3. 打倒!皇帝計画再び
今、あり得ない光景を見てしまった。
宰相は、皇帝が上機嫌で執務室に戻って来たことに目を丸くしていた。
……先程は確か、後宮訪問の予定ではなかったか。
いつもの陛下であれば、女性と対面した後は手がつけられないほど機嫌が悪い。人に当たる、物は壊す、最終的には怪我人が出て大騒ぎになることもしばしば。
いつも女が嫌いだ何だと言っていた陛下が、女性に会って嬉しそうに帰ってきた。
これ以上の奇跡があるだろうか。
「陛下、何かあったのですか?」
宰相はついに、好奇心に負けて尋ねてしまった。
「後宮に、面白い女がいた。あんな女性は初めてだ」
それだけ言うと、皇帝は書類を手に取り執務に取りかかる。
――――――面白い女がいた。
そんな言葉を皇帝から聞いたのは、初めてだった。
女性には、政治よりも容赦がない陛下。女性の好みはと聞かれ、自分の政務を手伝えるくらい聡明で、自分の背を預けられるくらい強い女性。それでいて性格は大人しく慎ましやかな者が良いのだと答えた。
そんな完璧人間どこにいるのだ、とつっこみたくなるが当の皇帝は至って真面目である。
そんな理想の女性像を持つ皇帝は、どんな美女が寄って来ようとも見向きもしなかった。
最近は、女性の本性を知り徐々に妥協が見られるようになってきたが、その皇帝が興味を持った人とはどのような女性なのか。
「その方は、どこの家の令嬢なのです?」
「知らない」
「…………は?」
「知らないと言ったのだ。彼女は名乗らなかったしな。宰相、調べといてくれ。茶色の髪と瞳を持つものだ」
名乗らないのは当たり前だ。まさか頭脳明晰な皇帝陛下が、興味がないからと言って後宮の女性の名前さえ把握してないなどとは思わないだろう。
嬉しそうな皇帝に、その情報だけではどなたか調べられませんとは口が裂けても言えそうにない。
皇帝は、素性も知らない女性を好きになったのか。まさか、他国から送り込まれた間者などではないだろうな……早急に調べねば。
「あと、古代史の専門書を手配してくれるか?彼女に贈ろうと思う」
あの陛下が、女性に贈り物……。
感極まった宰相は、(素性がはっきりすれば)敬愛する皇帝陛下を全力で応援することを誓った。
陛下が初めて興味を持った女性は、古代史の好きな方でした。
「リエナ様、陛下がいらっしゃる日が決まったようです。!」
朝食の片付けから嬉しそうに戻って来たアリーを、リエナは待ちわびていたと言わんばかりに迎える。
「本当に?いつなの?」
「明後日です。時間は以前と同じようです」
以前と同じ……これは、好都合だわ。朝のうちにしっかり準備して、全力で迎え撃つ!!
「頑張りましょう、アリー!!」
「はい、早速ドレスを選びましょう!!」
こうして二人の打倒!皇帝計画が前よりさらに綿密に練られていくのだった。