第55話 街の半分が見物に来ているんですが、いつの間にか酒場が恋愛相談書になっている件
(本編とは少ししか関係してません)
朝。
共和国の冒険者ギルドは、いつも通り騒がしかった。
掲示板の前には依頼票を睨む冒険者が集まり、受付の前には報告待ちの列ができている。そんな中、ユウトたちはいつものように受付へ向かった。
受付嬢が顔を上げる。
「あら」
少しだけ目を丸くした。
「今日は依頼なんて受けてていいんですか?」
レイナが首を傾げる。
「どういう意味ですか?」
受付嬢はくすりと笑った。
「最近お忙しいんじゃないですか?」
「夜とか」
マリナの眉がぴくりと動く。
ダインは無言。
ガルドが短く言った。
「俺たちは冒険者だぞ」
受付嬢は肩をすくめる。
「それはそうですけど」
レイナが小声で言う。
「完全に広がってますね」
ユウトは事情が分からない。
「?」
「何の話です?」
受付嬢は依頼票を差し出した。
「街道沿いの討伐依頼です」
「最近魔物が少し増えているみたいなので」
ガルドが受け取る。
「受ける」
ダインも頷く。
「問題ない」
マリナが依頼内容を確認する。
「距離も近いわね」
レイナ
「今日のうちに戻れますね」
ユウト
「じゃあ行きましょう」
受付嬢は書類をまとめながら笑った。
「頑張ってください」
少し意味深に言う。
「……夜までには戻ってきてくださいね」
レイナ
「その言い方やめてください」
その時、後ろの冒険者が小声で言った。
「先生いるか?」
別の冒険者
「いるらしいぞ」
レイナが振り向く。
「聞こえてますよ」
冒険者
「今日は当たりだ」
レイナ
「帰ってください」
ユウトはまだ分かっていない。
「何の話です?」
レイナ
「知らなくていいです」
⸻
討伐は順調だった。
街道沿いの茂みから出てくる魔物を落ち着いて処理していく。
ダインが前で攻撃を受け止める。
ガルドが後方から矢で削る。
レイナが魔法と回復で支え、マリナが冷静に指示を出す。
ユウトも状況を見て動く。
以前よりずっと安定した戦いだった。
夕方前には討伐を終え、街へ戻る。
⸻
ギルド。
受付嬢が討伐証明を確認する。
「討伐数、問題ありません」
銀貨の袋を差し出した。
「依頼完了です」
ガルド
「助かる」
受付嬢が笑う。
「良かったですね」
レイナ
「?」
受付嬢
「公演に間に合って」
レイナ
「公演じゃないです」
その時。
後ろの冒険者が言った。
「おい」
「もう始まる時間だ」
別の冒険者
「急げ!」
数人の冒険者がギルドを飛び出した。
ユウト
「人気ありますね」
レイナ
「不本意です」
⸻
夕方の街。
ユウトが言う。
「仕事も順調ですし」
「食事がてら飲みに行きましょう」
ガルド
「実はな」
「ほぼ酒場と常連の奢りだから金はいらないんだが」
ダイン
「ありがたいな」
レイナ
「堕落しないでください」
ガルド
「堕落ではない」
ダイン
「街の文化だ」
レイナ
「文化じゃないです」
⸻
酒場の前。
すでに大行列だった。
屋台の男
「今日は満席だぞ!」
常連
「立ち見は外!」
レイナ
「なんで劇場みたいになってるんですか!」
店主が胸を張る。
「繁盛だ」
常連
「今日はギルドの受付嬢も来てる!」
レイナ
「え?」
本当に受付嬢がいた。
受付嬢
「見物に来ちゃいました」
レイナ
「見物って言いましたよね」
店主
「今日は特別公演だ」
レイナ
「公演じゃないです!」
⸻
料理が並ぶ。
最初は普通の食事だった。
依頼の話。
街の話。
受付嬢も少し会話に入る。
そして店主が酒瓶を置く。
「まあ今日はこれだろ」
空気が変わる。
レイナ
「待ってください」
ガルド
「やめておけ」
ダイン
「飲むな」
マリナ
「黒崎くん今日はやめて」
ユウト
「そんなにですか?」
沈黙。
ユウト
「じゃあ一口だけ」
レイナ
「それがダメなんです」
ユウトは酒を飲む。
一口。
数秒。
マリナを見る。
「先生」
マリナ
「……なに?」
「先生、愛してます」
酒場が静まる。
次の瞬間。
「始まった!」
「今日は早い!」
ダイン
「早いな」
ガルド
「始まるな」
ユウトはマリナに抱きつく。
「先生」
「落ち着きます」
マリナ
「ちょっと!」
ユウト
「先生」
「痩せましたね」
「スタイルまた良くなりました」
「ますます綺麗です」
酒場爆笑。
マリナ
「やめなさい!」
だが一瞬。
嬉しそうな顔になる。
レイナ
「先生」
「ちょっと嬉しかったでしょ」
マリナ
「うるさい!」
ユウト
「先生」
「大好きです」
「結婚してください」
酒場大爆笑。
⸻
ユウトの視線が横へ向く。
冒険者を指差す。
「あなた」
「ひっ」
「あなた彼女が好きですね!」
指差す。
受付嬢。
酒場凍結。
ユウト
「大丈夫です!」
「彼女もあなたが好きです!」
酒場
「当たってる顔だ!」
受付嬢真っ赤。
受付嬢
「ちょっと待ってください!」
「なんで分かるんですか!」
常連
「酒の神秘だ!」
店主
「飲むと頭が冴える酒!」
店主
「売れるな!」
黒板を書く。
恋愛成就酒 本日限定
レイナ
「売るな!」
⸻
帰り道。
ユウトはマリナに抱きついたまま。
「先生」
「落ち着きます」
マリナ
「はいはい」
レイナ
「先生」
「今日4回目です」
マリナ
「何がよ」
レイナ
「嬉しそうだった回数」
マリナ
「……」
⸻
借家。
マリナ
「靴脱いで」
頭を撫でる。
「もう寝ようね」
ユウト
「先生愛してます」
即寝。
⸻
レイナ
「先生」
「なに」
「嬉しかったでしょ」
マリナ
「…………そんなことないわよ」
⸻
その夜。
盗賊ギルド。
幹部
「最近妙に話題になっている冒険者がいるな」
「酒場で公演してるらしい」
盗賊ギルド長
「やめろ!」
「夫婦の危機を救われた」
大幹部
「実はわしも」
幹部
「実は俺も彼女ができました」
盗賊ギルド長
「若いのに手出しするな」
若い幹部
(……行ってみるか)
別の若い幹部
「平和の方が俺たちは儲かる」
ごく一部を除き、盗賊たちは頷いた。
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