第5話
この物語は、一本の桜の木の下から始まります。
町から少し離れた丘の上に立つ、大きな桜の木。
昼は静かで、ほとんど人の訪れない場所ですが、夜になると、なぜか悩みを抱えた人たちがこの場所へやって来ます。
そこには、夜に人の話を聞く猫耳の少女「ルナ」と、昼に困っている人を助ける犬耳の少年「ソラ」がいます。
桜の花びらは、人の心にそっと寄り添うように舞い、時には感情を映すように散っていきます。
静かな時間の中で生まれる、小さな物語をゆっくり楽しんでいただけたら嬉しいです。
第五話「夜の番人」
夕方。
空の色が少しずつ
オレンジから青に変わっていきました。
桜の花びらが
ゆっくりと落ちています。
ソラは桜の木の下で
大きく伸びをしました。
「そろそろかな」
サクラは聞きました。
「何が?」
ソラは空を見ました。
「夜の番」
そのとき。
遠くから
ゆっくり歩いてくる人が見えました。
長い髪。
猫の耳。
サクラは小さく言いました。
「ルナ」
ルナは桜の木の下に来ると
静かに立ち止まりました。
ソラを見て
少しだけ笑いました。
「おつかれ」
ソラは手を振りました。
「今日も平和だった」
ルナはうなずきました。
そして桜の木を見上げました。
風が吹きました。
花びらが
ふわっと舞いました。
ルナは桜の幹に
そっと手を当てました。
「元気そう」
サクラが言いました。
「昼はソラ」
ルナはうなずきます。
「夜は私」
ソラは言いました。
「交代」
ルナは桜の木の下に
静かに座りました。
ソラは立ち上がります。
「じゃあまた明日」
サクラも手を振りました。
「またね」
二人が歩いていくと
夜の風が吹きました。
月がゆっくり
空に上がってきます。
ルナは一人
桜の木の下に座っていました。
そのとき。
足音が聞こえました。
ゆっくり歩いてくる
一人の女性。
少し疲れた顔。
女性は桜を見上げました。
花びらが
ふわっと落ちました。
女性は小さく言いました。
「きれい」
そのとき。
ルナは静かに隣を示しました。
「どうぞ」
女性は少し驚きました。
「え?」
ルナは微笑みました。
「ここなら」
「話していいよ」
女性は少し迷いました。
でも
ゆっくり座りました。
夜の桜は
とても静かでした。
女性はぽつりと
「私…」
と言いました。
その瞬間。
桜の花びらが
ふわっと舞いました。
ルナはうなずきました。
「うん」
それだけ。
でもそれだけで
女性は
少し安心した顔になりました。
夜の桜は
今日も
本当の気持ちを聞いていました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
「桜の木のふたり」は、桜の木の下で生まれる小さな出来事や、人の気持ちに寄り添う時間を描いた物語です。
満開の桜だけでなく、散る花びらや季節の移り変わりとともに、ルナとソラの日常や、訪れる人たちの物語を少しずつ描いていけたらと思っています。
もしこの桜の木の下の時間を気に入っていただけたら、また次のお話でもお会いできたら嬉しいです。




