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クラスごと異世界転移したモブの俺、ハズレスキル【無限収納】が覚醒したので異世界で無双します  作者: よるねこ
第一章

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第49話 後半 危険なスキルなので仲間に全部話したら、もっと危険なスキルがありそうだと思われた件


ユウトが外へ出てから、そう時間は経たなかった。


借家の中は、先ほどまでと同じように静かだった。

けれど、その静けさの質は少し違っている。


もうすぐ、引き返せない話をする。

そう分かっているからだ。


レイナは無意識に足先を揺らしていたが、途中でそれを止めた。

マリナは湯気の立つコップを机に置いたまま、まだ手を離していない。



居間の外、玄関の方で扉の開く音がした。


少し遅れて、男二人分の足音が近付いてくる。


やがて、居間の扉が開いた。


先に入ってきたのはガルドだった。

普段通りの顔をしているが、三人の空気を見た瞬間、表情の色がほんの少し変わる。


「なんだ」


「ずいぶん改まってるな」


冗談めかした調子ではあったが、声は少し低い。


その後ろから入ってきたダインは、最初から無駄がない。

部屋の空気を一瞬で読んだらしく、扉を閉めると同時に腕を組んだ。


「……話があるのか」


ユウトは椅子に座り直し、小さく頷いた。


「はい」


その返事は短かったが、真剣さは十分に伝わった。


ガルドはそのまま向かいの椅子を引いて座る。


「なるほど」


「軽い話じゃなさそうだな」


ダインも壁際に立ったまま言う。


「スキルの話か」


ユウトは少しだけ目を見開いた。


「分かりました?」


ダインは肩をすくめる。


「パーティになった以上、一度は通る話だ」


「むしろ今まで無かった方が珍しい」


ガルドも小さく頷く。


「だな」


「聞く側としても、知らないまま組み続ける方が怖い」


その言葉に、ユウトは少しだけ肩の力を抜いた。


すでに二人とも、この話が重いものだと理解している。

だからこそ、下手な前置きは要らない。


ユウトは一度だけ呼吸を整えた。


「じゃあ、遠慮なく言います」


レイナとマリナも黙っている。


三人の中では、もう話すと決めた。

あとは、相手にどう受け止められるかだけだ。


ユウトはまっすぐ二人を見て言った。


「俺のスキルは二つあります」


ガルドもダインも黙って聞いている。


「一つ目は、無限収納です」


一瞬の間が空く。


だが、二人とも口を挟まない。


ユウトは続ける。


「二つ目は、完全鑑定です」


その瞬間。


部屋の空気が、静かに止まった。


ガルドの眉がゆっくり寄る。


ダインの目も、わずかに細くなった。


数秒、誰も何も言わない。


先に口を開いたのはガルドだった。


「……待て」


声は低く、短い。


ダインも続ける。


「もう一度言え」


ユウトは頷いた。


「無限収納と、完全鑑定です」


「隠していてすみません」


謝罪の言葉は入れたが、言い訳はしなかった。


ここで言い逃れのようなことをすれば、せっかくの信頼が薄くなる。

ユウト自身、それは分かっていた。


ダインが言う。


「細かく説明しろ」


「なにがどこまで出来る」


ユウトは最初から全部話した。


収納について。


ただ物を入れるだけの普通の収納ではないこと。

容量の限界が実質ないこと。

触れている物ならなんでも収納できること。

取り出し位置もある程度調整できること。

そして、収納空間の中では時間の流れが止まっていること。


完全鑑定について。


物の情報だけではなく、状態や性質も見えること。

装備の質や傷み具合も確認できること。

相手の体調や魔力、持っているスキルまで把握できること。


その説明は簡潔だったが、隠しはなかった。


途中でレイナとマリナが何かを足すこともない。

三人とも、今日は“全部言う”と決めている。


説明が終わる。


そしてまた、沈黙が落ちた。


先に反応したのはガルドだった。


額に手を当て、重く息を吐く。


「……おい」


ダインも低く言った。


「これは」


「ダメだ」


あまりにも即答だった。


ユウトは苦笑する。


「やっぱりそうなります?」


ガルドは真顔で言う。


「なるに決まってる」


「そんなもの、公表したら終わりだ」


ダインも続けた。


「絶対に口外するな」


その言い方に冗談は一切ない。


マリナが少しだけ驚いたように聞く。


「そこまで?」


ガルドはマリナの方を見て、静かに頷いた。


「そこまでだ」


そして、改めてユウトへ向き直る。


「ユウト」


「そのスキルはな」


「便利とか、強いとか、そういう話じゃない」


少し間を置いて、はっきりと言った。


「知られれば」


「必ず狙われる」


その一言は、部屋の空気を一段深く沈めた。


ユウトは小さく苦笑する。


「そこまでですか?」


ダインが短く答える。


「そこまでだ」


ガルドも続ける。


「国」


「貴族」


「商人」


「研究者」


「そういう連中は、力を見れば必ず使い道を考える」


「お前の意思なんか関係ない」


ダインが言う。


「強い力は」


「それだけで理由になる」


「欲しがる理由にも、囲い込む理由にも、潰す理由にもなる」


その言い方は、知識ではなく経験から来る重さを持っていた。


ユウトは少しだけ視線を落とした。


理解できないわけではない。

むしろ、予想していた反応に近い。


それでも実際に口にされると、その危険性がより現実味を帯びる。


ガルドは椅子の背に軽くもたれたまま言った。


「しかもお前は若い」


「仲間もまだ少ない」


「地位も無い」


「守る力も十分じゃない」


ユウトは小さく肩をすくめる。


「弱くはないと思いますけど」


ガルドは即座に返した。


「そういう意味じゃない」


そして少しだけ声を落とす。


「強いかどうかと、守り切れるかは別だ」


「一人で何でもできるなら、世の中に利用される奴はいない」


その言葉は重かった。


ダインも続ける。


「面倒な相手は、正面から来るとは限らない」


「金でも動く」


「脅しでも動く」


「立場でも動く」


「お前一人を潰せなくても」


「周りから崩す方法はいくらでもある」


そこまで言われて、レイナが小さく息を呑む。


今まで三人だけで危険だと思っていたものが、もっと具体的な輪郭を持って目の前に置かれた気がした。


マリナも真面目な顔のまま言う。


「……やっぱり、隠してきたのは間違ってなかったわね」


ダインは頷く。


「大正解だ」


ガルドも同じく頷いた。


「今まで通りにしろ」


「外では普通の収納スキルのふりをしろ」


「それが一番安全だ」


ユウトは素直に頷く。


「分かりました」


レイナも言う。


「鑑定も外では極力使いません」


ダイン


「その方がいい」


ガルドは少しだけ苦く笑った。


「お前たち、よく今まで隠してたな」


マリナが答える。


「危ないのは分かってましたから」


「それに」


「私たちも、この世界のことがまだよく分かっていなかったから」


「軽々しく話さない方がいいと思ってたんです」


ダインが頷く。


「それで正しい」


「知らないうちは、隠すくらいでちょうどいい」


 


少し空気が和らいだところで、ダインが視線を動かした。


「次だ」


「そっちのスキルも確認する」


向けられた視線の先はマリナだった。


マリナは小さく肩をすくめる。


「私のスキルは二つ」


「指導」


「戦術」


その答えに、ダインもガルドも頷く。


名前だけなら、前から聞いていたのだろう。


だが今回は、それで終わらない。


ユウトが言う。


「先生、ちゃんと鑑定していいですか」


マリナは一瞬だけ視線を逸らした。


これまでも、ユウトが鑑定しようと思えば出来ただろう。

だが、そうしてこなかったのには理由がある。


ユウトの鑑定は、必要以上に色々見える。


見えるからこそ、避けてきた。


マリナ自身も、そこは分かっていた。


だからこそ少しだけため息をついて言う。


「……もういいわ」


「今さらだし」


「今日は全部話す日なんでしょう」


ユウトは頷いた。


「うん」


完全鑑定を使う。


意識を向けると、情報が流れ込んできた。


ユウトの表情が少しだけ変わる。


「……先生」


マリナが少しだけ身構える。


「なに?」


「これ」


「思ってたよりずっと強いです」


ガルドが眉を上げる。


「ほう」


ユウトは整理しながら説明した。


「指導スキルは、ただ人に教えるのが上手くなるだけじゃないです」


「訓練効率そのものを上げる」


「しかも、一緒に行動してる相手のスキル習熟速度にも補正がかかります」


レイナが目を丸くする。


「え?」


ユウトは頷く。


「簡単に言うと」


「先生と一緒にいると、みんなスキルが伸びやすくなる」


「訓練だけじゃなくて、実戦でも」


ガルドが低く唸った。


「……それは強いな」


ダインも素直に言う。


「パーティ向きどころじゃない」


「成長の速度そのものが変わる」


ユウトはさらに続ける。


「しかも、これ」


「かなり広くかかってます」


「先生が本気で誰かを育てようと思ったら、かなりの速度で伸びます」


マリナは少し困ったような顔になった。


「そんなに大げさな……」


レイナがすぐに言う。


「大げさじゃないですよ」


「それってもう、先生がいるだけで成長速度が違うってことですよね?」


ユウト


「そう」


「かなり違う」


ガルドが腕を組む。


「なるほどな」


「だから、短い期間でもお前たちの連携が妙に速くまとまってたのか」


ダインも頷く。


「説明はつく」


それからユウトは次のスキルについて言った。


「戦術スキルは、さらに実戦向きです」


「状況判断能力の強化」


「敵味方の位置関係の把握」


「指示の正確さ」


「それに、味方の連携成功率にも補正が入ってます」


ダインの目が少しだけ細くなる。


「……戦場で一番欲しいやつだな」


ガルドも言う。


「前衛が迷わない」


「後衛が遅れない」


「指示が噛み合う」


「強い」


マリナは少し頬を染めた。


「そんなに言われると、逆に落ち着かないんだけど」


レイナが笑う。


「先生、想像以上にすごい人だったんですね」


マリナ


「何よ、その言い方」


ユウトは苦笑した。


「でも、先生がいたから上手く回ってたのは本当だと思う」


その言葉に、マリナは少しだけ目を伏せた。


嬉しそうで、でも照れている顔だった。


 


次に、ユウトはレイナへ視線を向ける。


「次」


レイナが姿勢を正す。


「はい」


「私は普通ですよ」


ユウトは鑑定した。


「水魔法」


「治癒」


「あと、魔力はかなり高い」


レイナが胸を張る。


「そこは自信あります」


ガルドが言う。


「回復役は貴重だ」


「しかも水魔法もあるなら、応用が利く」


ダインも頷いた。


「助かる」


「前衛が多少無理をしても戻せるのは大きい」


レイナは少し照れたように笑う。


「ありがとうございます」


ユウトは全員を見た。


前衛。

盾。

弓。

魔法。

回復。

戦術。

そして補助。


今さらながら、本当にバランスの良いパーティだと思う。


それだけに、この先も一緒に動くなら、秘密を共有しておく意味は大きかった。


 


そして最後に、ユウトは言った。


「あと一つ」


「これはスキルじゃないです」


ガルドとダインが黙る。


ユウトは続けた。


「俺たち三人」


「転移者です」


 


今度の沈黙は、さっきよりも少し長かった。


 


ガルドがゆっくりと言う。


「……なるほど」


ダインも小さく頷く。


「そういうことか」


それ以上に大きく驚くことはなかった。


二人とも、どこかで可能性を考えていたのかもしれない。


ガルドが言う。


「それも隠せ」


「絶対だ」


ダインも同意する。


「危険だ」


「スキル以上に面倒なことになる可能性もある」


ユウトは頷いた。


「分かってます」


ガルド


「これまで隠してきたのは正解だ」


ダイン


「むしろ軽々しく話していたら止めていた」


レイナが小さく息を吐く。


「ですよね」


 


そして、また少し静かな時間が流れた。


 


ガルドがふとユウトを見る。


「だが」


「俺たちに話した」


ユウトは肩をすくめた。


「仲間ですから」


その答えに、ガルドは一瞬だけ黙った。


それから小さく言う。


「……ああ」


「そうだな」


ダインも短く言った。


「信用する」


その一言で十分だった。


ここまで重い話をして、それでも二人は引かなかった。

秘密を秘密のまま受け取り、守ると決めた。


それが分かっただけで、三人の中にあった緊張はかなり軽くなった。


レイナが大きく息を吐く。


「なんか空気重くなりましたね」


ガルドが立ち上がる。


「じゃあ」


「飲みに行くか」


レイナが即座に乗った。


「賛成です」


ダインも頷く。


「俺もだ」


ユウトはきょとんとする。


「?」


「なんでそうなるんです?」


レイナが笑う。


「こういう時は飲むんですよ」


マリナは少しだけ呆れた顔をしたが、反対はしなかった。


重い話のあとに、そのまま部屋で黙り込むよりはいい。

それは確かだ。


 


その夜。


 


一行は、いつもの酒場にいた。


店主がガルドを見る。


「また来たな」


それからユウトを見る。


「今日は飲むのか?」


ユウト


「?」


その反応だけで、周囲の常連たちはもう笑い始めている。


「先生席、空けとけ」


「今日は重要な話が終わった後らしいぞ」


「いつも以上に危なそうだな」


ユウトは何のことか分からない顔をしていた。


「?」


マリナは深くため息をつく。


「もういいわ……」


ガルドが低く言った。


「飲ませるなよ」


店主が笑う。


「分かってる」


「……たぶん」


その“たぶん”が一番信用できなかった。


料理が運ばれてくる。


肉。

パン。

煮込み。

そして、当然のように酒。


ユウトはそれを見て、何も疑わずに杯を手に取った。


「……」


レイナが止める間もなく、一口。


二口。


数秒。


それから、ゆっくりとマリナの方を向く。


その目は妙に真剣だった。


マリナが身構える。


「……なに?」


ユウトは言った。


「先生」


「はい?」


「先生、愛してます」


酒場が一瞬で静まり返る。


それから次の瞬間、常連たちの顔が一斉に緩んだ。


「始まった」


「今日は早いな」


「やっぱり当たりだ」


マリナの顔は一気に赤くなる。


「く、黒崎くん!?」


ユウトは止まらない。


「俺の愛は!」


「決して傷付くことも!」


「失われることもありません!」


「増える一方です!」


酒場、大爆笑。


店主がカウンターを叩く。


「はははっ!」


「名言だなあ!」


レイナはもう笑いを堪えきれていない。


ダインは片手で顔を覆った。


ガルドは額を押さえたまま言う。


「……」


「今日は」


「かなり重要な話を聞いた気がする」


ダインも低く言う。


「同感だ」


その時、ユウトは当然のようにマリナへ抱きついていた。


「先生」


「落ち着きます」


マリナ


「ちょっと離れなさい!」


常連たちはもう慣れたものだった。


「先生席、正解だな」


「被害最小限だ」


「先生すげぇ」


ガルドが腕を組んだまま、呆れ半分で言う。


「だが」


「これを見ると」


少し間を置く。


「大したことない気がしてくるな」


ダインが小さく頷く。


「同感だ」


それからほんの少しだけ考えて、真顔で言った。


「実は」


「酒暴走とかのスキルも隠れてないか?」


レイナが吹き出す。


マリナは真っ赤なまま怒鳴る。


「そんなわけないでしょ!」


ユウトは抱きついたまま、まったく分からない顔で首を傾げていた。


「?」


何のことか、本当に分かっていなかった。


その様子を見て、酒場の笑いはしばらく止まらなかった。

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