第10話
この物語は、一本の桜の木の下から始まります。
町から少し離れた丘の上に立つ、大きな桜の木。
昼は静かで、ほとんど人の訪れない場所ですが、夜になると、なぜか悩みを抱えた人たちがこの場所へやって来ます。
そこには、夜に人の話を聞く猫耳の少女「ルナ」と、昼に困っている人を助ける犬耳の少年「ソラ」がいます。
桜の花びらは、人の心にそっと寄り添うように舞い、時には感情を映すように散っていきます。
静かな時間の中で生まれる、小さな物語をゆっくり楽しんでいただけたら嬉しいです。
第十話「枯れかけた桜」
朝。
ソラはいつものように
桜の木の下に来ました。
大きく伸びをします。
「おはよー」
空は青く
風もやさしい朝でした。
でも。
ソラはすぐに気づきました。
「……あれ?」
桜の枝を見上げます。
花はまだ咲いている。
でも――
元気がない。
花びらが
ほとんど落ちません。
風が吹いても
枝が重そうに揺れるだけ。
ソラは幹に触れました。
「どうした?」
そのとき。
サクラが走ってきました。
「ソラ!」
ソラは振り向きました。
「サクラ」
サクラは桜を見上げて
すぐに顔が曇りました。
「……弱ってる」
ソラは驚きました。
「え?」
サクラは桜の幹に触れました。
しばらく黙っていました。
そして言いました。
「この桜」
「悲しい」
風が止まりました。
桜の枝が
少し揺れました。
ソラは言いました。
「どうして?」
サクラは小さく答えました。
「最近」
「本当のこと言う人少ない」
ソラは思い出しました。
さっきの男性。
嘘をついていた。
桜が怒っていた。
サクラは続けました。
「この桜」
「人の本当の気持ちで元気になる」
そのとき。
花びらが
一枚だけ落ちました。
とてもゆっくり。
ソラは桜を見上げました。
「じゃあさ」
サクラが聞きます。
「なに?」
ソラは笑いました。
「聞けばいい」
サクラは少し驚きました。
ソラは桜の幹を
軽く叩きました。
「俺たちが」
風が吹きました。
桜の枝が
少し揺れました。
そのとき。
遠くから
車の音が聞こえました。
ゴー……
ソラとサクラは
同時に振り向きました。
白い車。
スーツの男の人たち。
桜の前に止まりました。
男の人が言いました。
「この木か」
ソラは首をかしげました。
「え?」
男の人は紙を見ました。
そして言いました。
「来月から工事だから」
「この桜」
少し間をあけて
「切る予定だ」
その瞬間。
バサッ
桜の枝が大きく揺れました。
花びらが
一気に舞いました。
まるで桜が
「嫌だ」
と言っているみたいでした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
「桜の木のふたり」は、桜の木の下で生まれる小さな出来事や、人の気持ちに寄り添う時間を描いた物語です。
満開の桜だけでなく、散る花びらや季節の移り変わりとともに、ルナとソラの日常や、訪れる人たちの物語を少しずつ描いていけたらと思っています。
もしこの桜の木の下の時間を気に入っていただけたら、また次のお話でもお会いできたら嬉しいです。




