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クラスごと異世界転移したモブの俺、ハズレスキル【無限収納】が覚醒したので異世界で無双します  作者: よるねこ
第一章

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第74話 久しぶりに冒険者として討伐依頼を受けてみた件


交易都市の朝は早い。


まだ通りに客足が戻る前の時間、魔王のケーキ屋の中では、昨日の営業の名残が静かに残っていた。


看板はすでに外され、店先の扉も半分だけ開いている。朝の柔らかな光が窓から差し込み、ショーケースのガラスに反射して店内を淡く照らしていた。


甘い匂いはまだ微かに残っている。


だが、それも営業中とは違う。昨日は客の列が途切れず、人の声と笑い声と、ケーキを切り分ける音が絶えなかった。


今は静かだ。


店の奥では水の音がしていた。


ユウトが洗い場で型を洗い終え、布で丁寧に水気を拭き取っている。作業台の上には昨日使った道具が整然と並べられており、すでに大半の片付けは終わっていた。


窓際ではレイナが背伸びをしている。


「営業してない日の店って、なんか変な感じですね」


マリナが苦笑した。


「昨日まであれだけ人がいたのにね」


「急に静かになると、ちょっと不思議よね」


店の空気は穏やかだった。


営業日は忙しい。朝から客が並び、昼過ぎには売り切れ、夕方には材料の計算と次の仕込みが始まる。


だが営業が終われば、こうして落ち着いた時間が流れる。


壁際で木箱を動かしていたガルドが、ふと小さく笑った。


「この仕事は安全だし、報酬も充分なんだがな」


その声に何人かが顔を上げる。


ガルドは箱を床に置き、通りの方へ目をやった。


「……冒険者のカンが鈍りそうだ」


軽い苦笑だった。


仕事への不満ではない。ただ、長く冒険者をやってきた者の実感だった。


ダインが腕を組んだまま頷く。


「うむ」


短い言葉だが、同意は明確だった。


レイナが少し驚いた顔をする。


「そんなものなんですか?」


ガルドは肩をすくめた。


「戦わなくても仕事はできる」


「危険が少ないのも、仕事としては正しい」


「だが」


少し間を置いて言う。


「体は覚えてるもんだ」


ダインが続ける。


「盾も同じだ」


「受ける感覚」


「踏ん張る足」


「間合い」


「使わなければ鈍る」


ユウトはその言葉を黙って聞いていた。


副官との訓練は厳しい。


魔王から教わるスキルの使い方も、普通の冒険者が触れることのない領域だ。


それでも――


実際の討伐とは違う。


森の空気、魔物の気配、踏み込む瞬間の判断。


そういうものは、やはり現場でしか磨かれない。


その時だった。


作業台の前で試作ケーキを見ていた魔王が、何でもない調子で言った。


「それやったら」


誰もが自然に視線を向ける。


魔王は腕を組んだまま続けた。


「次の営業日まで冒険者やってきたらどないや?」


ガルドが振り向いた。


「いいのか?」


「一応、俺たちはこの店と長期護衛契約中なんだが」


魔王はあっさり頷いた。


「かまへんよ」


「腕が鈍るとうちとしても困るし」


ガルドとダインが一瞬だけ視線を交わす。


言葉にはしない。


だが二人とも同じことを思っていた。


――魔王と副官がいる店だ。


――危険などあるはずがない。


ガルドが軽く息を吐く。


「なら」


「お言葉に甘えて」


「少し討伐依頼でも受けるか」


レイナの顔がぱっと明るくなった。


「久しぶりですね」


マリナも頷く。


「ええ、ちょうどいいかもしれないわ」


ユウトも同じ気持ちだった。


ケーキ屋の仕事は面白い。だが自分たちは冒険者でもある。


完全にそちらを止めるつもりがないなら、間を空けすぎない方がいい。


その時だった。


魔王がふと思い出したように言う。


「ただし」


ユウトが振り向く。


「ユウト」


「はい」


「新作ケーキのアイデア三個な」


ユウトの動きが止まる。


「三個はキツいですよ」


魔王は腕を組む。


「甘えたらあかん」


「ケーキ職人への道は辛く険しいもんや」


レイナが笑いを堪えている。


ユウトは半目になった。


「えっと師匠」


「スキル訓練の為のケーキ作りなのでは?」


魔王が一瞬だけ詰まる。


「……そうやで」


それから言葉を続ける。


「新作ケーキ考えたら新しい動きがあるかもしれん」


「それが新しいスキル訓練になるんや」


レイナが即座に言った。


「いや、それ今考えましたよね」


魔王は聞こえないふりをした。


ユウトは副官へ視線を向ける。


「副官さんも構いませんか?」


「日々の訓練がありますが」


副官は帳面を閉じる。


「まあ、構わないでしょう」


そして静かに続けた。


「ただし」


少し間があった。


「鈍っていたら……」


言葉はそこで終わった。


だが意味は十分だった。


ユウトは背筋を伸ばす。


「が、がんばります」


魔王が笑った。


「しっかり働いてこい」


「命が惜しかったらな」



翌朝。


交易都市の通りには、まだ朝の冷たい空気が残っていた。


石畳の上を荷車がゆっくりと通り過ぎ、軋む車輪の音が街の奥へと消えていく。通り沿いの店はまだ半分ほどしか開いていない。パン屋の窓からは焼きたての匂いが流れ出し、行き交う人々の足を一瞬だけ止めていた。


そんな通りを、五人の冒険者が歩いていた。


ユウトたちだった。


ケーキ屋へ向かうときとは違う。今日は全員が武装している。剣、盾、弓、杖。装備はいつものものだが、最近はケーキ屋の仕事で身に付ける機会が少なかったためか、妙に久しぶりの感触だった。


レイナが歩きながら小さく笑う。


「なんだか変な感じですね」


マリナが横を歩きながら聞き返す。


「何が?」


「久しぶりってほどじゃないのに、すごく久しぶりな感じがするんです」


マリナも少し考えてから頷いた。


「確かにそうね」


「最近は朝といえばケーキ屋だったもの」


ガルドは前を向いたまま言う。


「仕事が変われば感覚も変わる」


ダインも短く頷いた。


「冒険者の朝だ」


その言葉に、ユウトは少しだけ胸の奥が引き締まるのを感じた。


ギルドの建物が見えてくる。


厚い木の扉が半分開き、そこからすでに騒がしい声が漏れていた。


中へ入ると、いつもの空気が広がっていた。


依頼掲示板の前には人だかりができている。奥の長机では昼前だというのにもう酒を飲んでいる連中がいて、受付前には報告待ちの列が伸びていた。革と鉄と汗、そして酒の匂いが混ざった、いかにも冒険者ギルドらしい空気だ。


受付の女性が五人に気づく。


「あら、久しぶりですね」


ガルドが軽く手を上げる。


「今、長期護衛契約中でな」


受付嬢はすぐ理解したように頷いた。


「魔王さんのお店ですよね」


「いいんですか?」


「契約中に別の依頼を受けて」


ガルドが苦笑する。


「話のわかる依頼者でな」


横でレイナが肩をすくめる。


マリナも苦笑した。


受付嬢は小さく笑い、それ以上は追及しなかった。


「それなら大丈夫ですね」


「依頼は掲示板からどうぞ」


五人は掲示板の前へ移動する。


木の板いっぱいに紙が貼られていた。


採取、護衛、討伐、調査。


依頼の種類は多い。


だが五人で動く以上、あまりにも安い依頼は選べない。取り分が減りすぎるからだ。


ガルドが一枚の紙を押さえる。


「これだな」


ユウトが横から覗き込む。


「フォレストディア討伐」


レイナが首を傾げた。


「フォレストディア?」


ダインが答える。


「森に棲む大型の鹿型魔物だ」


ガルドが続ける。


「肉も売れるが角と皮に高値が付く」


「畑も荒らす」


依頼書の文面にはこう書かれていた。


森の奥にフォレストディアが複数出没。周辺農地の被害が増加。討伐もしくは数の減少を希望。


報酬額は五人で分けても十分な額だった。


ユウトが頷く。


「これならいいですね」


ガルドが短く言う。


「悪くない」


ダインも頷いた。


「充分だ」


マリナが依頼書を取る。


「じゃあこれにしましょう」


受付へ持っていく。


手続きはすぐに終わった。


「街の西の森です」


受付嬢が言う。


「最近目撃が増えています」


「気をつけてください」


五人は頷き、ギルドを後にした。



街を出てしばらく歩くと、石畳の道はやがて土の道へ変わる。


道の両側には畑が広がっていた。麦、豆、根菜。よく手入れされた農地が続き、その外れから森が広がっている。


今回の依頼対象は、その森に棲むフォレストディアだ。


森へ入る手前で、マリナがユウトを見る。


「黒崎くん」


「スキルはどうする?」


周囲に人影はない。


だが、念のため声は少し抑えている。


ガルドが先に答えた。


「この間、魔王さんから教わった使い方なら問題ない」


ダインも言う。


「収納だとは思われない」


「何らかの魔法に見える」


ユウトは頷いた。


「なら使いたいです」


マリナが言う。


「使うのは構わない」


「でも注意するのよ」


その言い方にレイナが笑う。


「先生、お母さんみたいですよ」


マリナが足を止める。


「お母さんって何よ!」


レイナは笑いながら手を振る。


「冗談ですよ」


ガルドが静かに言った。


「ただし」


「素材買取が下がるのはまずい」


ユウトが顔を上げる。


ガルドは続けた。


「フォレストディアは角と皮が一番金になる」


「大きくえぐれば値が落ちる」


ダインも頷いた。


「ほどほどに削れ」


ユウトは真面目に頷いた。


「はい」


森へ入る。


空気が変わる。


湿った土の匂い、木々のざわめき、遠くの鳥の声。


ユウトは意識を集中させた。


完全鑑定。


視界の奥で情報が浮かび上がる。


「います」


全員が足を止める。


ガルドが小声で聞く。


「距離は」


「百メートル」


ユウトは続けた。


「三頭います」


ダインが盾を構える。


「行くぞ」



最初のフォレストディアは倒木の近くにいた。


巨大な鹿の姿をしている。


普通の鹿より一回り以上大きく、筋肉の付き方も明らかに異様だ。枝分かれした角は鋭く、硬い蹄が地面を踏みしめていた。


気づいた瞬間、フォレストディアが突進する。


速い。


だが一直線だ。


ダインが前へ出る。


盾で受ける。


重い衝撃音。


レイナの水魔法が地面を濡らし、足場を崩す。


ガルドの矢が飛ぶ。


視界を乱す。


ユウトは横へ回り込む。


距離を詰める。


触れる。


イメージする。


薄く、細く。


収納を刃のように使う。


フォレストディアの皮膚が浅く削れる。


そこへ剣。


首の横。


ガルドの矢。


レイナの水弾。


ダインの押し込み。


フォレストディアがよろめき、そのまま地面へ崩れ落ちた。


森が静かになる。


レイナが息を吐いた。


「久しぶりだからドキドキしました」


ガルドが言う。


「まだ二頭いる」


ダインが短く頷いた。


「行くぞ」


ユウトは頷いた。


まだ終わりではない。


森の奥に、次のフォレストディアがいる。



森の奥へ進むにつれ、空気はさらに静かになっていった。


足元には落ち葉が積もり、踏むたびに乾いた音が小さく鳴る。木々は高く、枝葉が空を覆っているため、地面まで届く光はわずかだった。ところどころに差し込む木漏れ日が、斑のように地面を照らしている。


ユウトは歩きながら意識を広げた。


完全鑑定。


森の中の生き物の位置、地形の起伏、魔力の反応。集中すればするほど情報は細かくなる。


数歩進んだところで、ユウトが手を上げた。


全員が止まる。


ガルドが小声で聞く。


「どこだ」


ユウトは前方を見たまま答えた。


「三十メートル」


「二頭」


レイナが目を丸くする。


「近いですね」


ダインが盾に手を置いた。


「まず一頭」


ガルドが頷く。


「順に狩る」


マリナが静かに言った。


「さっきと同じでいきましょう」


「ダインさんが受けて、ガルドさんが削る」


「レイナは足場」


そしてユウトを見る。


「黒崎くんは横から」


ユウトは頷いた。


「わかりました」


全員がゆっくりと歩き出す。


木々の間を進むと、やがてフォレストディアの姿が見えた。


倒木の横で草を食んでいる。


一頭目よりやや小さいが、それでも十分に巨大だ。枝のように広がった角が、森の薄暗い光の中で鈍く光っていた。


ガルドが小さく言う。


「行くぞ」


次の瞬間だった。


フォレストディアがこちらに気づく。


頭が上がる。


蹄が地面を蹴る。


突進。


一直線だった。


ダインが前に出る。


盾が衝撃を受け止める。


鈍い音が森に響いた。


同時にレイナが杖を振る。


水魔法。


地面が濡れる。


フォレストディアの足がわずかに滑る。


ガルドの矢が飛ぶ。


肩に刺さる。


ユウトはその瞬間に横へ回り込んだ。


首の横。


耳の下、肩の前。


そこへ剣を突き込む。


分厚い肉の抵抗。


だが刃は通る。


フォレストディアが暴れる。


ユウトはすぐに身を引く。


その隙にガルドの二本目の矢が刺さる。


レイナの水弾が顔面を打つ。


ダインが盾で押し込む。


体勢を崩したフォレストディアの首がわずかに空く。


マリナの声が飛ぶ。


「今!」


ユウトは迷わず踏み込んだ。


同じ場所へ、今度は深く剣を通す。


手応え。


フォレストディアの体が大きく揺れる。


さらにガルドの矢。


レイナの水魔法。


ダインの押し込み。


数歩よろめいたフォレストディアは、そのまま地面に崩れ落ちた。


森が再び静かになる。


レイナが息を吐いた。


「二頭目」


ガルドが言う。


「悪くない」


ダインも頷いた。


「うむ」


ユウトは剣を引き抜き、息を整えた。


戦闘時間は短い。


だが、集中は必要だった。


マリナが近づいてくる。


「黒崎くん、怪我は?」


「大丈夫です」


「そう」


マリナが小さく頷いた。


レイナが笑う。


「慣れてきましたね」


ユウトも少し笑った。


「まだ二頭目だけど」


ガルドが死体を見下ろしながら言う。


「収納しておけ」


「最後の一頭が残っている」


ユウトは頷き、フォレストディアに触れた。


死体が消える。


収納。


森の空気がまた静かに戻った。



三頭目は少し離れていた。


ユウトが周囲を探る。


「百二十メートル」


「一頭」


ダインが言う。


「行くか」


ガルドが周囲を見回す。


森は静かだった。


風が枝葉を揺らし、遠くで鳥が鳴いている。


「これで終わりだ」


ガルドが言う。


「三頭なら十分だろう」


マリナも頷いた。


「依頼の目的は数を減らすこと」


「無理に森中を歩き回る必要はないわ」


レイナが笑う。


「最後ですね」


ユウトは頷いた。


三頭目の位置を確認する。


「前です」


五人は再び森の奥へ進んだ。


三頭目のフォレストディアは沢の近くにいた。


今までの二頭より大きい。


肩の筋肉が盛り上がり、角も太い。


レイナが顔をしかめた。


「一番でかいですね」


マリナが短く言う。


「同じようにいくわ」


ダインが盾を構えた。


「来る」


フォレストディアがこちらに気づく。


突進。


重い。


盾が衝撃を受けた瞬間、ダインの体が半歩押し込まれる。


「重い」


ガルドの矢が飛ぶ。


肩に刺さる。


レイナの水魔法で足場が崩れる。


マリナが声を飛ばす。


「左!」


ユウトは左へ回り込む。


首の横を狙う。


だが最初の一撃は浅かった。


フォレストディアが首を振る。


牙のような角がユウトの横をかすめる。


レイナが叫ぶ。


「ユウトくん!」


だがユウトは下がらない。


フォレストディアの意識はダインへ向いている。


その一瞬。


首の横が空いた。


ユウトは踏み込む。


剣を深く突き入れる。


手応え。


そこへガルドの矢。


レイナの水弾。


ダインの押し込み。


フォレストディアが大きく揺れる。


ユウトは剣を引き抜き、そのまま横へ斬り抜けた。


フォレストディアの巨体がゆっくりと崩れ落ちる。


沢の手前で倒れた。


森が静まり返る。


ダインが盾を下ろした。


「終わりだ」


ガルドが息を整える。


「三頭」


「充分だ」


マリナが頷いた。


「今日はここまでにしましょう」


レイナが笑う。


「久しぶりだったけど、ちゃんと動けましたね」


ユウトも小さく息を吐いた。


戦闘は終わった。


だが、どこか懐かしい感覚が胸に残っていた。


冒険者として戦う感覚だった。



フォレストディアの巨体が地面に横たわると、森は再び静けさを取り戻した。


さっきまで響いていた蹄の音や衝突の衝撃が嘘のように消え、聞こえるのは木々を揺らす風と遠くの鳥の声だけだ。


ユウトはゆっくりと息を吐いた。


戦闘自体は長くない。


だが集中は必要だった。盾で受けるダイン、矢で削るガルド、水魔法で足場を崩すレイナ、全体を見て指示を出すマリナ。その動きに合わせて自分が踏み込む。


五人の役割がきれいに噛み合った戦闘だった。


ダインが盾を下ろす。


「終わった」


ガルドがフォレストディアの死体を見下ろした。


「三頭」


「十分だろう」


マリナが周囲を見回す。


森の中に他の魔物の気配はない。


「ええ」


「依頼の目的は数を減らすこと」


「これだけ仕留めれば、しばらくは被害も減るはずよ」


レイナが肩の力を抜いた。


「久しぶりだから、ちょっと緊張しました」


ガルドが小さく笑う。


「最初だけだ」


ダインも短く言った。


「体は覚えている」


ユウトはフォレストディアに近づく。


巨大な鹿型魔物の体は、近くで見ると改めて大きかった。筋肉の盛り上がり、分厚い皮、鋭い角。普通の鹿とはまるで別の生き物だ。


マリナがユウトを見る。


「黒崎くん」


「怪我は?」


ユウトは軽く腕を回した。


「大丈夫です」


「角も当たってないです」


マリナが頷く。


「よかった」


レイナが笑う。


「先生、完全に保護者ですね」


マリナが少しだけ睨む。


「何か言った?」


「いえ、何も」


レイナは楽しそうだった。


ガルドが死体を見ながら言う。


「収納しておけ」


「街まで運ぶのは面倒だ」


ユウトは頷いた。


フォレストディアの体に手を触れる。


次の瞬間、巨体が音もなく消えた。


収納。


レイナが素直に感心する。


「やっぱり便利ですね」


ガルドが言う。


「運搬が楽だ」


ダインも頷く。


「冒険者には珍しいがな」


ユウトは軽く笑った。


「確かに」


一般的な収納スキルは、馬車一台分ほどの容量だと聞いている。それでも便利なスキルだが、冒険者より商人や運搬業で使われることが多い。


だが今のような場面では、かなり役に立つ。


三頭分のフォレストディアの死体を運ぶとなれば、それだけで相当な労力になるからだ。


マリナが言う。


「じゃあ戻りましょう」


「日が高くなる前に街へ戻れるわ」


五人は森を後にした。



交易都市の冒険者ギルドは、昼前になるとさらに騒がしくなる。


依頼掲示板の前では紙を見比べながら難しい顔をしている冒険者たちがいて、奥の長机ではすでに昼酒を始めている連中がいた。


ユウトたちが中へ入ると、何人かが顔を上げた。


五人組はそれなりに目立つ。


特にガルドとダインはこの街でも顔を知られている冒険者だ。


受付の前へ行く。


先ほどの受付嬢が顔を上げた。


「お帰りなさい」


ユウトが収納からフォレストディアの死体を取り出す。


三頭。


床の上に並ぶ巨大な魔物の体に、周囲の冒険者たちがちらりと視線を向けた。


受付嬢が確認作業に入る。


角、牙、体格、傷口。


慣れた手つきで状態を確認していく。


「三頭ですね」


「依頼対象で間違いありません」


書類に印が押される。


「討伐依頼の報酬はこちらになります」


袋がカウンターに置かれた。


さらに受付嬢が続ける。


「それと」


「素材の買い取りですが」


フォレストディアの体を見て、少し頷いた。


「状態がいいですね」


「皮も傷が少ないです」


「少し高めに買い取らせていただきます」


ガルドが言う。


「助かる」


受付嬢が少し声を落とした。


「それと」


「これは未確認なんですが」


ガルドが眉を上げる。


「なんだ?」


受付嬢が周囲をちらりと見てから、小声で言った。


「フォレストディアのレア個体が目撃されたそうです」


ガルドが少し驚く。


「そんな事俺たちに教えていいのか?」


受付嬢は少し照れたように笑った。


「彼氏が出来たお礼です」


その視線が、なぜかユウトに向く。


ユウトは首を傾げた。


「?」


レイナが吹き出しそうになる。


ガルドが苦笑する。


「そうか」


「機会があれば狙ってみるか」


受付嬢は楽しそうに頷いた。


「期待してます」


手続きはそれで終わった。


五人はギルドを出る。



外へ出ると、街はすでに夕方の空気に変わり始めていた。


屋台から料理の匂いが漂い、人の流れも酒場の方へ向かっている。


ユウトが言った。


「久しぶりだし」


四人がユウトを見る。


「いつもの」


レイナがすぐに言う。


「またですか」


マリナも少し照れながら言う。


「いいわね」


ガルドが苦笑した。


「行くか」


ダインも頷く。


「うむ」


五人は通りを歩き始めた。


すると、すれ違った街の男が言った。


「おっ」


「久しぶりに見れるのか?」


別の男が言う。


「みんなに知らせなきゃ」


ユウトは首を傾げる。


「?」


レイナが楽しそうに笑う。


「久しぶりだから」


「すごい事になるかもしれませんね」


マリナが慌てる。


「す、すごい事って何よ」


レイナがにやりと笑う。


「先生、わかってるくせに」


マリナが顔を赤くする。


「わ、わかってないわよ!」


ガルドが言った。


「まあいい」


「今日は覚悟した」


ダインが短く言う。


「諦めも必要だ」


ユウトだけが、まだ事情を理解していなかった。


夕暮れの街を五人は歩いていく。


いつもの酒場へ向かって。


その夜、何が起きるのかを――


ただ一人、まだ知らないままで。

ストック無くなりました。

毎日更新は維持する予定ですが

これまでのような頻度での更新は難しいです。

たくさんの方に読んでいただきありがとうございます。

今後もよろしくお願いします。

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