第3話 やっぱり勇者様は特別扱いだった
勇者。
その言葉が大広間に響いた瞬間から、空気は完全に変わっていた。
騎士たちは天城隼人の前で跪き、王も満足そうに頷いている。
まるで最初から、こうなると決まっていたかのようだった。
「勇者よ」
王は玉座からゆっくりと立ち上がった。
「そなたには、この世界を救う使命がある」
大広間が静まり返る。
隼人は少し戸惑った顔をしている。
「えっと………」
「オレ、ただの高校生なんですけど」
その言葉に、騎士の一人が微笑む。
「勇者様。最初は皆そう言われます」
王も続けた。
「勇者の力が、いずれそなたを導くだろう」
周囲の騎士たちが一斉に膝をつく。
「勇者様!」
「この世界の希望!」
大げさな光景だった。
だが。
誰も、それを否定しない。
むしろクラスメイトの方が盛り上がっていた。
「すげーじゃん」
「マジ勇者かよ!」
「主人公じゃん!」
隼人は照れくさそうに頭をかいている。
その横には、白石美咲、神崎剣也、高橋蒼真の姿がある。
【聖女】 【剣聖】 【魔導師】
さっき強いスキルが出たメンバーだ。
騎士たちの視線は、完全にその四人に集中していた。
そのとき。
宮廷魔道士が名簿を閉じて言った。
「では、勇者様方には王城での生活を用意しております」
クラスメイトたちがざわつく。
「王城?」
「マジかよ」
そのざわめきを無視して魔道士は続けた。
「騎士団が全面的に支援いたします」
「武器、装備、教育、全てです」
歓声が上がる。
だがその言葉を聞いた瞬間。
黒崎悠人は、少しだけ眉をひそめた。
………勇者様方?
そのとき、騎士が言った。
「勇者様、聖女、剣聖、魔導師の四名はこちらへ」
四人が前に出る。
騎士たちの態度は明らかに違っていた。
丁寧で、敬意がある。
まるで王族を扱うようだった。
その一方で。
残りの生徒には、誰も何も言わない。
微妙な沈黙が流れる。
数秒後。
クラスメイトの一人が手を上げた。
「あの………」
騎士が振り向く。
「おれたちは?」
騎士は少しだけ言葉を選ぶような顔をした。
「皆様にも宿舎を用意しております」
「まずはこの世界の知識や常識を学んでいただきます」
……なるほど。
悠人は小さく息を吐いた。
扱いの差は、はっきりしていた。
勇者パーティは王城。
それ以外は宿舎。
王国にとって重要なのは、明らかに勇者だけだ。
隣りにいた橘真里奈が小さく言った。
「黒崎くん」
「はい」
「差がすごいわね」
「ですね」
悠人は肩をすくめた。
「まあ、勇者ですし」
「それはそうだけど……」
真里奈は少し考え込む。
教師らしい顔だった。
ーーーーーまあ、本当に教師だけど。
そのとき、騎士が言った。
「では、こちらへ」
勇者パーティーが案内されていく。
騎士たちはとても丁寧だった。
まるで重要な客人のように扱っている。
だが。
残された生徒たちは、広間の中央に立ったままだ。
なんとなく、気まずい空気が流れる。
「……なんかさ」
誰かが小声で言った。
「勇者以外、いらなくね?」
笑いが起きた。
冗談のつもりだったのだろう。
だが。
悠人は、それを冗談とは思えなかった。
もし自分がこの国の王だったとしても。
勇者だけいれば十分だと思うかもしれない。
そのとき。
「みんな」
橘真里奈が声を上げた。
クラスメイトたちが振り向く。
「まだ状況が分からないわ」
「だから慌てて行動するのはやめましょう」
教師らしい、落ち着いた声だった。
「まずは情報を集める事」
「それが大事よ」
クラスメイトたちも少し落ち着いた。
「まあ、先生が言うなら」
「そうだな」
悠人はその様子を見ながら思う。
この先生、意外と肝が据わっている。
ーーーーーこれが年の功ってやつか。
悠人がそう心のなかで呟いた時。
………じろ。
何故か先生に睨まれた。
そのとき、騎士が再び声をかけてきた。
「宿舎へ案内します」
生徒たちはゆっくりと歩き出す。
石造りの廊下を進むと、大きな窓から外が見えた。
そこにはーーーーーー
見知らぬ街が広がっていた。
石造りの建物。
遠くに見える城壁。
そして空には、見たこともない鳥が飛んでいる。
「………マジで異世界だ」
誰かが呟いた。
その言葉を、誰も否定しなかった。
悠人は窓の外を見ながら思う。
勇者。
魔王。
スキル。
どうやら、この世界は本当にファンタジーらしい。
そして。
この物語には、すでに主人公がいる。
天城隼人。
勇者。
世界を救う存在。
ならば自分はーーーーー
なんだろう。
悠人は少しだけ笑った。
まあいい。
主人公じゃなくても、別に困らない。
ただ一つだけ、気になっていた。
この国は。
本当にーーーーー
味方なのだろうか。




