8. お金は何より大切
すみません、現在期末レポートを一日に3つ以上仕上げなければならない地獄の状態ですので、次回の更新は遅くなります。
ここは、悩める男二人が集う執務室。
はあ…………。
二人同時に溜め息を吐き、顔を見合わせた。
「陛下、最近公爵家からの風当たりが強いのですが、心当たりは?」
「奇遇だな、俺もそのことを考えていた。宰相こそ、心当たりは?」
皇帝は疲れたような表情で、宰相に視線を向けた。
「さあ、わかりません……ですが、私たちは余程のことをしたようですね。最近、殺気を感じるのですが」
「そうか。俺は最近、護衛に暗殺者を野放しにされているのだが。何度襲われかけたか」
二人とも、辛い経験を思い返して遠い目をしている。
宰相は、今後のことを考えると頭が痛くなりそうだった。
公爵家を敵に回したということは、これからの日々が容易に思いやられる。たぶん、自分は陛下共々屍になっているかもしれない。いや、王位を簒奪されて無人島に追放されるかもしれない。それとも……。
はあ…………。
また二人揃って溜め息を吐く。
宰相と皇帝は今までにない事態によって、精神的に追い詰められていた。
「くそっ、逃げるぞ」
分が悪いと判断をしたリーダーらしき男は、手下の者たちに指示を出す。
「逃がさないわよ、覚悟しなさい」
リエナはお金稼ぎのために町に繰り出していた。
今日の仕事は町で暴れているゴロツキの捕縛だった。どうやら、意外に強いらしく地元の警備団では相手ができなかったらしい。彼らは、強盗、恐喝、暴行、窃盗などの罪を犯しているらしく、結構名が知れている。
リエナは逃げようと背を向けた男たちを見て、笑った。
男たちは、リエナの笑みの意味など何も知らずに走り出すと……
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
男たちから悲鳴が上がる。後ろにいるリエナに気をとられていた男たちは、まさに前方不注意の状態で、それが彼らにとっての命取りとなった。
「らっき〜。捕獲完了!」
リエナの目の前には、大きな穴がぽっかり空いていた。そして、その穴の中には泥まみれになった男たちの姿が。
「いや〜、助かったよ。あいつらなかなか捕まんなくてさぁ」
ここは、いわゆる傭兵ギルドというやつだ。正直、ブルジョアか?ってくらいめっちゃ儲かる。仕事としては、商人の警護とか、盗賊やら山賊やらの討伐……なんだけど、一番簡単なものだと、おつかいとか掃除とか畑仕事とか害虫駆除とかそんなものまである。
「ほれ、今日の報酬だ」
手渡されたのは、何枚かの硬貨だった。
今日は病み上がりなので、簡単な仕事しか引き受けなかったが、いつもは大量に依頼を受けて一日で大枚を稼ぐのが日常だ。
この調子なら、後宮のドレス代が十分稼げそう!
リエナはお金を貰うと、ほくほくとしながら帰途についた。
「ただいま帰りました」
リエナが帰宅すると、中庭から賑やかな声が聞こえてきた。どうやら茶会が行われているらしい。奥方様は家族を集めてよく茶会を開いているから、おそらくそれだ。
「聞いてくれる?あの陛下、護衛が動いてくれなくて精神疲労が酷いもんだわ」
「うわぁ〜。せっかくの美形が台無しですね!!」
アリーの声が聞こえてきた。なぜかアリーも参加しているようだ。
「先日は、暗殺者の攻撃を避けた際に転んでたね」
最近、暗殺者に加え、城に人をやって皇帝の様子を毎日報告させている当主様は語る。
「俺は、暗殺者と間違えて忠臣を殺しそうになった陛下を見た」
最後に、城勤めで皇帝の近くにいた次期当主が。
「……………………」
私は、何か、非常に、まずいことを聞いてしまった気がする。
リエナは、聞かなかったことにして立ち去ろうとするが…… 。
「おかえりなさいませ、リエナ様」
「あら〜。お帰り、リエナちゃん」
奥方様とアリーに見つかってしまった。
「リエナちゃん、さっきまで私たちね〜、陛下のお話ししてたのよ」
……はい、知ってます。まさか扉の向こうで盗み聞きしていたとは言えないが。
「これならリエナ様も陛下に嫌われますね!」
その通りです。今まで、どれだけ自分のしていた事が生ぬるいか身を以て知りました。
「さてと、お仕置きはこれからね」
目を爛々と光らせている公爵家一家は、恐ろしいものでした。……あ、自分も公爵家の一員だった。
「リエナ、ちょっといいか?」
「はい、次の依頼ですか?」
貪欲に依頼を求め、詰め寄ってくるリエナに、ちょっと引きぎみになる男。
「ああ……ちなみに、報酬は今までの倍だ」
倍!……なんて魅惑的な言葉!!!
リエナの目はきらきらと輝いていた。
だが、次に語られることは、お金儲けで上機嫌なリエナを、地獄に突き落とすことになる。
「実は、皇帝陛下の護衛を頼みたいんだが」
「……………………」
……やなことを聞いた。何だこの偶然。不幸としか言いようがない。
「東の町の方で視察があるらしくて、腕の立つものを寄越して欲しいと」
視察という、王宮の護衛官でも事足りる仕事をギルドに依頼したのはたぶん、公爵家のせいで護衛が役に立たなくなったからであろう。
「やっぱり、お断りします」
帰ろうと身を翻すリエナの腕を、男はすがるように両手で掴む。
「頼む!!皆強いものが出払っていて、お前しかいないんだ」
「私と同レベルのランクの人なんて、いっぱいいるでしょう」
リエナはランクの昇格試験を受けていないし、簡単な仕事ばかりを好んで選んでいたためにランクはあまり高くない。
「言っておくが、実力的にお前に敵う奴なんぞ、そうはいないぞ。それに、一番信用できるのは、お前だ」
「とりあえず、私はやりません」
「お願いだ!この依頼を成功させたら、お前に優先的に仕事を紹介してやるから!!」
リエナは目を見開いた。
ここで、頷いてしまったのは仕方がない。人間、お金の力には勝てないのだから。
たぶん、変装して行けばたかが妾の顔なんぞ皇帝は覚えていないだろう。……そう楽観的に考えていたリエナは、仕事を引き受けることにしたのだった。