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4. 計画成功!?でもやりすぎたかも…

ついに、陛下の訪問の日だ。


「行くわよ、アリー!」


「はい、リエナ様!」


今日は徹底的にやるつもりた。それはもう、徹底的に。


こんなことまでして不敬罪に問われないのかと思うかもしれないが、あの陛下のことだ、おそらく悪意のない、しかも小さな嫌がらせに対しては激しく怒りこそすれ、罰則は与えないだろう。たぶん二度と会っては貰えないだろうが。


「いらっしゃいませ陛下。私、心待ちにしておりましたのよ?」


笑みを浮かべながら陛下がソファに腰を下ろすのを待つ。


そしてリエナは、皇帝が来るのを心待ちにしていたこと、その間どれほど寂しかったか、さらには皇帝の訪いに備えてたくさんのドレスやアクセサリーを新調したことを長々と嫌がらせのごとく語った。


「陛下、申し訳ございませんでしたわ。お茶をどうぞ」


そろそろ喉が渇いたであろうタイミングで出てくるのは、またもや皇帝の嫌いなお茶。


皇帝は全く手をつけようとせず、静かにリエナの方を見ていたかと思うと、その端正な顔に笑みを浮かべた。


うわ〜。こんな表情初めて見た。


普段にこりとも笑わない皇帝が笑みを見せた。


……て、一度しか会ってない女に心を許しすぎではないか?


油断も隙もないと思っていた皇帝だが、女に対しては隙だらけだ。……この国の将来がとても心配になってきた。傾国の美女とやらが現れれば、この国は崩壊しかねない。

自分は関係ないが、大切な公爵夫妻に迷惑がかかるのは避けたい。

国が潰れたときには逃げるのだけは手伝ってあげようと思うリエナであった。


そんな思考から現実へと戻ってくると、自分の目の前に何かが差し出されていることに気付く。


「驚いたか?贈り物だ」


皇帝の手にあったのは、古代史の専門書だった。


欲しい!物凄く欲しい。


だが、そんな素振りを見せるわけにはいかない。


リエナはそれを受け取ると、全く興味がなさそうにサイドテーブルに置いた。


皇帝の眉がぴくりと動く。皇帝は完全に気分を害したようだ。


ここで一気に皇帝を怒らせてしまおう。


「ありがとうございます。皇帝陛下に贈り物を頂けるなんて……ですが私、もっと欲しいものがあるんですの」


そう言って、皇帝に手を伸ばす。その腕に触れると、媚びるような視線で皇帝を見つめる。


「今日の夜も……来ていただけませんか?」


皇帝は怒りの形相でリエナの手を振り払い、ソファから立ち上がった。


「お前が、そんな女だとは思わなかった。幻滅した」


皇帝は冷たい視線でリエナを射ぬく。その後に、侮蔑の表情を浮かべると扉の方に歩き出した。


とどめの一撃!!!


「お待ちください、陛下」


リエナは皇帝を引き留めるために袖を掴んだ。


「次はいつ来てくださるの?」


ばんっ!

リエナの体に激しい衝撃が走る。


「愚かな女だ。俺に殺されることを光栄に思え」


皇帝は、嘲笑を浮かべると扉を閉め、去って行った。




「いった〜」


皇帝によって壁に叩きつけられたリエナは、よろよろと立ち上がり、振り返った。


「どうするのよ、これ。壁が壊れちゃったじゃない」


リエナが先程までいた場所には、大きな穴が空いていた。さらに周りにはヒビが入っている。


リエナはすぐに立っていられなくなって、すとんとその場に座りこんだ。

頭からは紅い鮮血が流れている。骨も何本か折れているに違いない。


「リエナ様!血が……」


アリーが慌てて駆け寄ってきた。その目には、涙を浮かべていた。嗚咽を漏らしながらも、リエナの怪我の手当てを必死に行う。


リエナはぱさりとウィッグをとった。


「皇帝……絶対、許さないわ」




「あれ、陛下。もう帰っていらしたのですか?」


お気に入りの女性のもとに行っていた皇帝は、短い時間で帰ってきた。


「俺が馬鹿だった。後宮にまともな女など、いる筈もなかったのに」


皇帝は自嘲的な笑みを浮かべた。


「古代史が好きな振りをしていたのは、俺に気に入られるための演技だったらしい」


やはり、皇帝のお気には召さなかったか。


「あの女、穢らわしい手で俺に触れやがって。まあ、もう生きていないと思うがな。魔法を使ったから」


皇帝が、魔法を使った―――それは、死を意味する。皇帝の強すぎる魔法を受けて生きていた者など、未だかつていない。


宰相の顔が途端に蒼白に変わる。


「なっ、陛下、有力家のご令嬢だったらどうするつもりです?」


「そもそも賢い家なら俺の性格を知っているから、女を送り込むような真似はしない。馬鹿な貴族の家一つぐらいだったら、どうとでも出来る」


その通りなのだ。

皇帝の信頼する優秀な臣下たちは愚かな真似をして皇帝の気分を害するようなことはない。

特に、公爵家は皇帝から絶大な信頼を得ている。普段は温厚な性格だが、皇帝に匹敵する手腕を持っている。宰相は、彼が敵ではなくて良かったと皇帝が言っていたのを思い出す。

だが、現当主は皇帝を認めており、臣下として全力で彼を支えている。

彼の家に令嬢がいたらと何度願ったことか。


「取り敢えず、念のために彼女のことは調べておきます」



こうして、皇帝の二度目の訪問は幕を下ろした。


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