第6話 初めての魔物討伐訓練に行ったら、想像よりずっと現実だった
翌朝。
宿舎の部屋で目を覚ました黒崎悠人は、軽く身体を伸ばした。昨日の訓練の疲れがまだ少し残っている。
部屋の向こうでは、同室の相沢翔太が椅子に座り、真剣な顔で剣を磨いていた。
「朝から大変だな」
悠人が声をかけると、相沢は苦笑する。
「昨日、騎士さんが言ってただろ。剣は手入れが大事だって」
刃を光にかざしながら相沢は剣を磨き続ける。
「しかしさ……正直、思ってたより面倒だな」
「そうだろうな」
悠人は肩をすくめる。
相沢はふと顔を上げた。
「でも勇者パーティってこういうのもやってないんだろ?」
「特別待遇で王城の貴賓区画だしな」
勇者たちは城の中。
こちらは城の敷地内とはいえ一般宿舎だ。
扱いの差ははっきりしている。
「まあ勇者だしな」
相沢は苦笑する。
「おれたちは雑兵ってところか」
その時、廊下から騎士の声が響いた。
「集合だ!食堂へ!」
悠人と相沢は顔を見合わせ、立ち上がった。
食堂ではすでに多くの生徒が席についていた。
黒いパンと薄いスープ。
昨日と同じ質素な食事だ。
悠人が席に座ると、隣から声をかけられた。
「おはよう」
桐谷玲奈だった。
「おはよう」
向かいには橘真里奈も座っている。
「今日は外に出るらしいわね」
真里奈が言った。
「魔物討伐訓練」
玲奈が少し緊張した顔をする。
「実戦ってこと?」
「騎士団が一緒らしいから、完全な実戦じゃないと思うけど」
悠人が答えた。
それでも空気は少し重い。
初日にレオンが言ってた言葉が頭に残っていた。
ーーーーーこの世界では人が死ぬ。
朝食の後、宿舎前の広場に集合した。
騎士団が整列している。
中央にはレオンが立っていた。
「今日は魔物討伐訓練を行う」
低く落ち着いた声が響く。
「王都郊外の森で低級魔物を相手にする」
「騎士団が同行する。教育目的の訓練だ」
誰かが手を挙げた。
「勇者パーティも参加するんですか?」
レオンは短く答える。
「参加しない」
ーーーーーーーーーーー
森の入り口に到着すると、騎士の一人が説明を始めた。
「魔物は魔力を持っている」
「だから魔力感知で見つけることができる」
生徒の一人が聞く。
「魔力感知ってどうやるんですか?」
騎士は少し考えてから答えた。
「最初は魔物でやるな」
「危険だ」
生徒たちは顔を見合わせる。
「まずは仲間で練習しろ」
「目を閉じて相手の魔力を探す」
騎士は隣の騎士を指した。
「例えばこうだ」
騎士が目を閉じる。
並んでいる騎士たちがお互いの位置を入れ替える。
数秒後。
「右から三人目だ」
そこに最初に指差した騎士が立っている。
生徒たちが驚く。
「最初は人間でやる」
「それが出来るようになってから魔物だ」
生徒同士で魔力感知の練習が始まった。
「黒崎くん、やってみる?」
玲奈が言う。
お互いに向かい合って、目を閉じる。
………………分からない。
「全然分からん」
悠人が言うと、玲奈が笑う。
「わたしも」
真里奈が言った。
「焦らなくていいわ」
「訓練はこれからよ」
その時だった。
森の奥から低い唸り声が聞こえてきた。
「来るぞ!」
騎士が叫ぶ!
ウルフ型の魔物が三匹、森の中から飛び出してきた。
生徒たちが慌てて武器を構える。
「うわっ!」
剣が空を切る。
魔法が外れる。
生徒たちは混乱した。
一匹が悠人に向かって突進してきた。
悠人は手にしていた棒を静かに構える。
突進してくる魔物の鼻先を突く。
魔物の動きが一瞬止まる。
すぐにもう一度、突く。
止まった魔物から少し距離を取る。
横にいた騎士が前に出た。
一閃。
魔物が倒れる。
一連の動きを少し離れた場所からレオンがじっと見ていた。
「ユウト」
悠人は振り向く。
「はい」
「おまえは冷静だ」
周囲の生徒が少し驚く。
「戦場ではそれが一番重要だ」
「焦った奴から死ぬ」
悠人は静かに頷いた。
夕方。
討伐訓練は終わり、悠人たちは王城に戻った。
宿舎の前で解散が告げられ、生徒たちはそれぞれの部屋へ戻っていく。
レオンは騎士団の詰所へ向かって歩いていた。
その途中。
「おい、レオン」
声をかけてきたのは王城の上級騎士だった。
すでに鎧を脱ぎ、肩を回している。
「そっちは順調で羨ましいぞ」
苦笑まじりの声だった。
レオンは眉を上げる。
「勇者パーティか」
「そうだ」
上級騎士は深くため息をついた。
「魔物は確かに倒す」
「それは間違いない」
だが、と続ける。
「指示を聞かん」
「勝手に突撃する」
「魔法をぶっ放す」
レオンは黙って聞いている。
「今日なんて森を半分焼いたぞ」
「魔物は倒したがな」
上級騎士は肩をすくめる。
「ぶっ放した魔法に巻き込まれて兵士三人が怪我をした」
少しの沈黙。
レオンが聞く。
「魔物の被害は?」
「小さい」
上級騎士は苦笑した。
「正直言えばな」
「あれでは魔物の方が被害が少ないぐらいだ」
レオンはしばらく黙っていた。
やがて静かに言う。
「……そうか」
そしてふと、今日の訓練を思い出す。
棒を持った少年。
冷静に距離を取る動き。
レオンは小さく呟いた。
「こちらは使える奴が一人いる」
上級騎士が聞く。
「誰だ」
レオンは答えた。
「荷物持ちだ」
そして静かに続ける。
「あいつは強くなる」




