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クラスごと異世界転移したモブの俺、ハズレスキル【無限収納】が覚醒したので異世界で無双します  作者: よるねこ
第一章

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第53話 なんだか街でよく声をかけられます。みんなの目が期待に満ち溢れてる件


 ここ最近、妙なことが起きていた。


 街を歩いていると、やたらと声をかけられるのだ。


 しかも決まって、どこか期待した顔で。


 その日も、討伐依頼をいくつか終えたユウトたちは、夕暮れの交易都市を歩いていた。共和国の街はこの時間になると、昼間とは違う種類の活気に包まれる。荷車の音は少し減り、代わりに屋台の声が増える。焼いた肉の匂い、煮込みの匂い、香草の匂い。店の前では仕事帰りの人間たちが立ち話をしていて、通りにはゆるい笑い声が流れていた。


 今日は悪くない一日だった。


 危険な依頼ではないが、安定して稼げる討伐依頼を数件こなした。派手さはないが、こういう積み重ねが大事なのだと、最近はユウトにも少しずつ分かってきている。


 レイナが言う。


「最近、ちょっと余裕出てきましたよね」


 マリナも頷いた。


「そうね。無理のない依頼を積めてるのが大きいわ」


 ガルドが短く言う。


「悪くない」


 ダインも続ける。


「続いてる」


 ユウトは少し嬉しくなって笑った。


 最初の頃を思えば、本当に変わった。採取依頼を三人でこなしながら、ぎりぎりの生活を回していた頃とは違う。今はベテラン二人の知恵もある。無茶をせず、地に足のついた仕事ができている感覚があった。


 その空気のまま、ユウトは言った。


「今日は外食しませんか?」


 四人がユウトを見る。


「数件の討伐依頼をこなして少しお金の余裕もできたので、たまにはいいかなって」


 レイナがすぐに乗った。


「いいですね」


 マリナも頷く。


「たまには悪くないわね」


 だが、その時だった。


 ガルドが言う。


「……いや、俺は家族で」


 そこで言葉が止まる。


 ダインがガルドを見る。


 レイナも見る。


 マリナも見る。


 三人とも何も言わず、じっと見ていた。


 ガルド


「……」


 無言。


 ユウトはその沈黙を、なぜか好意的な意味に受け取ったらしい。表情を明るくして言った。


「それじゃあみんなで行きましょう♪」


 ガルドがわずかに肩を落とした。


「ぐっ……逆効果だったか」


 ダイン


「自業自得」


 レイナ


「逃がしませんよ」


 マリナ


「一番の被害者、私なんだけど」


 ユウトだけが首を傾げていた。


「?」


「何の話です?」


 レイナが肩をすくめる。


「そのうち分かります」


 その答えは、街を少し歩いただけで嫌でも分かることになった。


 一度、戻ってガルドの妻と娘と合流した。


 その時のガルドの顔はかなり微妙な表情だったが妻と娘は喜んだ。


 最初に声をかけてきたのは、通りで荷を下ろしていた行商人だった。


「あ」


 ユウトを見つけるなり、男が言う。


「今日は飲むのか?」


 ユウトは足を止める。


「え?」


「そのつもりですけど」


 男は目に見えて残念そうだった。


「そうか……」


 それだけ言って仕事に戻る。


 また歩く。


 今度は八百屋の前だ。


 店先で品を並べていたおばさんが、ユウトたちを見つけるなり言った。


「あら」


「今日はあるの?」


 ユウト


「?」


「何がです?」


 おばさんは意味ありげに笑うだけで、答えない。


「まあ、そのうちな」


 さらに少し進む。


 今度は屋台の前の男が言った。


「先生いるな」


「今日は当たりか?」


 レイナが肩を震わせた。


「完全に広がってますね」


 マリナが小さく息を吐く。


「広がってるわね」


 ダイン


「噂だ」


 ガルド


「根は常連」


 ユウトは本気で分からない顔をしていた。


「……?」


「俺、何かしました?」


 マリナが即答する。


「したわね」


「かなり」


 ユウトは真面目に考え込んだ。


 だが何も思い出せないらしい。


 レイナが言う。


「覚えてないから強いですよね、ユウトくん」


「なにがです?」


「そこです」


 娘がガルドの手を軽く引いた。


「お父さん」


「みんな、ユウトお兄ちゃんのこと知ってるの?」


 ガルド


「……悪い意味でな」


 妻がくすりと笑う。


「楽しそうじゃない」


 ガルドは答えなかった。


 答えなかったが、それもまたいつものことらしかった。



 酒場へ近づくにつれ、ガルドの娘はますます楽しそうになっていった。


「お父さん、今日はいっぱい人いるかな」


 妻が穏やかに答える。


「どうかしらね」


 レイナが小声で言う。


「たぶんいます」


「かなり」


 マリナは聞こえないふりをした。


 だが、耳は少し赤い。


 ユウトはそれに気づかない。


 気づかないまま、何の疑いもなく酒場の扉を開けた。


 中の空気が一瞬だけ止まる。


 カウンターの向こうにいた店主が顔を上げた。


「おっ」


 すぐにガルド一家まで視界に入ったらしい。


「今日は家族一緒か」


 その一言で、奥の席の常連たちが一斉に振り向いた。


「ほんとだ」


「まあ、見ないと損だからな」


 ガルドが即座に返す。


「違う」


 だが、その否定を本気で聞く者はいなかった。


 店主が手を振る。


「そっち使え」


 近くの常連が立ち上がる。


「先生そこ」


 マリナ


「え?」


「隣そこな」


「なんで私が」


 常連は真顔で答えた。


「先生が隣なら安全」


 酒場中に笑いが広がる。


 レイナが即座にマリナの背を押した。


「はい先生」


「ちょっとレイナ!?」


 ダインはすでに椅子を引いている。


 ガルドも止めない。


 結局、席はきれいに決まった。


 マリナ

 ユウト

 ダイン


 向かいに


 レイナ

 ガルド


 その少し横に


 ガルドの妻と娘。


 娘はユウトに小さく手を振った。


「お兄ちゃん!」


 ユウトも普通に振り返す。


「こんばんは」


 常連の一人が満足そうに頷いた。


「今日は豪華だな」


 店主が言う。


「家族連れで見物か」


 ガルド


「違う」


 やはりその否定は、もう誰にも届いていない。


 ユウトは首を傾げた。


「なんか、おかしくないですか?」


 レイナがにこりと笑う。


「気のせいです」



 料理はすぐに運ばれてきた。


 焼いた肉。豆と野菜の煮込み。固めのパン。香草の利いたスープ。酒場の料理としては、かなりまともな部類だ。


 ユウトが言う。


「うまそうですね」


 娘が楽しそうに言った。


「お兄ちゃん、いっぱい食べて」


「ありがとう」


 食事は普通に始まった。


 本当に普通だった。


 今日の依頼の話。街の話。娘の話。最近の景気の話。ガルドの妻は思ったよりよく話す人で、娘もよく笑う。レイナはすぐに打ち解け、マリナも落ち着いた顔で受け答えしていた。


 ユウトはパンをちぎりながらふと言う。


「最近、街でやたら声かけられますよね」


 レイナが言う。


「そうですね」


 ダイン


「噂だな」


 ガルド


「余計なことを喋る連中が多い」


 店主が鼻を鳴らした。


「この店の常連は口が軽いからな」


 常連の一人が即座に抗議する。


「情報通と言え」


 別の常連も乗る。


「街の文化だ」


 ユウトは本気で分からない顔だった。


「文化?何の噂なんです?」


 店主がにやりと笑う。


「すぐ分かる」


 マリナがそれを聞いて小さく視線を逸らした。


 レイナがすかさず見逃さない。


「先生、顔赤いですよ」


「赤くないわよ」


「まだ何も始まってないのに」


「うるさい」


 ガルドの妻は、そのやり取りを面白そうに見ていた。


 だが、まだ全体像までは分かっていないらしい。


 ユウトはもちろん、一番何も知らない。


 そして、その答えは次の瞬間、酒杯一杯で明らかになる。



 店主が当然のように卓上へ酒瓶と杯を置いた。


「まあ、今日はこれだろ」


 空気が変わる。


 レイナの手が止まる。


 ダインが無言になる。


 ガルドがゆっくり酒瓶を見る。


 常連たちも、会話をやめてこちらへ視線を向ける。


 ユウトだけが普通に言った。


「ありがとうございます」


 レイナがすぐに言う。


「ちょっと待ってください」


 店主


「なんだ?」


「なんだ、じゃないです」


 ガルドが店主を見る。


「分かってて置いたな」


 店主はまったく悪びれない。


「たまにはいいだろ」


 常連たちも、見ているというより待っている顔だった。


 ユウトは杯を手に取りながら、妙に静かになった酒場を見回した。


「……?」


「なんですか?」


 マリナが言う。


「黒崎くん」


「はい?」


「一口だけよ」


 レイナが即座に言う。


「いや、その一口で終わるんですけど」


 ユウト


「え?」


 娘は目を輝かせている。


 ガルドの妻は、夫を見る。


 ガルドは無言。


 それが余計に意味深だった。


 ユウトはなおも事情が飲み込めないまま、酒を注いだ。


 とく、とく、と澄んだ音。


 酒場が静かになる。


 ユウトは何も疑わず口に運んだ。


 一口。


 もう一口。


 数秒。


 それから、ゆっくりとマリナを見た。


 真顔だった。


「先生」


 マリナの肩がびくっと揺れる。


「……なに?」


 ユウトはまっすぐ言った。


「愛してます」


 酒場が一瞬、完全に静まり返る。


 次の瞬間。


「始まった!」


「今日は早い!」


「やっぱり来た!」


 どっと笑いが広がった。


 ダインが短く言う。


「早いな」


 ガルドも言う。


「始まるな」


 ユウトはそのまま当然のようにマリナへ抱きついた。


「先生」


「落ち着きます」


 マリナは一気に真っ赤になった。


「ちょっと!」


「黒崎くん!」


「みんな見てるでしょ!」


 だが引き剥がしはしない。


 常連たちは満足そうに頷く。


「先生席正解だな」


「やっぱりそこが一番安全だ」


 ユウトは周囲の空気など一切気にしない。


「先生」


「痩せましたね」


「スタイルまた良くなりました」


「ますます綺麗です」


 酒場がさらに沸く。


 マリナは耳まで赤い。


「やめなさい!」


「そんなこと大声で言わなくていいの!」


 だが。


 ほんの一瞬だけ。


 そのほんの一瞬だけ、嬉しそうな顔になった。


 すぐに視線を逸らす。


 レイナはそれを見逃さなかった。


「先生」


「ちょっと嬉しかったでしょ」


「うるさい!」


 ユウトはさらに続ける。


「先生」


「大好きです」


「結婚してください」


 酒場、大爆笑。


 店主が腹を抱える。


「やっぱりこれだな!」


 マリナは真っ赤なまま、声だけ強くした。


「だから!」


「なんでそういうことを大声で言うのよ!」


 ユウトは気にしない。


「先生への愛は永遠に不滅です」


「毎秒10倍増えていきます」


 レイナ


「いや、それは無理」


 常連たちが机を叩いて笑う。


「そこ無理なんだ!」


「そこは無理だろ!」


 ユウトは真剣だった。


「愛は素晴らしいのです」


「愛は全てを解決します」


 レイナ


「いや、それも無理」


 ガルド


「無理だな」


 ダイン


「無理だ」


 娘がきらきらした目でユウトを見ている。


 ガルドの妻は口元を押さえながら肩を震わせていた。


 そしてここからが、常連たちにとって本当の本番だった。



 ユウトの視線が横へ流れる。


 完全鑑定が、無意識のうちに仕事を始めた。


 近くの席の常連を見て、ユウトが言う。


「あなた」


「ひっ」


「あなたはあの方が好きですね!」


 指差された男が固まる。


 周囲が一斉にそちらを見る。


「やめろ!」


「当たってる顔だ!」


 ユウトは続ける。


「あの方もあなたが好きです!」


 別方向から悲鳴が上がる。


「うわあああっ!」


「やっぱりそうなのか!?」


 酒場が爆発した。


 ユウトはどこまでも真剣だ。


「愛してるなら言うべきです!」


「愛はちゃんと口に出してきちんと行動しないといけません!」


 別の席には夫婦連れがいた。


 ユウトの目がそちらへ向く。


「あなたは家族の為に頑張ってます」


 夫が固まる。


「素晴らしいです」


 妻も固まる。


「でも」


 ユウトは真顔で続ける。


「奥さん寂しがってます」


 妻が目を見開いた。


「奥さん」


「寂しい時は寂しいと言って大丈夫です」


「愛してるから寂しいと言って大丈夫です」


 夫婦が顔を見合わせる。


 店主が腹を抱えて笑う。


「なんなんだこいつは!」


 常連たちも笑いながら頷く。


「だから危険なんだよ!」


「俺たちが恐れてるのはそれだ!」


 それが、この酒場の常連たちの本音だった。


 ユウトが酔った時に本当に怖いのは、暴れることではない。


 自分が恋愛関係を看破され、愛の説教をくらうこと。


 照れ臭い。恥ずかしい。しかも大体当たっているから反論しづらい。


 だから見ている分には最高に面白いが、できれば自分は対象になりたくない。


 その絶妙な恐怖と期待が、この酒場には共有されていた。


 ユウトは今度はガルドを見る。


「ガルドさん」


「なんだ」


「奥さんとラブラブです」


「とてもグッドです」


 ダイン


「事実だな」


 ガルド


「黙れ」


 その時、娘がきらきらした目で言った。


「お兄ちゃんかっこいいね」


 ガルドの妻が微笑む。


「そうね」


 それから、ほんの少しだけガルドをちらりと見る。


「少し羨ましいわね」


 ガルド


「……」


 無言。


 ダインがぼそっと言う。


「言われてるぞ」


 ガルド


「聞こえている」


 レイナが小声で言った。


「奥さん、見た目より大物」


 マリナはまだ真っ赤だった。


 ユウトに抱きつかれたまま、視線だけでレイナを牽制している。


 だがレイナは怯まない。


「先生」


「なによ」


「じつはちょっと期待してるでしょ」


 マリナの肩がびくっと揺れる。


「してないわよ!」


 レイナはさらに続けた。


「じつはちょっと喜んでるでしょ」


 数秒の沈黙。


 マリナは視線を逸らして言う。


「…………べつにそんなことないわよ」


 その間が一番面白かった。


 酒場がまたどっと沸いた。


 常連の一人が言う。


「いや、先生だし」


「もう手遅れだし」


 マリナが振り向く。


「いや、私は?」


 常連はまったく悪びれない。


「いや、先生だし」


「もう、手遅れだし」


 レイナがついに吹き出した。


 店主は笑いすぎて涙目だ。


 ダインは無表情のまま杯を置き、ガルドは天井を見た。


 だが二人とも、口元だけは少しだけ動いていた。



 騒ぎはさらに大きくなる。


 常連たちが外へ人を呼び始めたのだ。


「おい!」


「まだ飲むなよ、みんな呼んでくる!」


 レイナが即座に言う。


「いや、呼ぶな!」


 だが常連は真顔だった。


「今この街で一番面白いのに呼ばなきゃ損だ」


「正気ですか!?」


「正気だ!」


 少しして、本当に人が増えた。


 店の外から覗き込む者までいる。


「あっ」


「なんだよ、公演今日だったのか」


 レイナ


「公演じゃない!」


 ガルドがぼそっと言う。


「見物料取るか」


 ダイン


「冒険者より儲かるかもな」


 レイナ


「大人って汚い!」


 店主が笑いながら言う。


「ここはおれたちが払っとく」


「売上三倍だしな」


 常連が胸を張る。


「これまで生きてきて一番面白い」


 レイナ


「そこまでか」


 だが、熱気を見る限り誇張ではなかった。


 ユウトはそんな祭り騒ぎなど気にせず、ひたすらマリナへの愛を語っていた。


「先生」


「世界で一番愛してるのは絶対に俺です」


「はいはい」


「先生」


「愛は増えるんですよ」


「分かったから」


「先生」


「好きです」


 今度は少し小さな声だった。


 その方が余計に効いた。


 マリナは耳まで真っ赤になり、けれど振りほどかず、視線を泳がせるしかない。


 その様子がまた、周囲にはたまらなく面白かった。



 十分すぎるほど騒ぎになったところで、ようやく撤収となった。


 ガルドが立ち上がる。


「帰る」


 ダインも頷く。


「充分だ」


 店主は満足そうに腕を組んだ。


「今日は大当たりだったな」


 常連たちも口々に言う。


「また来いよ!」


「先生もな!」


「次はもっと早い時間からやれ!」


 レイナが即座に返す。


「だから公演じゃないですってば!」


 会計は結局、本当に店主と常連たちが持ってしまった。


 店主が言う。


「ここはおれたちが払っとく」


「売上三倍だしな」


 常連も頷く。


「それくらいの価値はあった」


 ガルドは低く言った。


「二度とやらん」


 だが誰も信じていなかった。



 夜の街を歩く。


 ユウトは当然のようにマリナに抱きついたままだった。


「先生」


「落ち着きます」


「はいはい」


 通りすがりの住人が気付く。


「ああ、今日は飲んだんだな」


「先生連れなら安全だ」


「今日は家族連れ付きか」


 娘が楽しそうに言う。


「お兄ちゃん元気だね」


 妻が笑う。


「そうね」


 それから、ガルドをちらりと見る。


「少し羨ましいわね」


 ガルドは無言だった。


 それでも、その無言はさっきより少しだけ柔らかい気がした。


 ダインが横で言う。


「努力しろ」


 ガルド


「余計なお世話だ」


 レイナは隣で肩を震わせている。


「今日すごかったですね」


 マリナは赤いまま言う。


「あなた、笑いすぎよ」


「だって先生、ずっと褒められてましたし」


「だからって……!」


 ユウトはそんな会話も気にせず言った。


「先生」


「愛は傷付きません」


「増えるだけです」


「分かったから、もう少し静かに歩きなさい」


 娘が言う。


「お兄ちゃん、かっこいいね」


 妻が笑った。


「そうね。少し羨ましいわね」


 またガルドをちらりと見る。


 ガルド


「……」


 無言。



 借家に戻る。


 ユウトは寝台に座らされる。


 マリナが言う。


「はいはい」


「ベッドだから靴脱いで」


 ユウトは素直に従う。


 マリナが頭を軽く撫でる。


「はいはい」


「いい子だからもう寝ようね」


 ユウトは満足そうに目を細めた。


「先生愛してます」


 そのまま、数秒で寝息。


 レイナが言う。


「ほんとすごいですね」


 ダイン


「切り替えが早い」


 ガルド


「だから危険なんだ」


 少し静かになる。


 ユウトの寝息だけが聞こえる。


 レイナがマリナを見る。


「先生」


「なに」


「ちょっと嬉しいんでしょ」


 マリナは数秒黙った。


 そして視線を逸らしながら言う。


「…………そんなことないわよ」


 レイナがにやにやする。


 ダインは何も言わない。


 ガルドも何も言わない。


 ただ、借家の中には妙に温かい空気が流れていた。



 その頃、酒場では。


 店主が真顔で言った。


「とりあえずユウトが来たら看板出すか」


 常連がすぐに頷く。


「ナイスアイデア」


 こうして、共和国の交易都市では、また一つ余計な名物が育ちつつあった。

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