20. 「紫の上計画」始動!!
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帰ってきました、後宮。
後宮生活が長かったせいで、ここにも少しだけ愛着が湧いていたようだ。帰ってきたことに、少しだけ安心した気持ちになる自分に驚いてしまう。
………といっても、自分の部屋はもうないのだが。
部屋の壁は大破し、いつ崩れてもおかしくない状況だったし、自分の血が飛び散った部屋で過ごすのも嫌なので、里帰りの際に部屋を引き払い家具などもすべて公爵家に持って帰った。
今回の荷物は至ってシンプルだ。数着のドレスと化粧道具と生活用品。たったそれだけだ。
これには理由がある。
ずばり、「紫の上計画」のためだ。
「紫の上計画」の意味を先日教えたら、アリーが「頭のおかしな皇帝陛下にぴったりですね」と言っていた。アレですね。光源氏が自分好みに女の子を育て上げるというやつですね。
この場合、リエナが女の子を皇帝好みに育て上げるのだが。
「紫の上計画」の遂行にあたって、リエナはいろいろ考えた。
まず、なるべく身を隠したいということ。
できるだけ少女のそばにいて、教育的指導を行いたいということ。
現在、リエナには部屋がないということ。
………これらの状況を考慮した結果、リエナに妙案が浮かんだのだ。
住み込みで働けばいいじゃない!!!
つまり、教育する少女の部屋に侍女か教育係として住み込めば良いのだ。そうすればドレスも家具もいらないし、部屋の掃除に手間がかかることもない。
………というわけで、当主様に手を回してもらいました(当主様は万能です)。
「失礼します。今日から教育係を勤めさせていただきます、サトナと申します」
「同じく今日から勤めさせていただく、侍女のアリエです」
もちろん、偽名ですとも。里菜の読み方を変えただけ。
ちなみに、今回の変装テーマは“性格きつめの教育お姉さん”。目尻にラインを入れて、眉もキリッとしてきつめな感じに仕上げております。アリーは印象を少し変えて、ほぼそのまま。
別に皇帝や他の後宮の人にリエナの時の顔を覚えられているとは思わないが、変装が楽しくてやめられなくなっている今日この頃。
リエナにとって侍女として立ち回るのは何かと都合が悪いので、さんざん悩んだ挙句教育係を勤めることにした。
本音を言うとアリーと一緒に働いてみたかったのだが、侍女の仕事は忙しいし、場合によっては王宮内に立ち入ることもあるかもしれないので遠慮しておく。余裕がれば出来るだけ仕事を手伝うつもりではいるが、彼女付きの侍女さんは他にもいるので、それほど忙しくなることはないと予想している。
少女に向かってにっこりと微笑む。人間、第一印象が一番大事!!
「あ、こ、こちらこそよろしくお願いします!!」
頭まで下げて挨拶を返してくれた。思った以上に謙虚で純粋そうな少女だ。…それともメイクがきつすぎて怯えさせてしまっただろうか?
その少女は思った以上に容姿は可憐で、柔らかな金色の髪と透き通った宝石のような青の瞳は美しい。大人しく優しげな印象で、見ているだけで癒される。………まさに天使。
………やばい、皇帝にあげるのは勿体なくなってきた。
この少女は、由緒正しい侯爵家の出身で、皇帝の正妃になるにも十分な地位を持っている。
趣味は音楽を奏でることだというが、実力の程は知らない。もしそこそこの腕前を持つならば、芸術に興味のある陛下はたいそう喜ぶだろう。
教養のほうは、政治的分野に疎いものの、基本的なことは学んでいるというから、何とかなるだろう。
侯爵家たるもの、もちろん礼儀作法は修めている。
ただ、文句を言うとするならば、彼女の謙虚すぎる態度。
奥ゆかしい女性が好きな皇帝は一発で落とせそうだが、妃としての態度としてはもう少しどっしり構えていても良いくらいで、及第点とは言い難い。
――――――――――――ナナを好きになったという皇帝に対して、どうして諦めないのか?
それは、どうしても皇帝に妥協している点があるようでならないからだ。
性格の悪い令嬢と性格の良い庶民を妃に仕立て上げるとしたら庶民の方がマシだったというだけの話で、理想を言えば性格も妃としての振る舞いも完璧な貴族の令嬢(そんな人は滅多にいないが)が良いに違いないのだ。
「そんなわけで、お嬢様には妃として完璧に振る舞えるようになっていただきますね」
「はい!!」
こうして、リエナの住み込み生活がスタートした。
令嬢は素直で勤勉だったので、みるみるうちに知識を吸収していった。貴族の子女の一般教養を少し発展させたものから、政治、経済といった男性しか学ばないような分野まで、幅広く。
最初は詰めに詰めていた授業時間も、徐々に空きが出てきた。
リエナは空き時間をすべて書庫での資料探しに費やし、幸福な毎日を送っていた。
「ん〜、今日も幸せね」
リエナはあてがわれた使用人部屋で優雅に紅茶を飲みながら大量の本を読み漁っていた。狭い使用人部屋には足の踏み場もないほど本が置かれ、どれもリエナの背の高さくらいまで積み上がっている。興味のある分野から適当に持ってきたのだが、どれもなかなかに面白い。
わからない箇所があったら関連の本をすぐに探せるので書庫に一日中籠って読むのも良いが、誰にも邪魔されず本を読めるのも素敵だ。
え?こんな大量の本をどうやって持ってきたか?
「お妃様が読書をしたいとおっしゃってます」とかいい加減なことを言うと、書庫の者が運ぶのを手伝ってくれたのだ。後宮で書物を利用したりする人は非常に少ないため、たいそう喜んでくれ、自ら手伝うと申し出たのだ。
うん、腐りきった後宮内ではなかなかに珍しい人種だ。
「………………ん?」
魔法関連の本を読んでいると、面白いものを見つけた。
時空間魔法:時間、空間に干渉する魔法。並外れた魔力と繊細な魔法技術を必要とするため、使えるものは召喚された巫女以外にいない。
“使えるものは召喚された巫女以外にいない”のところに横線が引かれ、“第47代皇帝陛下は使用可能”と書いてある。………今の皇帝のことか。
まあ、あんだけの魔力持っていればね〜。
正直、初めて皇帝を見たとき、その魔力の大きさに驚いた。もちろん、その顔立ちも政治能力も人並外れたものであるが、彼の魔力は、通常この世界の住民が持てる量ではなかった。
よほど神に愛されているのか。………おそらくは、神に遣わされたと言われる巫女以上に。
“巫女は、世界を救った後その力を失う”
――――――――――――――そう、どこかで読んだ本に書いてあった。
巫女が神の恩恵を受けることができるのは、世界を救うまでの間だけ。世界を救った後は、自分で生きていくしかないのだ。大半は継続して国に保護されるか、優れた容姿と優しい性格で高貴な男性を射止めて、とても恵まれた生活を手に入れている。しかし、わずかだが質素な生活で一生を終えたものや、命を落とす者もいる。
巫女の恩恵は、この世界を救うことを対価に莫大な能力を、一定期間だけ持つことを許されるのみ――――――――――いわば、命の危険と引き換えに期限付きで能力を手に入れているだけに過ぎないのだ。
だが、彼の場合対価を払っている様子はない。
何か、これからの人生で彼の対価となりうるものが現れるのだろうか。それとも、人が持つには大きすぎる魔力によって苦しみ続ける人生こそが対価なのか。
まあ、どちらにせよ神が決めた運命を変えられる訳がないので、答えを探すだけ無駄だが。
―――――――――――もしかしたら、リエナが家に帰れないことも、神の意志なのだろうか。
とにかく、彼は巫女より強いのである。力だけ見れば巫女の方が上かもしれないが、彼が長年培ってきた魔法技術に、初心者の巫女が敵うわけがないのだ。
何が言いたいかというと、もし最終的に帰る方法がわからない場合、皇帝に助力を仰ぐという選択肢も考えておかなければならないということだ。地球が違う空間にあるという可能性もあり得なくはないから。
しかし、さんざん皇帝を欺き利用してきておいて、いまさら皇帝に借りを作るのはごめん被りたいので、そうならないうちに帰還方法をさっさと見つけてしまおう。
さて、明日の授業も頑張ろう!!
「さて、お嬢様はこの短期間でかなり学ばれましたが、妃になるにはまだまだ民のために学ばなければなりません。妃にとって、自ら学ぶ姿勢が大事になります」
「はい」
「もう基本的なことは一通りお教えしたのですが、何か学びたい内容はございますか?」
「あ、の………巫女様のことについて」
おずおずと消え入りそうな声で言ったことは、リエナにとってあまり触れたくない話題だった。この前それで面倒ごとに巻き込まれたばかりだ。
「………一般的な知識としては、巫女はこの世界を救う存在で、莫大な力を有しています。その力は神より与えられしもので…」
「あ………その、今の巫女様のことが知りたい、です」
彼女にしては思い切って人の話を遮った。その行動にリエナは目を見開く。
彼女は、何かどうしても聞きたいことがあるのだろう。リエナが彼女の反応に対して不機嫌な態度を見せて(きつめのお姉さん設定ナので)も、彼女は食い下がる。
「―――――――今の巫女様のお名前はレイカ・マシロといい、たいそう美しい方だそうです。歴代の巫女様と同じように優れた力をもっていらっしゃいます」
リエナはしぶしぶ口を開いた。
「仕事としては、パーティへの出席が多く、貴族や王族の方とも親しくされているようです。また、孤児院への訪問や町の視察なども行われているようです」
言い換えれば、金をかけて着飾り、自分より弱い者を見て優越感に浸り、町に出ては大量の物を買い漁り、自由奔放な生活をしているとも言える。
そんなこと人前では言わないが。
「そういえば、かの国の王太子とは婚約をしているという噂がありますね」
その言葉に、令嬢の顔がわずかにくもったような気がした。
「巫女様は評判も良く、公務にも積極的でいらっしるようですね。ただ………今までの巫女様と比べると、世界の救済は遅れていると言われております」
早く対処すれば、巫女の危険も負担も少なくて済む。時がたてば経つほど救済は困難を極める。
「どうして急がないの?」
彼女が首を傾げて聞いてくる。この可愛さはやはり罪だ。
「お城での生活に満足し、巫女としての役割を失っているからだとか。安全に守られているせいで、危機感をまったく持っていらっしゃいません」
どこかで聞いたような口ぶりで語っているが、これは知る人ぞ知る極秘情報だ。世界を混乱に陥れることがないように、隣国のトップによって情報が隠されているのだ。
「では、この世界は、滅びる、と………?」
不安げに瞳が揺れる。
「そんなわけがないでしょう。神はきちんと私たちを救ってくださいますよ」
そんなことを言っても、少しも不安は拭えないだろう。世界の危機に対して冷静でいられるかと言われれば、否。
しかし、妃となる(予定の)彼女には、この状況を知っておいて欲しいと思ったのだ。
――――――――――――――――それは、誰にとっても受け止めることの難しい内容だったが。
彼女は、この事実を知ってもなお、強く生きられるだろうか。
令嬢はそれきり押し黙り、ドレスの裾を掴んだまま顔を上げることもなかった。授業は終了し、落ち込んだ様子の彼女をそのままに、リエナは部屋をあとにした。
今まで名前の出てきた人物………リエナ(主人公)、アリー(侍女)、カレン・サノウ(巫女)
名前が出てきてない人たち………皇帝、宰相、公爵家の一家(当主、奥様、息子)、近衛隊長、公爵家令嬢(今回初登場)、ギルドのマスター、ナナを誘拐した男、後宮の令嬢たち、隣国の王太子
――――――――――――――――――――――――アレ?オカシイナ?