13、アフター
絵里はユウヤの隣、遥ちゃんはユウヤの部下の隣に座る。
ユウヤはノアで、いつもお酒が入ると絵里の手を握ったり、ベタベタしてきていた。
そして絵里に
『早くやらせろよー』
とか、冗談ぽく言ってくる。
遥ちゃんいはく、だいたいの金融屋さんに指名取るには色恋接客で営業するか、とことん飲んで盛り上げて営業するかのどちらからしい。
最近絵里もわかってきて、おじさんはうまい事いえばだませるけど、同年代に近い男は難しいなと思う。
そして、ユウヤは一番の太客だから、余計に神経を使って営業している。
『じゃあ、酒そろったし、乾杯しよーぜ』
ユウヤの声で、皆グラスを持つ。
絵里はお酒が弱いからカクテルがいいって言ったのに、強制的に四人ともビールだった。
ビールを無理矢理、喉に流し込む。
「こんなまずいの、どこが美味しいの?」
ユウヤが笑いながら絵里の髪を撫でる。
・・・いきなりケンを思い出してしまった。
ケンは付き合ってた頃、よく絵里の髪を撫でてくれた。
その手のひらが暖かくて、優しくて、心が幸せな気持ちであふれた。
・・・でも、今のユウヤの手のひらは違う。
同じ行為も、全然違う。
ケンを思い出し、胸が痛い―――。
同じ東京にいるのに、ケンの姿はないよ。
指輪をはずした時からケンの事は胸の奥にしまったはずだった。
だけど・・・
どんどん気持ちが溢れる。
ケンに逢いたい。
その事を認めたくないし、知りたくなかった。
でも・・・。
やっぱりケンをまだ想う気持ちが残ってる。
キャバクラ嬢になる時に、はずした指輪の跡をさする。
そこには何もなく、うっすらと日焼けで白い指輪の形が残っているだけだった・・・。
絵里が物思いにふけっていると、テーブルの下でユウヤが手を繋いでくる。
絵里はまた現実に戻り、ユウヤにとびっきりの営業スマイルを見せた。
チュッ。
ユウヤの唇が、絵里の唇に一瞬ふれた―――
あまりにいきなりすぎて、絵里は呆然とする。
柔らかくて、気持ちが悪い・・・
ユウヤが見てるから口を拭う事もできない。
絵里は芝居をした。 照れたように下を向き、携帯が鳴ったふりをして部屋の外に出る。
そして、トイレにかけこんで口を洗う。
鏡を見上げると、厚化粧で派手な女が映っている。
金のために何してるんだろう・・・。
涙が一粒こぼれる。
また一粒、
そしてまた一粒・・・