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9. なんでこうなる!?

ついに皇帝の護衛に向かう時が来た。


リエナはいつものウィッグを外し、短い黒髪を金髪に染めていた……念には念を入れて眉も丁寧に染めた。さらに、魔力の質からリエナと特定されないために、魔力を完全に封じた。

魔力というのは誰にでも備わっているものであり、たとえ微量だとしても魔力の才に恵まれた皇帝が気付かないはずはないのだ。


指定された場所に行くと、既に準備を整えた皇帝が。


いつ見てもキラキラしているなぁ。


そんな感想を抱きながら皇帝の顔を見ると、不機嫌そうな様子が伺えた。……何故?


「お前がギルドから派遣された者か?」


「はい、ナツと申します。よろしくお願いします」


ナツとは、ギルドで使っている名前である。ギルドでは、ギルドだけで使う名前を持っている者も多い。

公爵家の皆にもとっくに忘れられているであろう、夏川里菜という本名からナツにしたのだ。希望としては、男と勘違いして欲しいのだが。


「身分証明を」


リエナはギルドの身分証明を見せた。ギルドの身分証明は名前とランクが書かれている。


「ふん……やはりな。残念ながら、お前には帰って貰う」


皇帝の顔は厳しいものだった。

意味がわからずリエナが突っ立っていると、皇帝が理由を語り出した。


「俺が依頼したのは上位ランクの者だ。身分証明を見せてもらったのは、お前みたいな少年が上位ランクのはずがないと思ったからだ」


あ、そういうことか〜。てか、男装大作戦大成功。


不機嫌である理由がわかった。つまり、皇帝は、要求したよりも実力の低い傭兵をよこされたことに怒っているのだ。相応の金を払っているのだから、相応の腕の者をよこせ、ということだ。リエナだって、そんなことをされたら怒るに違いない。

だが、ここで引き下がるわけにはいかない。これを成功させれば、リエナは仕事の優遇が約束される。


「私を選んだのは、マスターです」


リエナはそう言い放った。

つまりは、他でもないギルドの最高権力者が選んだのだから、実力がないはずがないということを言いたいのだ。マスターはギルドを取り仕切っているだけでなく、傭兵として最強の実力を持っている。普段は傭兵として働いてはいないが。


さて、これで皇帝も認めざるをえないだろう。自分の言ったことは、皇帝に対して非常に無礼な態度だとわかっている。しかし、ここまで言わなければ皇帝を納得させることはできない。


「……わかった。だが、実力がないと判断した時点で帰らせるからな」


皇帝がしぶしぶといった感じで頷いた。




今日は、商業都市の視察に行くとかで、日帰りの予定だ。そうでないとリエナは引き受けない。長期依頼は絶対に受けない。


護衛なのになぜか馬車の中に同行し、皇帝の傍に控えている。


「あの、外を見張らなくてよろしいのでしょうか」


「守りの要はお前だ。俺から離れていたのでは、いざという時間に合わないだろう」


リエナが問うと、皇帝は親切にも答えてくれた。女性への態度とは大違いだな、おい!!とツッコミたくなるが、押しとどめる。


先程の答えに、なるほど、と思う。今の皇帝の護衛は、公爵家のせいで役立たずだ。その者たちを身辺に配置して、リエナを見張りの一人として外に配置しても意味がないわけだ。


こういう時は正常に頭が働くのに、女性のことになるとなんであんな馬鹿なのかな〜。


失礼だがもっともなことをリエナが考えていると、どうやら敵が来たようだ。

リエナは皇帝の前に立ち、ナイフを構えて敵を待つ。護衛対象の位置を正確に確認しようと振り向くと、あろうことか皇帝も武器を構えている。


「陛下はお下がりください!!」


リエナが叫ぶが、皇帝は聞く耳を持たない。


「これでも腕は立つ」


くっ……このままでは、戦えない――――訳はない。リエナ・リサーチのおかげで、皇帝の行動なんてとっくに予測済みだ。


さ、て、と〜。どの作戦で行こうかな。


リエナは敵の位置を確認する。屋根の上に一人、両サイドに一人ずつ。

皇帝の行動も手にとるようにわかるが、暗殺者の行動も簡単にわかる。


……だって、うちの暗殺者だもん。


これらは確実に公爵家当主が放った者たちだ。皇帝に対する嫌がらせは、まだ続いていたらしい。

それにしても、さすがにうちの者を殺すわけにはいかない。そんなことがバレた父に怒られることは明白だ。


リエナはナイフを2本ずつ交差させるように両脇に投げた。だが、暗殺者たちはナイフを易々と避ける。ナイフは背後の木に刺さった。


「罠に引っかかったね」(一応少年口調を装う)


リエナの声に暗殺者たちは慌ててその場を動こうとする。


「無駄だよ」


リエナが言うと、暗殺者の腕が突然朱に染まる。

実は、ナイフの柄からは殺傷能力の高いワイヤーが伸びていたのだ。そんなものすぐにわかりそうだが、よく見ないと視認は難しいという厄介な代物だ。木に縫い止められぴんと張ったそれは、人を傷つけるのには充分だった。


2人の相手をしている間に、皇帝の方にもう一人が迫っていた。リエナは身を翻し、皇帝と暗殺者の間に滑り込む。


キン、と金属の触れ合う音が響いた。

力で押してくる暗殺者の剣を、リエナは振り払う。


「ぐっ」


暗殺者が呻き声を上げる。

リエナのワイヤーが当たったのだ。


「おい、後ろ!!」


皇帝が声をあげるので振り返ると、先程の2人が武器を持ってリエナに襲いかかろうとしていた。


しかし―――――。


「甘いね」


暗殺者は、その場でくずおれた。

ワイヤーには、痺れ薬が塗ってあったのだ。


ふふっ、作戦成功〜。


暗殺者は全員動けなくなっていた。だが、ほとんど傷を付けぬまま捕縛することができた。あれくらいの怪我なら仕事に復帰するのに時間はかからないだろう。


こうして、暗殺者の襲撃を見事に防いだのだった。




再び、馬車は目的地に向かって走り出した。


しーん。


馬車の中には沈黙が広がっていた。

一番身分の高い皇帝が喋らないのだから、自然と静かになる。襲撃の前までよく喋っていたのにどうしたものか、と思わなくもないが、悩んでも仕方がないので放っておいた。


「おい……お前、聞こえているか?」


襲撃者に備え完全に外へ意識を向けていると、皇帝の方から唐突に声をかけてきた。

何だろう、と訝しく思いながらそちらに視線を向ける。

すると、皇帝は予測不可能な行動に出た。


「実力を疑ったりしてすまなかった」


一瞬、何を言われたのか理解できなかった。


謝った。誰が?―――――――――皇帝が。


「その、おやめください。皇帝陛下が謝罪するなんて―――――」


「いや、依頼者として、派遣された者の実力を疑うなど最低の行為だ」


リエナは慌てていた。今までにない皇帝の一面に驚くばかりで、いつもの冷静さなんて失いかけていた。

皇帝が、貴族の女性以外に対してなら理不尽な態度を取らないことは知っている。だが、後宮の女としてしか皇帝と接する機会がないリエナにとっては驚きだった。


「私たち傭兵は、依頼された仕事は必ず成し遂げます。自分の実力に少なからず自負を持っているからこそ、私も貴方に対して失礼とも言える態度を取ってしまいました。こちらこそ、申し訳ありませんでした」


私も素直に謝った。

あちらが真摯な態度を見せるなら、こちらもそれを返す。


まあ、後宮での嫌がらせは事情が違うけどね〜。


「ナツは、素晴らしいな。実力もあるし、とても誠実だ」


「そんな、勿体ないお言葉でございます」


心にもないことを言ってみる。政治手腕は凄いと思うが、皇帝に皇族としての敬意は欠片も抱いていない。


「謙遜するな。俺はお前を気に入った。これからも頼むぞ、ナツ」


自分を評価してくれるのは純粋に嬉しい。例え、それが後宮では間違いなくリエナの敵となる皇帝であろうとも。


って、え――――――――――これから?


リエナの頭に嫌な予感がよぎった。




このあと、案の定ギルドのマスターから長期間の皇帝の護衛を頼まれることになった。


せっかくの里帰りがあぁぁぁ――――。






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