第8話
この物語は、一本の桜の木の下から始まります。
町から少し離れた丘の上に立つ、大きな桜の木。
昼は静かで、ほとんど人の訪れない場所ですが、夜になると、なぜか悩みを抱えた人たちがこの場所へやって来ます。
そこには、夜に人の話を聞く猫耳の少女「ルナ」と、昼に困っている人を助ける犬耳の少年「ソラ」がいます。
桜の花びらは、人の心にそっと寄り添うように舞い、時には感情を映すように散っていきます。
静かな時間の中で生まれる、小さな物語をゆっくり楽しんでいただけたら嬉しいです。
第八話「前の番人の言葉」
昼の桜は
静かな風の中で揺れていました。
ソラは桜の木の幹に
寄りかかっていました。
さっきの男性は
少し軽い顔で帰っていきました。
サクラは桜を見上げています。
花びらが
ゆっくり落ちました。
ソラは言いました。
「すごいな」
サクラは聞きました。
「なにが?」
ソラは桜を指しました。
「この木」
「本当に気持ち分かる」
サクラは少し笑いました。
「うん」
それから
桜の幹に触れました。
「おじいちゃんが言ってた」
ソラは振り向きます。
「なんて?」
サクラは空を見上げました。
「この桜ね」
「人の心を守る木なんだって」
風が吹きました。
桜の枝が
静かに揺れました。
サクラは続けました。
「昔ね」
「ここ」
「もっと人が来てた」
ソラは想像しました。
桜の下に
たくさんの人。
笑ったり
泣いたり。
サクラは言いました。
「おじいちゃん」
「ずっとここに座ってた」
そして人が来ると
「どうぞ」
って言ってた。
ソラは笑いました。
「ルナと同じだ」
サクラもうなずきます。
「うん」
それから少し
静かになりました。
サクラは言いました。
「でも」
「最後は」
少し寂しそうな声でした。
「誰も来なくなった」
ソラは驚きました。
「え?」
サクラは桜の幹を
なでました。
「みんな」
「本当のこと言えなくなった」
風が止まりました。
桜の枝が
少しだけ揺れました。
そのとき。
花びらが
一枚だけ落ちました。
まるで桜が
「そうだった」
と思い出しているみたいでした。
ソラは桜を見上げました。
そして言いました。
「でもさ」
サクラが聞きます。
「なに?」
ソラは笑いました。
「今は違う」
サクラは少し驚きました。
ソラは言いました。
「また人来てる」
サクラは桜を見上げました。
風が吹きました。
花びらが
ゆっくり舞いました。
まるで桜が
「そうだね」
と答えているみたいでした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
「桜の木のふたり」は、桜の木の下で生まれる小さな出来事や、人の気持ちに寄り添う時間を描いた物語です。
満開の桜だけでなく、散る花びらや季節の移り変わりとともに、ルナとソラの日常や、訪れる人たちの物語を少しずつ描いていけたらと思っています。
もしこの桜の木の下の時間を気に入っていただけたら、また次のお話でもお会いできたら嬉しいです。




