19. お別れは衝撃の事実と共に
すみませんんんんん!!!!
三日間も投稿するのを忘れていました!
今回はナツからリエナにちぇんじ!する間の繋ぎのようなものなので、さらっと読み流しちゃってください。
ふふふ〜。嬉しいな〜。
リエナはご機嫌だった。
何故ご機嫌かというと――――――――――今日で、皇帝の護衛の仕事が終了するのだ。これほど嬉しいことがあろうか。
リエナの嬉しいことランキングはというと………1位 地球へ帰る、2位 皇帝に関わらない、3位 大金を儲ける………の順番だ。
ナツの変装をして、持ち物の準備をする。………といっても、普段持ち歩くものと言えばわずかなお金と武器、それと負傷時の手当てや解毒に使う薬くらいなのだが。
誘拐事件の結末がどうなったかというと、彼をギルドに引き渡して大金が儲かったというわけだ。それだけ。
え?なぜ皇帝にナナだとバレなかったか?
………戦闘時には、普段着の下に来ている戦闘衣に着替えるからですね。
メイクは薄めといっても、顔立ちがこちらの国の人に見えるくらいには顔を変えているからですね。
……………………戦闘衣に着替えて、髪の色戻して、すっぴんになれば、別人のでき上がり。
武器の確認をしながら、やっと仕事も終わるわね、とリエナが何気なく言うと。
「リエナ様、もう少しで後宮に戻られるのですよねぇ」
もう少しお家でゆっくりしたかったです、とアリーが呟く。
そうか、あの魔の巣窟と言える場所に戻らなければならないのか。傭兵の仕事が終わることばかり考えていて、すっかり失念していた。
「死んだことになっているから、とりあえず夜会の出席については考えなくていいわね」
夜会用のドレスを仕立てる必要もないし、あの完成させた厚塗り化粧をする必要もない。
ただ、最も考慮しなければならないことは――――――――。
「皇帝に、生きているのがバレたら、まずいわよね………」
こんな地味顔覚えているとも限らないが、万一記憶の片隅に残っているとしたら、地球帰還までに発見される可能性は無きにしもあらずだ。
皇帝のお渡りと、後宮内での鉢合わせは避けたい。だからといって、夜会の準備が要らないぶん、空いた時間を有効に使いたい。
………………誰かに寵愛が向けば良いのに。
そうすれば、リエナは後宮内を好き勝手に闊歩できるし、女の醜い欲で汚れた後宮はさっぱりするだろう。
というか、皇帝には好きな人を作って欲しいと純粋に思っている。ナツとして過ごしてきて、少しだけ情がわいたのは事実だ。
既に後宮に入っている令嬢たちが皇帝のお眼鏡にかなうことはないだろう。令嬢たちが皇帝の理想を熟知し、誘惑をしたのは有名な事件となっている。
………とすると、新入りに期待するしかないか。
そういえば、当主の情報によると新しい子が入るって言ってたっけ。何でも年は17、非常に純粋な娘らしい。
――――――――――これって、利用価値アリ?
よし、新しい作戦は「紫の上計画」だ!!!
礼儀作法から教養まで、皇帝の理想の女性に仕立てあげてみせようではないか!!
そうと決まれば、新しい計画書を作成しなければ。
リエナは上機嫌で家を出ていった。
さて、今日は最後の日なので気合いを入れて仕事(+リエナ・リサーチに使う情報収集)をしようと思ったのだが………。
なんなの、この雰囲気は?
執務室全体に、暗い雰囲気がただよっていた。
「なんですか、この雰囲気は」
思わず口に出してしまっていた。
皇帝と宰相はかろうじて仕事に取り組んでいるものの、その顔からは精気が感じられない。
「皇帝陛下ー、宰相さまー、生きてますかー」
せっかく情報収集を頑張ろうと思っていたのに、こんな状態では何も聞き出せないではないか。
「最後の日に、こんな暗いまま別れるのは、イヤだな………」
ぽつりと呟いただけなのに、二人はいきなり背筋を伸ばし、ペンを動かし書類を猛スピードで片付け始めた。もしかして、聞こえてた?
そして、午前中にはすべて仕事を終わらせてしまった。二人は終わるなり席を立ち、こちらに迫ってきた。
「「ナツ、やめないで欲しい!!!」」
見事に声がそろった。それはもう、見事なまでに息がぴったり合っていた。
「えと、前々から決まっていた仕事があるので………」
「金は出す!!ナツがその仕事をやめたことで不都合があるなら、何でもするから!!!」
「そうです。私たちはナツの実力を買っているんです。ぜひともずっと働いて欲しいのです。出来れば正規雇用で!!!」
――――――宰相、あなたそんなに熱いキャラでしたか?
困った顔をするナツに、皇帝が確認するように尋ねる。
「この仕事が嫌いなわけではないのだろう?」
その聞き方はズルいのではないか。短期就労でこんなに良い報酬を与えられ、たかが傭兵には十分すぎるくらいに厚遇された。嫌いなはずはない。
「嫌いではありません、ですが………。」
「が?」
皇帝が続きを促すようにこちらを見つめる。
「次の仕事は自分の意志で決め、やり遂げたいと思ったことなので、譲れません」
自分、よく言った!!
嘘は言っていない。後宮での情報収集は自分でやると決め、やり遂げて地球への帰還を望んでいる。リエナにとって還ることが最優先事項であり、絶対に譲れない。
「その仕事はいつ終わる?」
「(地球に帰るまで)永久に終わりませんね」
「では、休業は?」
「基本的にはないですが、休暇をとろうと思えばとれます」
その瞬間、二人が目を輝かせた。美しい容貌に満面の笑みを浮かべる。
「では、仕事でなくても構わないので是非とも顔を見せに来てください」
「それでは気が引けるので、仕事としてこちらに来ますね」
今でも一緒にお茶したり食事をご馳走になったりと十分な待遇であるのに、客としてもてなされたら、どうなるか分かったものではない。
「――――――――――――ただし、条件があります」
心の中でほくそ笑む。
これがないとリエナの後宮生活は終わるのだ。
「後宮廃止を撤回してください」
「は?」
「………………今、何と言いました?」
二人は目が点になっている。今日はやけに表情が豊かだ。どうかしたのだろうか?禁止薬物にでも手を出したか?
「後宮廃止を撤回して欲しいと」
ナツは続けて語る。
「皇帝陛下には、幸せになって欲しいのです。支え合い、どんなことも分かち合える女性と廻り会って欲しい………そう、思っています。後宮をなくしてしまえば、陛下は女性と接する場を失ってしまいます」
後宮廃止を止められる明確な根拠など持っていないし用意する時間もないので、論理で説き伏せられるとは思わない。だから、感情に訴えてみた。
「ナツ………」
皇帝は予想以上に感動した様子で、ナツの両肩に手をおいた。
「その心配はない。俺は今、意中の女性がいるからな」
―――――――――――――――今、何か幻聴が聞こえたような。
「こんな感情は始めてなんだ。必ず彼女を振り向かせてみせる」
ちょっと待て。そのタイミングで好きな女性ができたら、後宮廃止は免れないではないか。
「お相手は、後宮の方ですよね?」
ですよね、と尋ねてしまった時点で自分の願望が詰まっている。
「いや、違うが」
リエナの心の声に気付くことなく、皇帝は当然だと言わんばかりに答えた。
それはそうだ。今まで後宮をあれだけ毛嫌いしていたのに、今さら惚れるわけがない。
「ちなみに、どのような方ですか」
高い教養、礼儀作法から考えて貴族の女性かと思ったが、そんなはずはない。だって、貴族の女性のほとんどが後宮に入ってますから。
「平民で、優しくて強い心を持った人だ」
あれ?礼儀作法は?教養は?リーダーシップとやらは?
「俺は、気づいたんだ。教養などはいつでも身に付けられるが、歪んだ性格は正しようがない…とな」
それは、ごもっともです。
「だから、彼女への想いが叶わなくても、平民から選ぼうと」
ナツの心には容赦なく氷の刃が突き刺さる。
嘘だーーーーーーーーー!!
皇帝陛下は、根本から後宮の必要性をなくしやがりました。
「名前は、ナナという」
とどめが刺された。ナツは今、立ち上がれそうにない。
町娘衣装、二度と使えないな………。
ナナのキャラ、結構気に入っていたのに。
まだ、一回しか使ってないキャラなのに。
「まあ、後宮に関してはまだ当分なにもしない」
「本当ですか!?」
思わず本気で喜んでしまった。皇帝は引き気味だ。
「ああ、色々仕事が立て込んでいてな」
最近、そんなに忙しかったっけ?
公爵家の方からもそんな情報は入っていないし、リエナ自身も聞いた覚えがない。
「仕事って?」
皇帝のスケジュールは、ものすごく役に立つ。忙しい時は好き放題動けるから。遠征なんてあったら、毎日天国だ。
「まあ、いろいろな………」
ナツが聞いたら大抵のことは答えてくれる皇帝が、珍しく言葉を濁した。宰相もなぜか遠い目をしている。
万が一国家機密ならナツも聞くわけにはいかないので、これ以上言及するのはやめておいた。どうせ公爵家当主に聞けば知っているだろうし。
「まあ、またナツが会いに来てくれるなら安心です」
「そうだな。それから、後宮に想い人がいるなら協力してやるからな、ナツ」
皇帝陛下は全て分かっている、という風にナツの肩をぽんと叩いた。
「………………へ?」
何だかとんでもない話になってきた。だが、その方が都合が良い気がするので放っておこう。
その後………。
「そういえば、後宮廃止なんて忘れていたな」
「そうですね最近忙しすぎて、後宮なんて存在すら忘れていました」
忘れてたんなら言い出すんじゃなかった…………。