第44話 前半 初めての護衛依頼は想像以上に気を使う仕事だった件
街門を出ると、石畳はすぐに土の街道へ変わった。
共和国の都市を囲む城壁は高く、遠くから見ても立派だ。
だが門を一歩出れば、そこはもう普通の街道だった。
馬車がゆっくりと進む。
車輪が土を踏む音。
馬の鼻息。
遠くで鳥が鳴いている。
ユウトは馬車の横を歩きながら、ちらりと後ろを見た。
街はもう少しずつ小さくなっている。
「……なんか」
思わず口に出る。
レイナが振り向いた。
「どうしました?」
「いや」
ユウトは少し笑う。
「本当に護衛依頼なんだなって」
レイナが笑う。
「今さらですか」
「ちょっとだけ」
前方ではダインが街道を見ながら歩いている。
その少し後ろでガルドが弓を背負ったまま周囲を警戒していた。
馬車の近くにはマリナがいる。
そして最後尾にレイナ。
五人パーティの隊形はすでに出来上がっていた。
ダインが言う。
「隊形確認」
全員が軽く反応する。
「ユウトとマリナ」
「前方警戒」
「了解」
「ガルドと俺」
「左右警戒」
「分かった」
「レイナ」
「後方」
「了解です」
商人が馬車から顔を出した。
「おお」
「手慣れてるな」
ダインは振り返らない。
「仕事だからな」
商人は少し安心したようだった。
⸻
街道は思ったより平和だった。
農民が荷車を押して歩いている。
別の商人の馬車ともすれ違う。
徒歩の旅人もちらほらいる。
レイナが言った。
「思ってたより普通ですね」
ユウトも頷く。
「だな」
魔物がうろうろしているような道ではない。
むしろ人通りは多い。
ダインが言う。
「だから油断する」
レイナが振り向く。
「え?」
ガルドが続けた。
「街道は安全に見える」
「だが」
「一番多いのは事故だ」
ユウトが聞く。
「事故?」
ダインが言う。
「止まれ」
全員が止まる。
馬車も止まった。
商人が顔を出す。
「どうした?」
ダインは街道を指差した。
「そこ」
ユウトが近付いて見る。
街道の中央に穴があった。
深さはそれほどでもない。
だが馬車の車輪が落ちれば、確実に止まる。
商人が顔をしかめた。
「気付かなかった」
ガルドが言う。
「こういうのが多い」
「馬車が止まる」
「そこで襲われる」
レイナが言う。
「なるほど……」
ユウトは穴を見ながら思う。
(確かに)
魔物と戦うより。
こういうことの方が現実的かもしれない。
ダインが言う。
「迂回する」
馬車はゆっくりと穴を避けて進んだ。
商人が言う。
「助かった」
「気付かなかったら落ちてた」
ダインは短く答える。
「それが仕事だ」
⸻
それからしばらく歩いた。
太陽は少しずつ高くなっている。
ユウトは前方の森を見た。
「……」
何か動いた気がした。
ダインが言う。
「気付いたか」
ユウトは頷く。
「います」
ガルドがすでに弓を構えていた。
「来る」
次の瞬間。
森から影が飛び出した。
ウルフだった。
三匹。
レイナが言う。
「ウルフ!」
ダインが叫ぶ。
「隊形維持!」
ユウトはすぐ前に出た。
短槍を構える。
最初の一匹が飛びかかってくる。
踏み込む。
突く。
槍が喉を貫いた。
残り二匹。
ガルドの矢が一本飛ぶ。
一匹の肩に刺さる。
レイナが魔法を放つ。
水弾がウルフの顔面に当たった。
ダインが盾で弾く。
ユウトが踏み込む。
短槍が二匹目の腹に突き刺さった。
最後の一匹は逃げようとする。
ガルドの矢。
喉を貫いた。
数秒。
戦闘は終わった。
商人が馬車から顔を出す。
「おお……」
「早いな」
ユウトは息を整えながら言う。
「普通の魔物です」
ダインが言う。
「だが」
「護衛中は追うな」
ガルドも言う。
「護衛対象から離れるな」
レイナが頷く。
「了解です」
ユウトも理解した。
(なるほど)
討伐と護衛は違う。
敵を倒すことが目的ではない。
守ることが目的だ。
⸻
商人は感心したようだった。
「頼もしいな」
それからユウトを見る。
「酒の話は聞いたが」
「戦いはまともだな」
レイナが吹き出した。
「そこなんですよ」
ユウトが苦笑する。
「なんか誤解されてません?」
マリナが言う。
「誤解じゃないわ」
ユウトは黙った。
⸻
太陽が傾き始めた頃。
ダインが言った。
「ここまでだ」
街まではもう少しある。
だが日没には間に合わない。
ガルドが頷く。
「野営だな」
商人もすぐに理解した。
「分かった」
「ここなら安全そうだ」
少し開けた場所だった。
ユウトが収納を使う。
テント。
鍋。
食料。
毛布。
商人が目を丸くする。
「便利なスキルだな」
ユウトは少し照れる。
「まあ」
レイナが笑う。
「このパーティの生命線です」
ダインが周囲を見る。
「警戒は交代」
ガルドが薪を集める。
マリナが食事の準備を始めた。
レイナは周囲を警戒している。
ユウトは焚き火を作った。
炎が上がる。
商人が笑った。
「いいパーティだな」
マリナが言う。
「まだ経験不足です」
ダインが言う。
「経験はこれからだ」
⸻
しばらくして食事が出来た。
干し肉のスープ。
パン。
簡単だが、温かい。
ダインが言う。
「確認」
全員を見る。
「酒は?」
レイナ
「無し」
マリナ
「無し」
ガルド
「無し」
ユウト
「……無し」
ダインが頷く。
「よし」
商人が笑う。
「徹底してるな」
レイナが言う。
「鉄則なんです」
ユウトがぼそっと言う。
「そんなに危ないかな」
四人が同時に言った。
「危ない」
ユウトは黙った。
⸻
焚き火が静かに燃えている。
夜が近い。
その時だった。
ユウトがふと森を見る。
「……」
枝が揺れた。
ダインが気付く。
「どうした」
ユウトは小さく言った。
「何かいます」
ガルドが弓を持つ。
レイナが魔力を集中する。
マリナが商人の前に立った。
森の奥。
何かが動いた。
魔物か。
それとも――
人間か。




