみる??
体験入店は一律時給3500円で安いんだけど。
嫌かな?』
「えっ!?
3500円ですか??」
信じられない・・・。
飛鳥のほぼ二倍。
それって安いんだぁ。
思わず絵里は
「行きます」
と答えていた。
明日は仕事を早退しよう。
初サボりだった。