第47話 宿屋代がもったいないのでガルドさんの隣の借家を借りることになった件
護衛依頼を終え、ユウトたちはギルドに戻っていた。
受付で依頼票を提出する。
受付嬢が帳簿を確認しながら言う。
「依頼完了ですね。お疲れ様でした」
報酬袋がカウンターに置かれる。
ユウトはそれを受け取りながら軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
今回の護衛も特に大きな問題はなかった。
街道では魔物が出ることもあるが、遭遇したのは小さな群れだけだ。
ダインとガルドが前に出れば、それだけで魔物は引き下がった。
受付嬢が書類を片付けながら言う。
「問題なく終わったみたいですね」
ダイン
「運が良かっただけだ」
ガルド
「それでいい」
「護衛は何も起きないのが一番だ」
手続きを終え、ユウトたちはギルドの外へ出た。
昼の街はいつも通り賑やかだ。
屋台の匂い。
行商人の声。
荷車の音。
ユウトは軽く体を伸ばした。
「やっと戻ってきた感じしますね」
レイナ
「ですね」
「街の中はやっぱり落ち着きます」
マリナも頷く。
「しばらくはこの街にいることになりそうね」
その言葉にユウトが言う。
「そうなると」
「宿屋代、結構かかりますよね」
レイナ
「それ思ってました」
「毎日払うと地味に痛いですよね」
マリナ
「長くいるなら考えた方がいいわね」
その会話を聞いていたガルドが言った。
「借家の話か?」
ユウト
「はい」
ユウトたちは以前、ガルドが借家を貸している話を聞いていた。
冒険者や行商人は長く滞在することも多い。
ずっと宿屋暮らしだと金がかかるため、月単位で家を借りる者もいるらしい。
ユウト
「そういえばガルドさん」
「借家って今空いてるんですか?」
ガルドは少し考えてから答えた。
「一軒だけな」
ダイン
「タイミングがいいな」
ユウト
「見せてもらえますか?」
ガルド
「構わない」
そうして一行は住宅区へ向かった。
しばらく歩くと見覚えのある家が見えてくる。
ガルドの家だ。
その隣にある家の前でガルドが止まった。
「ここだ」
ユウトは建物を見上げた。
木造の二階建て。
派手ではないが、手入れはされている。
ユウトは素直に言った。
「思ったよりずっといいですね」
レイナ
「本当ですね」
「宿屋より落ち着きそう」
そのとき隣の家の扉が開いた。
「ガルド?」
顔を出したのはガルドの妻だった。
「あら」
「ユウトさんたち」
娘も後ろから顔を出す。
「お兄ちゃん!」
ユウトは笑って手を振る。
「こんにちは」
娘は嬉しそうに笑った。
ガルドが妻に説明する。
「借家を見せている」
妻は少し驚いたようだったが、すぐに頷いた。
「そうなのね」
ユウトたちは借家の中へ入った。
中はきれいに整っていた。
テーブル。
椅子。
棚。
寝台。
レイナ
「広いですね」
マリナ
「これなら十分ね」
ダインが壁を軽く叩く。
「問題ない」
ユウトは家の中を見回したあと、ガルドに向き直った。
「ガルドさん」
「この家、貸してもらえますか?」
ガルドは少し考えた。
そして静かに言った。
「この家は」
「俺の家の隣だ」
ユウト
「?」
ガルド
「俺の家の隣の借家は」
「よほど信用した相手にしか貸さない」
レイナ
「そうなんですか」
ガルドは頷く。
「何かあった時に困るからな」
少し沈黙。
そしてガルドが言った。
「お前らなら大丈夫だな」
ユウト
「本当ですか?」
ガルド
「ユウトが酒を飲まない限りはな」
レイナが吹き出した。
「そこなんですね」
マリナが小さくため息をつく。
隣で妻が笑った。
「あなたたちなら安心だわ」
その言葉にユウトは少し照れた。
「ありがとうございます」
こうして借家を借りることが決まった。
少し生活の準備を始める。
収納から鍋や食器を取り出すと、レイナが感心した。
「こういう時は本当に便利ですね」
ダイン
「助かる」
マリナ
「整理も早いわね」
準備が一段落したところでレイナが言った。
「じゃあ」
「部屋割りですね」
ユウト
「男女別でいいですよね」
レイナがにやりと笑う。
「えー?」
ユウト
「?」
レイナ
「先生とユウトくん、同じ部屋でもいいんじゃないですか?」
ユウト
「え?」
マリナ
「え?」
ダイン
「やめろ」
ガルド
「からかうな」
結局、
ユウトとダイン。
マリナとレイナ。
二部屋に分かれることになった。
マリナが小さく言う。
「……」
レイナが横から覗き込む。
「先生」
「ちょっと残念そうですね?」
マリナ
「そんなことないわ!」
レイナ
「そうですか?」
ユウト
「?」
ユウトは全く気づいていない。
準備が終わる頃には、家はすっかり落ち着いた雰囲気になっていた。
レイナが椅子に座る。
「宿屋より落ち着きますね」
ユウト
「ですね」
マリナ
「拠点があるのはいいわね」
ガルド
「何かあれば隣だ」
ダイン
「拠点はあった方がいい」
ユウトは頷いた。
そして言った。
「じゃあ」
レイナ
「?」
ユウト
「お祝いしましょう」
レイナ
「お祝い?」
ユウト
「新しい拠点ができたんですし」
マリナ
「そうね」
ダイン
「今日はゆっくり休め」
ガルドも頷く。
こうしてユウトたちの新しい拠点が決まった。
そして――
このあと、
ユウトの酒癖が街の伝説になることを、
この時まだ誰も知らなかった。




