第51話 いつもの酒場でユウトくんがいつも通りだった件
ギルドの受付で、三頭分の討伐報告が終わった。
ユウトが収納から魔物の死体を取り出すと、受付の女性が手際よく確認していく。牙、体格、傷口、毛並み。慣れた動きだった。
「確かに対象です。三頭分、受理します」
机の上に革袋が置かれる。
「討伐報酬と素材の買い取り、合わせて銀貨三十枚になります」
レイナが少し目を丸くした。
「結構いきましたね」
ガルドが袋の中を軽く見て言う。
「悪くない」
ダインも頷く。
「上々だ」
革袋の中の銀貨を机に出す。
ガルドが言った。
「六等分だな」
ユウトが首を傾げる。
「六?」
ダインが短く説明する。
「パーティ資金だ」
「遠征費や消耗品に使う」
レイナが頷く。
「なるほど」
銀貨三十枚。
六等分。
一人五枚。
残り五枚はパーティ資金。
銀貨を分け終えると、ガルドが銀貨五枚をまとめてマリナの方へ寄せた。
「預かっておいてくれ」
マリナは頷いた。
「わかったわ」
ダインが言う。
「必要な時に使う」
ユウトは頷く。
「便利ですね」
ガルドが言う。
「長くやるならな」
⸻
ギルドを出ると、街は夕暮れだった。
屋台の煙がゆっくり流れ、通りには仕事帰りの人間が増えている。
レイナが言う。
「今日はいい仕事でしたね」
ガルド
「悪くない」
ダイン
「実入りもいい」
ユウトは笑った。
「じゃあ」
四人を見る。
「飲みに行きましょう」
レイナ
「またですか」
マリナ
「ほどほどにね」
ガルド
「いつもの店だな」
ダイン
「監視付きだ」
ユウト
「?」
⸻
借家の近くにある酒場は、すでに賑わっていた。
扉を開けると、肉と酒の匂い、笑い声が一気に流れてくる。
カウンターの向こうで、店主がガルドを見る。
「ガルドか」
「久しぶりだな」
それからユウトを見る。
「今日は飲むのか?」
レイナが答える。
「まだ決めてません」
奥の席の常連がこちらに気付いた。
「あ」
「ユウトだ」
「先生もいる」
酒場が少しざわつく。
ユウトは首を傾げた。
「?」
店主が席を指す。
「そっち使え」
近くの常連が言う。
「先生そこ」
マリナ
「?」
「隣そこな」
理由は単純だった。
「先生が隣なら安全」
酒場に笑いが起きる。
席は自然に決まった。
マリナ
ユウト
ダイン
向かいに
レイナ
ガルド
ユウト
「?」
レイナ
「気にしないでください」
⸻
料理が運ばれてくる。
焼いた肉。
豆と野菜の煮込み。
固いパン。
普通に食事が始まる。
レイナが肉を食べながら言う。
「このお肉、結構おいしいですよね」
ダイン
「ボアの肉だ。よく出回ってる」
ガルド
「討伐依頼も多い」
レイナ
「えっもうお肉になってるんですか?」
ダイン
「俺たちの狩った個体じゃない」
ガルド
「ボアは討伐依頼の多い魔物だからな」
レイナ
「あっそっか」
食事は普通だった。
本当に普通だった。
店主が酒瓶を卓に置くまでは。
「飲むか?」
常連たちがさりげなくこちらを見る。
ユウトは素直に言った。
「ありがとうございます」
杯に酒を注ぐ。
とく、とく、と澄んだ音がする。
ユウトはそのまま口に運んだ。
一口。
もう一口。
数秒。
それから、ゆっくりとマリナの方を向いた。
真顔だった。
「先生」
「先生、愛してます」
酒場の常連が言う。
「始まった」
ダイン
「早いな」
ガルド
「始まるな」
ユウトはそのままマリナに抱きついた。
「先生」
「落ち着きます」
マリナ
「はいはい」
常連が頷く。
「先生席正解」
ユウトはマリナを見て言う。
「先生」
「痩せましたね」
「スタイルまた良くなりました」
「ますます綺麗です」
レイナ
「先生また褒められてますね」
マリナ
「うるさい」
ユウトは真面目な顔で続けた。
「愛は素晴らしいのです」
「愛は傷付きません」
「増えるだけです」
レイナ
「いやそれは無理」
酒場に笑いが広がる。
ユウトは常連の一人を見た。
「あなた」
「隣の人好きですね」
酒場
「やめろ!」
「当たってる!」
ユウトは真剣な顔で言う。
「愛してるなら言うべきです」
「愛はちゃんと口に出さないといけません」
常連たちは腹を抱えて笑っている。
ユウトは今度はガルドを見る。
「ガルドさん」
「奥さんとラブラブです」
「とてもグッドです」
ダイン
「事実だな」
ガルド
「黙れ」
⸻
しばらくして、ガルドが立ち上がった。
「帰る」
ダインも頷く。
「充分だ」
ユウトはマリナに抱きついたままだった。
夜の街を歩く。
通りの住人が言う。
「ああ」
「今日は飲んだな」
⸻
借家に戻る。
マリナが言う。
「はいはい」
「靴脱いで」
寝台に座らせる。
頭を軽く撫でる。
ユウト
「先生」
「愛してます」
数秒後。
寝息。
レイナ
「切り替え早いですね」
ダイン
「いつも通りだ」
ガルド
「危険なんだ」
⸻
翌朝。
ユウトはすっきりした顔で起きた。
「よく寝ました」
レイナが言う。
「覚えてませんね」
ユウト
「?」
「何をです?」
マリナは水を飲みながら言った。
「別に」
ユウトは普通に笑った。
「昨日楽しかったですね」
それは、確かに事実だった。




