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21. 国家機密は誰も知らないから国家機密

令嬢は、世界の救済の遅れについて聞いたときからふさぎ込んだままだった。妃としての授業などもままならず、リエナは特にやることもないので部屋で本を読み続ける日々だった。




しかし、ある日………。



「陛下を、こちらにお呼びして下さい」


令嬢がそう、告げた。いつもの弱々しい態度はどこへやら、強い瞳でこちらを見つめてきた。


「お嬢様、いくらなんでも――――――――」


――――――――――令嬢の呼び立てに、陛下が応じるはずがない。

そう、言おうとしたが――――――。


「分かりました」


令嬢のお抱え侍女がOKを出してしまい、陛下のもとへと足早に後宮を出ていった。

え、お呼びできるの?


リエナは、授業時間も終わり用もないので退出しようとするが。


「あなたは、巫女に関して知っている情報をすべて話しなさい。授業は今日から再開です」


「…………」


あれ?あなた、こんな方でしたか?

今の令嬢は、妃の貫禄が十分に伺える堂々とした態度だった。まだ妃ではないけれど。


それにしても…………………。

語れと言うのか!?すべて。陛下の弱味の一つとして集め続けた情報を?授業で?


不服そうにするリエナに、令嬢は動じない。


「今、あなたは私に遣える身です。ちゃんと従いなさい」


うわ、令嬢の性格が変わった!前はあんなにも大人しい子だったのに。厳しく教育をやり過ぎたか?

でも、使用人の扱い方を覚えてきたということは、かなりの進歩だ。先生は嬉しいぞ!!


「正直言って、これ以上語るのは貴女の身のためにも控えるべきだと思いますが………それでも、お聞きになりますか?」


「はい」


令嬢の意志は、揺るぎないものだった。何が彼女をここまで突き動かすのか。


「巫女は、世界の救済をしないだけではありません。彼女が国のお金を浪費し続けた結果、現在隣国の国庫は空です」


本当に空なのよね〜。


今は国民からの税金をそのまま国民に還元している状態で、国王や王太子が私財をなげうっている。側近たちは給料も受け取らずに働いている状態だと言う。


「う、そ………」


令嬢は酷くショックを受けた様子で、目を見開いたまま動かない。


「事態は最悪と言っても良いでしょう。世界が壊れる前に、隣国が滅びるかもしれない。事情を知る周りの方々は必死にお金を工面しようと動いています。しかし、それにも限界があります。前代未聞ですが、巫女のことは、そろそろ見放されてもおかしくはありません」


「だけれど、国が滅びれば、世界がなくなれば、巫女だって………」

―――――――死ぬのでしょう?


令嬢の問いに、リエナは静かに首を振った。


「巫女には、神の加護があります。それがある限り、どんな事態に陥っても、死にません」


本当は、救済に失敗した時点で巫女ではなくなるのでこの世界の住人と同じ運命を背負っているわけだが、その事実を知るものはいない。普通、巫女は知っているはずだが、彼女は知らずに安穏と暮らしているのだろう。本当に幸せな思考回路をもっているものだ。


「では、なぜ誰も止めないの?」


「隣国では、巫女の意志を最優先とするきまりが存在します」


今までの巫女はいい人ばかりだったので、その法律で困ることはなかった。だが、今回は法律を変えて対処すべきだった。


「本当に、彼の国に遣わされたことは、運が悪かったという他ありません」


巫女は神が決めたこの世界のあらゆる国に召喚される。国が勝手に召喚を行っても巫女は現れないし、反対に、召喚を拒否しても神の意志には逆らえない。基本的に巫女は恵みをもたらすものとして知られているので、召喚拒否はあり得ないが。




あれこれ白状しているうちに、皇帝がすぐこちらに来るという連絡が入った。


え、マジで来るの?

令嬢って、何者なのさ?


リエナはそれを聞いて、取り敢えず彼女の部屋を退出する。



その後は、好奇心に負け壁の向こうからこっそり聞いた会話だが。



「陛下、ようこそいらっしゃいました」


「ほう、なかなか立派になったではないか。振るまいなど、前より洗練されている」


よっしゃ!!皇帝のお墨付きを貰ったぜ!!!これで妃計画への第一歩を踏み出したぜ!!!

今までの令嬢への指導がどれだけ大変だったか………。勉強や礼儀作法などはどんどん要領よく覚えていった。一度言ったら大抵のことは理解するし、わからないところは遠慮なく質問してくる。なんて優秀な生徒なのだろう。

しかし、しかし、妃としての、上に立つ者の自覚を植えつけるのは根気がいることだった。どんな環境で育ったのかは知らないが、使用人にもへりくだるし、雇い主と雇われた側という明確な関係があるにも関わらず、指図することができない。

そんな彼女を、心を鬼にして指導してきたのだ。天使のような彼女が、泣きそうになるのを我慢して目を潤ませつつも唇を噛み締めている様子を見るとつい、許してあげそうになってしまったのは、一回二回どころではない。

その指導が報われているのだ、今。今、まさに………。


「彼との婚約がなかったら、俺の妃にしたかもしれないな」


……………………。


………………………………今、何て?


“彼との婚約がなかったら、俺の妃にしたかもな”


――――――婚約がなかったら?

どういうこと?皇帝の妃として連れてこられた訳ではないってこと?

じゃあ、何で後宮なんかに………。


「そんな冗談を言っている場合ではありません!!隣国は、今大変な状態なのでしょう?」


「なぜ、それを………どこで知った?」


「そんなこと、どうでもいいわ。巫女のせいで、国が滅びそうなのでしょう?なんで教えてくださらなかったの?」


「王太子が、あなたを慮ってのことだ」


「私の事なんて…………ただ、殿下が、大切な人が苦しんでいるのに、それを知ることもできないなんて」


王太子=大切な人?

確か、巫女の婚約の件の際に、わずかに顔を歪めていたような………?


―――――――――まじですかー!?では、妃は妃でも、皇妃でなく、王太子妃?

思わず叫びそうになり、自分の口を抑える。

危ない、今は盗聴中だった。


「王太子が、すべての危険から遠ざけるために、後宮に身を隠させたというのに。あなたには、知らないでいて欲しかった。正直、幸せな結婚をして欲しかった」


皇帝の悔いるような声が聞こえた。


てか、この令嬢が後宮にいることに、そんな裏事情があったなんて…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………私の「紫の上計画」は、破綻だーーーー!!!


何で、今回に限ってミス?当主の情報はいつも確かなのに。

魔の巣窟である後宮にそんな大事な人を閉じ込めるなんて間違っている、なんて、突っ込んでいるどころではない。


当主様の手紙の文面を思い出す。


“後宮に、新しい子が入るみたいだよ”


……………何一つ嘘のない、正確な情報でした。当主様、疑ってごめんなさい。

ただ、詳細はまったく書かれていない、曖昧にも程がある内容だったが。


「本当に、どこで知ってしまったんだ。国家機密だぞ?」


「そうなのですか?」


いや、令嬢にぺらぺら喋ったこちらがびっくりな事実だよ。


「ああ、俺と隣国の王族や重鎮以外知らない」


国家機密?そんなことまったく知らないんだけど。

…………いや、国家機密だから、知らなくて当たり前だった。うん、そうだ。その情報の重要性を知らなかったリエナに非はないはず。


「もしかして、処罰などは………」


「ああ、あなたは大丈夫だ。それを喋った人さえ教えてくれれば」


それって、脅しよね?身を保障するから、犯人を言えっていう。

喋った人=犯罪者リエナは死亡確定?


たぶん、令嬢は喋らないだろう。だって、私たちには、立派な妃になるべく二人三脚共に歩んできた長い道のりが………………。


「教育係の方です。名前は、サトナさんです」


あっさりと白状してしまった。大事な(?)教育係を売っちゃったよ、この子。

流石に国家犯罪者として追われて逃げられる自信はないんだけど。たぶん、皇帝に本気で追われたらリエナでも逃走は不可能だろう。


「彼女、すごいの。何でも知っているの」


「ほう?」


「陛下も、彼女に色々教えてもらうと良いです」


「そうか」



そうして令嬢と皇帝の対談は終了した。


あれ、お咎めなし?




皇帝は早足で執務室へと戻り、帰ってくるなり宰相に指示を出す。


「宰相、王太子の婚約者である侯爵家令嬢の教育係についての書類は」


「少し待ってください………ああ、公爵家の推薦ですね」


「…………………………」


「…………………………」


二人そろって遠い目をする。現実世界に先に戻ってきたのは宰相。


「教育係がどうかなさったのですか?」


「国家機密を令嬢に漏らしたらしい。早急に教育係について情報を洗い出せ」


「これも、嫌がらせの一つなのでしょうか?」


「知らん。………だが、国家機密と知って漏らしたのなら、いくらあの公爵家といえども看過できない問題だ」


そこまで愚かではないと信じたいが。


「その教育係とやらは、捕縛したのですか?」


「してない。そのまま泳がせておこうかと思ったが、公爵家の手の者ならばすぐに捕縛するつもりだ。近衛隊長、捕まえてこい」


近衛隊長の仕事内容が完全に変わっているが、皇帝の護衛としては特に必要とされていないので仕方がない。


「は、承知しました」



こうして、今日も王宮はリエナによってますますかき乱されていくのであった。








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