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10. この状況は身に覚えがあります

長期護衛を任されることになったリエナは王宮に行くはめになっていた。


うっわ〜、自分で引き受けたとはいえ面倒臭い。


ギルドのマスターには、依頼を受ける代わりにギルドにおいてのさらなる優遇の約束をきっちりと取り付けてきた。




さて、皇帝陛下の護衛を始めたわけだが………正直に、言おう。

……………………楽しくて、仕方がない。


一日中皇帝に張り付いているせいで、皇帝のすべてがわかる。この情報は、リエナ・リサーチに書き込むしかない!!!

後宮を抜け出して危険を犯しながら皇帝の観察に行くよりは、はるかに良い。護衛という立場を利用すれば、どんなに側で観察していても文句は言われない。


大いにリエナの打倒!皇帝計画に利用させて貰うつもりで、彼の一挙手一投足を凝視する。


そんなリエナを皇帝は不審に思ったらしい。


「何故、そんなに見つめている?」


「いえ、畏れ多くも皇帝陛下のお側にいる機会なんてないので、しっかり目に焼き付けておこうと」


嘘は言っていない。皇帝陛下のお側で、(リエナ・リサーチに有用な情報を)目に焼き付けようと思ったのは、事実だ。


そうすると、皇帝はふっと頬を緩めて笑う。


「良ければ、ずっと雇ってやるが?」


「それは都合上できませんので……」


そう、傭兵ナツの都合ではなく、後宮に戻るリエナの都合上無理だ。


「そうか、残念だな。お前のことを気に入っているのに」


皇帝は本当に残念そうに呟く。


「そういうことは、女性に仰られた方が喜ばれますのに」


軽〜く冗談のつもりで言ったつもりだったが……。


皇帝を不快にさせてしまったようだ。

「女は嫌いだ」と呟く皇帝の顔には、女性に対する嫌悪と侮蔑の表情が浮かんでいる。


そういえば、皇帝は何故女性を嫌うのか聞いた(盗聴した)ことがなかった。リエナ・リサーチのためにもこの情報は重要だ。


「陛下はなぜ、それほどまでに女性を厭っていらっしゃるのですか?」


「俺は皇帝だ。負担になるだけの妃なんて必要ないと思わないか?」


それでは嫌いな説明になりません………とは言えず、皇帝を見つめる。


「でも、それでは心が休まる時がございません。妾くらい側に置いて癒されてもいいと思います」


リエナの心の安らぎ(皇帝と顔を合わせなくてもいい)のためにも、特定の女性を作って欲しい思ったのだが………。


「女では気が休まらない。いつ殺されるか、夜這いされるかわかったものではないからな。隙を見せられない中で癒されはしない」


そういうことらしい。どれだけ腹黒くても、見た目さえ可愛ければ癒されるリエナとは違うらしい。


「正妃であった俺の母は、早くに亡くなってな。正妃の座を欲する側妃に命を狙われ続けたせいか、未だに女を受け入れられない」


なるほど………トラウマってことか。


うむうむと一人納得するリエナ。案外、皇帝の女嫌いは根深いようだが、正直なところ、理由が普通すぎてつまらなかった。これでは、リエナ・リサーチに使えない………。


「さて、この話はおしまいだ。そろそろ休憩にしよう」


そう言ってペンを置くと、執務机からソファへと移動する。


「あ、俺がお茶を淹れます」


リエナは自らティーセットを用意し、紅茶を淹れた。良い香りが執務室に広がった。

茶菓子は侍女さんが持ってきてくれたようで、紅茶と一緒に並べた。


「お前、上手だな。すごく美味しいぞ」


「ありがとうございます」


やった!!皇帝に認めさせたぜ!!

実はこれ、公爵家の奥様から習ったものだった。紅茶を淹れる手順から、茶葉を蒸らす時間など丁寧に教えてもらったのだ。

「旦那様の紅茶くらい、自分で淹れたいと思わない?」と語る奥様は、時折家族にも紅茶を淹れてくれていた。そのせいでリエナの舌は、生半可な紅茶では受け付けなくなっている。


「おや、良い香りがしますね」


入室してきたのは宰相だった。仕事で部屋を出ていたのだが、戻ってきたらしい。


「宰相か。お前もどうだ?ナツの淹れた紅茶はうまいぞ」


「頂きます」


宰相は紅茶を口に含んだ瞬間、驚いた顔をする。


「これは………美味ですね。完璧に紅茶の味と香りを引き出している」


そこまでお褒めいただけるとは光栄だ。たかが紅茶のことだが。


「陛下、ナツを正式に雇用することを打診しましょう」


……………………は?

冗談かと思ったが、宰相は大真面目なようだ。

皇帝が「宰相は紅茶が好きだからな」と笑いながら教えてくれたが、それにしても皇帝の側に置く者をそんな簡単に選んで良いとは思えないのだが。


「傭兵に心を許してはいけませんよ」


リエナは二人にさりげなく諭したが………。


「陛下は貴方をきっちりと見てから選んでいますよ。仮にも皇帝ですから、信用できない者を側に置くような馬鹿な真似はしませんよ」


そう、宰相に反論されてしまった。


「そんなことを俺たちに忠告する時点でナツは良い奴過ぎる」


陛下に笑われてしまった。


「ですが、傭兵は金を積まれれば、どんな手汚い仕事でもやってのけます。善良な騎士様とは全く違うのですよ?」


「でも、ナツは違うのでしょう?」


宰相が問う。


「そんなわけ………」

――――――――そんなわけ、ない。

今だって、ナツという立場を利用してリエナ・リサーチに使える情報を集めている。


「俺が認めたんだから、変な奴を選んだら俺の責任だ」


そう言いながら、皇帝は茶菓子を摘まんで口に運ぼうとした。


―――――――あ。


「陛下、それは毒入りです!!」


思わず叫んでいた。

リエナは必死だったのだが、皇帝を見ると笑みを浮かべていた。


「ほら、ナツはこうやって俺のことを心配してくれるだろう?」


毒味に関しては任務外だ。ナツがそれを指摘しなくて皇帝が倒れたとしても、責任を問われることはない。皇帝は、ナツが毒入り茶菓子の存在に気づいた上でどうするか伺っていたようだ。


「それに、プライベートのことを語ったのも、俺がナツを全面的に信頼しているからに他ならない」


「そこまで信用していただけて光栄です」


皇帝に試されていたことに不機嫌になりつつも取り敢えず、そう返しておいた。


「では、ナツを正式にここで雇うか」


「良いかもしれませんね。私は歓迎しますよ。彼は護衛もできますし、紅茶も淹れられる」


「毒味もできるようだしな」


と皇帝が付け加える。


これはまずいかもしれない。

なんか、後宮にいた時と何ら変わらない状況に陥っているような…………特に、自分の意思とは逆に物事が進んでいくあたりが。


リエナは嫌な予感がして仕方がなかった。




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