第4話 異世界の食事はあまり美味しくないらしい(あと風呂もない)
○宿舎と二人部屋○
黒崎悠人たちは、騎士に案内され城の敷地を歩いていた。
さきほどまでいた大広間の豪華さとは違い、こちらは実用的な建物が並んでいる。石造りの倉庫、厩舎、兵士たちの宿舎らしき建物。
やがて騎士が立ち止まった。
「こちらになります」
目の前にあったのは二階建ての石造りの建物だった。
城の一部というより、宿屋に近い雰囲気だ。
「ここ?」
クラスメイトの男子が言う。
騎士は頷いた。
「皆様にはこちらで生活していただきます」
その言葉に微妙な空気が流れる。
誰も口には出さないが、さっきの説明を思い出している。
勇者パーティは王城。
それ以外は宿舎。
扱いの差は明らかだった。
「まあ、勇者だしな」
誰かが苦笑する。
悠人は何も言わなかった。
だが、少しだけ引っかかっていた。
騎士が建物の扉を開ける。
「部屋は二人部屋です」
「男子は一階、女子は二階となります」
廊下の左右に部屋が並んでいた。
思ったより整った建物だ。
「部屋割りを発表します。
騎士がごわごわとした紙を見ながら名前を読み上げる。
「桜井亮、岩本健」
「山田健太、西村怜」
クラスメイトたちはそれぞれの部屋へ向かっていく。
やがて、悠人の名が呼ばれた。
「……黒崎悠人」
騎士は紙を見て続ける。
「……相沢翔太」
「はい」
手を挙げたのはクラスでも特に目立つタイプではない男子だ。
ーーー良かった。
内心、悠人は胸をなでおろす。
正直、この状況で陽キャと同室になるのはきつい。
「よろしく」
相沢が言う。
「よろしく」
二人は部屋へ入った。
中はシンプルだった。
ベッドが二つ。
机。
棚。
それだけだ。
部屋の隅に掃除用なのか木製の桶が置いてある。
「思ったより普通だな」
相沢が言う。
「そうだな」
悠人はベッドに腰掛けた。
そのとき相沢が聞いてきた。
「黒崎さ」
「スキル何だった?」
「収納と鑑定」
正しくは、
【無限収納】
と、
【完全鑑定】
だがそこまで言わなくてもいいだろう。
相沢は少し驚いた。
「マジか」
「おれも鑑定持ってる」
そう言って机の上のコップをじっと見る。
「鑑定」
少ししてそう言った。
〈木のコップ〉
〈材質:木〉
悠人は思わず笑いそうになる。
「それだけ?」
「それだけ」
相沢は肩をすくめた。
「まあ慣れたら少し変わるかもな」
そう言って続ける。
「ちなみにおれのもう一個のスキル」
【商業】
悠人は少し興味を持った。
「商業?」
「交渉しやすくなったり、信用されやすくなるらしい」
戦闘向きではないが、役に立ちそうなスキルだった。
そのとき廊下が騒がしくなる。
窓の外を見ると、兵士たちが鉄の檻を運んでいた。
中には巨大な狼のような生き物。
あきらかに普通の狼では無い。
体は人よりも大きく、牙が長い。
「………あれが魔物か」
相沢が小さく言った。
悠人は静かに窓から離れた。
この世界はゲームじゃない。
本当に危険な生き物がいる世界だった。
○食堂と異世界生活○
夕方になると騎士に食事が出来たので食堂に集まるに言われた。
宿舎の食堂にぞろぞろ人が集まり始めた。
長い木のテーブルが並び、騎士団の食堂らしい簡素な作りになっている。
どうやら学食のように自分たちで食事を取りに行く方式らしい。
悠人と相沢も食事を受け取り、適当な席に座った。
木製のトレーに乗っているのは。
黒いパン。
スープ。
少しの肉。
相沢がスープを飲む。
「………うーん」
悠人もスープを飲む。
………味が薄い。
「……あんまり美味しくないな」
「まあ、騎士団の飯だし」
相沢の感想に悠人は苦笑する。
そのとき後ろから声をかけられた。
「黒崎くん」
振り向くと橘真里奈と桐谷玲奈だった。
「ここいい?」
「どうぞ」
二人は向いに座る。
玲奈がスープを飲む。
「うわ」
「…薄い」
今度はパンを指で叩く。
「…硬い」
相沢が笑う。
「石じゃないぞ」
真里奈は少し笑った。
「栄養はありそうだけど」
「美味しいとは言えないわね」
「そういえば二人は同室?」
悠人が聞くと玲奈が頷いた。
「うん」
「先生と同じ部屋」
真里奈も頷く。
「女子も二人部屋よ」
「玲奈と同室」
どうやら仲良くなったらしい。
玲奈が笑う。
「先生で良かった」
「あんま知らない人だと怖いし」
そのとき玲奈が周囲を見た。
「そういえば」
「お風呂ってどこ?」
そういえばそれらしき物は見ていない。
相沢が近くを通りがかった兵士に聞く。
「あの、すいません」
「風呂ってありますか?」
兵士は少し考えて答えてくれた。
「浴場なら城にある」
ーーーーー城にしか無いのか。
「だが、毎日使うものじゃない」
玲奈が驚く。
「えっ。毎日入らないの?」
兵士は肩をすくめた。
「普通は体を拭くだけだ」
当たり前のように兵士は言う。
「浴場は週一ぐらいだ」
それを聞いた玲奈が机に突っ伏した。
「無理〜。毎日お風呂入りたい」
真里奈が少し笑う。
「日本の方が珍しいのよ」
悠人は思う。
本当にここは異世界だ。
悠人は残っていたスープを飲み干した。
味は薄い。決して美味しくはない。
だが、それよりも。
この世界の現実の方が、ずっと重かった。




