第4話
この物語は、一本の桜の木の下から始まります。
町から少し離れた丘の上に立つ、大きな桜の木。
昼は静かで、ほとんど人の訪れない場所ですが、夜になると、なぜか悩みを抱えた人たちがこの場所へやって来ます。
そこには、夜に人の話を聞く猫耳の少女「ルナ」と、昼に困っている人を助ける犬耳の少年「ソラ」がいます。
桜の花びらは、人の心にそっと寄り添うように舞い、時には感情を映すように散っていきます。
静かな時間の中で生まれる、小さな物語をゆっくり楽しんでいただけたら嬉しいです。
第四話「前の番人」
昼の風が、
桜の花びらをゆっくり運んでいました。
ソラは桜の木の下に座りながら
サクラの言葉を思い出していました。
「番人…」
そのとき。
サクラは桜の幹に
そっと手を当てていました。
まるで誰かと
話しているみたいに。
ソラは聞きました。
「サクラのおじいちゃんって」
「本当にここにいたの?」
サクラはうなずきました。
「うん」
そして桜を見上げました。
「ずっとここにいたよ」
風が吹きました。
桜の枝が
静かに揺れました。
サクラは言いました。
「おじいちゃんね」
「いつもここで座ってた」
ソラと同じように。
そして人が来ると
「どうぞ」
って言ってた。
ソラは少し笑いました。
「ルナと同じだ」
サクラもうなずきます。
「うん」
それから少し静かになりました。
サクラは続けました。
「でも」
「最後は」
少しだけ声が小さくなりました。
「誰も来なくなった」
ソラは驚きました。
「え?」
サクラは桜の幹を
なでました。
「みんな」
「本当のこと言えなくなった」
風が止まりました。
桜の枝が
静かになりました。
サクラは言いました。
「おじいちゃんね」
空を見ながら
「人はね」
「本当の気持ちを言える場所がないと
苦しくなるんだ」
って言ってた。
ソラは桜を見上げました。
花びらが
一枚落ちました。
サクラは言いました。
「だから」
「この桜が必要なんだって」
そのとき。
桜の花びらが
ふわっと舞いました。
ソラは言いました。
「じゃあさ」
「またここ作ればいい」
サクラは少し驚きました。
「え?」
ソラは笑いました。
「相談所」
「桜の下の」
サクラは少し笑いました。
「いいね」
そのとき。
風が吹きました。
桜の花びらが
三人のまわりに舞いました。
まるで桜が
「それでいい」
と答えているみたいでした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
「桜の木のふたり」は、桜の木の下で生まれる小さな出来事や、人の気持ちに寄り添う時間を描いた物語です。
満開の桜だけでなく、散る花びらや季節の移り変わりとともに、ルナとソラの日常や、訪れる人たちの物語を少しずつ描いていけたらと思っています。
もしこの桜の木の下の時間を気に入っていただけたら、また次のお話でもお会いできたら嬉しいです。




