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32. 問題発生はリエナに大影響です

すみません、投稿できてないのに気付かないまま放置していました。お待たせしてしまい、申し訳ありません。

さてさて、戻ってきました大嫌いな王城。

また、皇帝の執着に悩まされるのかと思っていたが、違うようです。


ここ数日、皇帝の頭を占めているのは世界の救済についてだった。


「最近、世界が破滅するのではないかという噂が国民に広がりつつあるようだ」


「そうですね。神話を知っている者なら、巫女がいるということは世界の崩壊が危ぶまれていると気付くはずですから」


「なぜ巫女は動かない?」


「ドレスに宝石に男に、色んなことで頭が一杯なのでしょう」


宰相が呆れたように言う。

巫女の情報はよく隣国の王太子からもたらされる。やれ宝石をいくつ買っただの、気に入らない下級貴族に暴力を振るったあげく城から追い出しただの、新しく気に入った男を見つけて傍に侍らせているだの、やりたいほうだいである。


「そうではない。巫女だって世界の崩壊には巻き込まれるはずだ。恐ろしくないのか?」


「そうですね。自らの命がかかっているのですから」


「なぜ、巫女は救済をしない。早いうちに行えば簡単な上、今以上の名誉が手に入るのだが」


頭を抱えて考え込む二人をリエナは見つめた。

巫女の考えはきっと普通の人には理解できないだろう、と思った。

巫女は、自分が世界の命運を手にしているという状況が楽しくて仕方がないのだ。誰よりも注目され、全ての人の命を支配している状況が。

そして、楽観視している。今までの巫女は、早い段階で世界の救済を成し遂げていた。歴代の巫女の日記には“世界の救済は容易であった”と書かれている。


巫女は自分が代用品にすぎず、その力が本物でないことに気づいていない。

そのことに気づけば、世界を今すぐにでも救おうとするだろう。


それにしても、よく知っているのね〜。


巫女に関しては、文献をよく見ていなければ分からないことが多い。

それだけこの国には文献が揃っており、皇帝自身も詳しく知っているということだ。


これは、期待できるかも。


異世界に関する資料も期待できそうだ。皇帝自身も何か知っているかもしれない。

そんなことを考えながら、リエナは更に皇帝と宰相の話に耳を傾けた。


「………そのことで、報告があります。非常に申し上げにくいのですが、巫女が我が国への訪問をお望みのようで」


「………いつの話だ?」


「2週間後に予定されている、陛下の誕生パーティに参加したいそうです」


「………こちらからは招待していないが?」


「だから頭の痛い問題なのです」


確か、その頃には隣国で神への感謝祭が行われるのだ。巫女がこの世界へ来て何日かで催されるイベントだったはずだ。

その感謝祭を欠席して来るのは非常識な行動であり、さらに招待状を出されていないパーティへの出席となればとんでもない事である。


「断れるだろう?」


「陛下はもう5度も訪問を断っておいでですがね」


宰相はじとりと皇帝を睨む。


「だが、今回は妥当だ」


「残念ながら………書簡では、“参加する”と書かれているだけなので断る権利はこちらにないようです」


「あの女、好き勝手にしやがって」


皇帝は怒りを露に書簡を見つめた。

巫女の行動はこちらの国にも大きく影響するのだ。神への感謝祭を差し置いて、自分の誕生パーティに出席させたとなれば、皇帝の立場はどうなることか。


「とりあえず、断っても意味がなさそうなので準備だけはしておきますね」


宰相は必要書類に目を通し始める。

一方の皇帝は、まだ怒りが覚めないようで拳を握りしめている。


「何で巫女などというものが存在するのか分からん。迷惑にしかなり得ないだろう」


皇帝の目には憎しみのような感情が宿っているのを、リエナは見てしまった。




「なぜ、陛下は巫女をあんなに嫌っていらっしゃるのですか?」


気になったリエナは宰相に尋ねてみた。現在皇帝は公務に出掛けているようで、不在だ。


「ナツは、聞いていないのですか?」


宰相が驚いた表情でこちらを見つめた。書き物をしていた手は完全に止まっている。


なぜ自分が知っていると思ったのだろう。


「てっきり心を開いているナツには話していると思ったのですが………」


宰相は困ったような表情を浮かべる。

なるほど、そういうことか。皇帝中では宰相に次いで一緒にいる時間が長いリエナには事情を話していると思ったのか。

だが、話してくれないということは、リエナはそれほど信頼されていなかったのだろう。


「このことばかりは皇帝陛下に直接聞くしかありませんね。………国家機密に触れることでもありますし」


国家機密に触れる?どういうこと………?


益々謎は深まっていくばかりであった。




リエナはいつも通り皇帝のもとに出勤した。

雲一つない気持ちの良い朝だったのだが、執務室に入ると何やら重苦しい雰囲気が。

巫女の問題以外にも頭を抱える事態が起こっているようだ。リエナに関係ないことならば良かったのだが、どうやらそうもいかないらしい。ああ、面倒だ。



「最近、王都で不審な事件が多発しているらしいな」


皇帝が何枚かの報告書に目を通しながら言った。


「そのようですね。事故ではないかと言われていましたが、こうも続いて発生しているとただの偶然では片付けられませんね。民も不安に駆られているようです」


宰相が書類に落としていた視線を上げて皇帝に言う。


「王都の警備隊の方からも報告が回ってきていると聞きました。最近は重症者まで出ているそうです」


近衛隊長もそう語る。


「近衛隊長、隊はどこまで動いている?」


「犯人の捜索及び民の安全確保に努めているようですが、犯人は捕まえられず、民や、被害者を守ろうとした隊員にまで被害が拡がっているようです」


「彼らでも犯人を捕らえるのは難しいか………。仕方がない、俺が行く」


皇帝は手にしていた報告書を机の上に置き、立ち上がった。


………やはり、そう来たか!!

この皇帝は何か事件があると、自ら積極的に手を出す。まあ、膨大な魔力を持つ皇帝が動けば、即座に事件が片付くのは間違いないのだが。

強すぎる魔力が人を殺すことを恐れていつもは魔法を使わない皇帝だが、こういった深刻な事態の際には躊躇いなく手を出す。


さて、一介の傭兵でであるナツとってに何が面倒かと言うと、他でもない皇帝の護衛のことだ。

王宮内で大人しくしてくれていた方がどれ程楽なことか。


「近衛隊長、ナツ、支度をしろ。街に出るぞ」




そんな感じで街まで出てきた訳だけれど………。


「ナツ、この菓子は好きか?気に入ったものがあれば選べ」


「あちらのジュースもどうだ?」


「遠慮なく言え、大抵の物ならば買ってやるぞ?」


ここは多くの屋台が軒を連ねる大通り。皇帝は買い物を楽しんでいる様子で、あちこちの店にナツと近衛隊長を連れ回していた。

もちろん、変装をしているので3人とも上手く街に溶け込んでいる。ナツは服装を普段着に替えるだけだが、近衛隊長と皇帝の容姿は目立つので魔法で見た目を変えている。


………完全に目的が入れ替わっています。犯人の捕獲という目標はどこに行ったのでしょう。

暢気に町を見て回る皇帝に尋ねてみると、「犯人は偶然を装って仕掛けてくる。事件が起こっていない段階から犯人を探すのは無理だ」という答えが返ってきた。

つまり、犯人が動くのを待つしかないと。


そんなことは、自分だってわかっている。

恐らく、相手は十中八九魔法使いだ。魔法を使って遠距離から事故を起こし、自分は身を潜めているのだろう。犯人を特定するには、魔法を行使した瞬間に魔力を辿り、犯人を追跡するのが良い方法だろう。


だが、こんなに警戒心がなくて良いものなのか。

最強とも言われる魔力を有する皇帝サマなら、余裕で犯人を捕まえられることは、わかっている。

皇帝が敵わないといえば、隣の国の巫女ぐらいのものだ。“神の色”に近い色彩を持つ皇帝だが、巫女が身に宿すのは“神の色”そのものだから。


楽しげに話しかけてくる皇帝と、近衛隊長の嫉妬の視線(殺気はない)を適当に受け流して、ナツは周囲に注意を向ける。


その時、突如大きな音がした。地面を通して足裏に震動が伝わってくる。

事故現場の方からは大勢の人の声が響き、現場は相当混乱しているらしい。


皇帝は、音がする前から感知していたのだろう、音がした時には既に走り出していた。


「近衛隊長、事故現場の方は任せた。俺はナツと犯人を追う」


近衛隊長は頷くと皇帝の側を離れ、現場に駆け出す。仮にも近衛隊長である彼がいるならば、現場の方は早くに落ち着きを取り戻すだろう。


ナツは周りの危険に十分気を配りながら、皇帝の後について走り出した。




皇帝が辿り着いたのは、大通りから外れた、入り組んだ路地の奥だった。ここは、貧しい者たちが暮らす、貧民街。

今にも崩れ落ちそうな建物が並び、路上には家もない飢えた者たちが座り込んでいる。


そして、皇帝の視線の先には襤褸を纏った人の姿があった。自分の姿を隠そうとするかのように頭から布を被り、ふるふると震えている。


「嘘………子ども?」


そう、被っている汚れた布から覗くその細い手足は、間違いなく幼い子供のものだった。

いや、別に子供が罪を犯したことに驚いているのではない。


子供だから推察される一つの可能性―――――――――この事件の真実に、驚いたのだ。


「お前が………魔法を発動させた者か?」


子供はふるふると首を振り、頭に被った布をきつく握り締める。


「ちがう………魔法なんて、使ってない。そんなもの、使えない」


それは、真実だろう。こんなに幼い、まともな教育も受けていないような子供が魔法を使えるわけがない。


頑なにそう言う子供に歩み寄り、膝をついて子供に目線を合わせ、もう一度話しかけた。


「では、言い直そう。先程の騒ぎの原因は、お前の魔力だな?」


そう言うと、子供はこくりと頷いた。自分が罪に問われていないということがわかったのか、子供は被っていた布を取り去った。そこから現れたのは、涙を流す少年の顔。


「魔法は使っていないが、魔力がはたらいてしまったのは、事実だな?」


少年は何度もこくこくと頷いた。


魔法を使っていないが、魔力が事件を引き起こした。これは、どういうことか。

つまり、この子供の魔力が暴走していたらしい。

だが、重傷者を出すほどの魔力が暴走するのは稀だ。おそらく、この少年は類稀な魔力の持ち主なのだろう。


「さ、最初は、ちょっと物が動くぐらいで………。でも、どんどん抑えられなくなって」


少年は涙を流しながら語った。


「自分が、泣いたり笑ったりすると、余計に暴走が酷くなって。家族が、ケガしちゃうんじゃないかって、怖くて」


魔力の暴走は気持ちに左右される部分がある。多感な子どもが自分の魔力を抑えるのは難しく、この子どもは日々恐怖に怯えながら過ごしていたのだろう。


「そうか………つらかったな。今まで、よく頑張った」


そう言って、皇帝は少年を抱き締めた。


リエナは、皇帝の意外とも言える一面を見て、目を瞠った。


そうか、皇帝も………。

彼も、幼いときはこの少年と同じ状況だったのだろう。抑えきれない魔力―――――――それは、神に与えられた恩恵であるはずなのに、人を傷つけるばかりで。絶望をもたらすばかりで。

しかも、当時世界最強と言われた皇帝には、魔力を抑えてくれる存在などいるはずもなく。救いがないとわかっていながらも、国を背負う者として生きていかなければならない苦悩というものは、計り知れない。


――――――優しい、人なんだ。


彼は優しい。貧しい者、身分のない者………誰にでも手を差し伸べられる。

人と違う能力を持っていることは、それだけで排斥の対象となる。神の恵みは彼を人から遠ざけ、孤独にした。だが、それでも彼は世界を恨むこともなくそれを受け入れ、国を愛した。優しいだけでなく、誰よりも強い。


おっといけない。皇帝に同情&感心してしまっていた。非常に不本意だが、彼が国民に優しいのは認めよう。だが、彼の女性に対する態度はいただけない。まあ、貴族の女性限定だが。あんなに偏見を持って女性に接し、初対面にもかかわらず態度は失礼を通り越して人としてあり得ないレベルだ。


魔力の暴走の危険性があるので子供を保護して一件落着、案外大した事件じゃなくて良かったねーと思っていると………。




「陛下、大変です!!反皇帝派の者たちが動き始めました」


そこにいたのは近衛隊長。いつも(皇帝に近づく者への怒り以外で)表情を変えない近衛隊長だが、今回の驚くべき事態に少し青ざめているように見える。


「数は?」


一方の皇帝は落ち着き払っていて、それが近衛隊長に冷静さを取り戻させる。


「完全には把握しきれていませんが、戦いに参加しているのは組織の5分の1程度で、大規模なものではないようです」


どうやら、最近の事件による王都の混乱を利用して、反乱のきっかけを狙っていたらしい。


「分かった、近衛隊長は王宮に帰って戦える人材を集めてこい。俺は直接反乱軍の鎮圧に向かう。ナツは引き続き俺の護衛をしろ」


皇帝はその優れた力ゆえに、いつも最前線での戦いを強いられてきた。誰も皇帝に敵わないことがわかっているから。

だからこそ、皇帝という立場にもかかわらず戦闘に積極的に参加する。周りの近衛も、そんな皇帝を止めようともしない。………皇帝大好き!な近衛隊長は別だが。


遠くには赤い火が見える。きっと反乱軍が建物に火を放ったのだろう。民の見方と豪語する彼らが一般人に手を出すはずがないので、きっとあれは、国が管理する建物だ。


ナツは皇帝と共に、街を荒らし回っているであろう反乱軍のもとへと向かうのだった。





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