17、雑誌発売
ケンを見たのは二年ぶりだった。
そして、助手席には知らない男を乗せ、ケンは笑っていた・・・。
タクシーを止め、走ってケンの車を追い掛けた。
でも、ケンの車は絵里に気付かずに小さくなって、角を曲がって消えていった―――
家に帰ってから絵里は久々に、ケンから貰った指輪をながめた。
そして、涙を流した。
その日以来、絵里はケンを探した。
今までノアまでタクシーで通勤していたが、止めて電車にした。
車内、駅の中、新宿東口、そして歌舞伎町。
毎日ケンを探しながら歩いた。
無駄かもしれない。
でも、これしか逢える方法はなかった。
ケンはしばらく前から行方不明だった。
ケンの母は、時々非通知で電話がくると言っていた。
でも、何もケンは自分を語らないらしい。
そして、毎月20万円がケンから振込まれていると言った。
そして、明さんはケンが仕事を辞めたと言った。
だれもケンの居場所がわからない。
ケンは何をしているんだろう・・・。
今日は、この前撮影した雑誌の販売日だ。
出勤前に歌舞伎町内の小さな本屋に行き、雑誌を購入する。
その場でペラペラとページをめくると、ノアのページがあった。
自分なのに、自分じゃないような笑顔の写真が載っている。
恥ずかしいような、嬉しいような気持ちで雑誌をバッグに閉まう。
そして、今日もノアに向かった。
今日の売り上げは最高によかった。
色恋彼氏たちが雑誌の絵里を見て、四人会いにきてくれた。
新宿で飲み歩いている客たちは、毎月あのキャバクラ雑誌を読む人が多い証拠だった。
ユウヤなんて、絵里のページを切り抜いて、事務所の壁に張って『俺の女!』って自慢したらしい。
カナリ痛い(苦笑)
それからしばらく経った頃、遥ちゃんと絵里は、営業終了後にローズに行く約束をした。
タクシーまで送ってくれた彼から、あの日以来よく連絡がくる。
今日はカイを指名しよっと。
『エリちゃん、新規客(初めてきた客)から指名だよ!
写真指名かな?』
指名がなく更衣室にいた絵里に、店長が声をかけてきた。
この前も写真指名があり、あの雑誌は好評だった。
フロアに出ると、金融らしい四人組が座っていた。
三人の顔が見えるけど、見覚えがない。
絵里を指名したのは、背中を向けている男らしい。
「ご指名、ありがとうございまぁす」
その男の隣に座り、顔を見た瞬間、絵里の頭は真っ白になった――――