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クラスごと異世界転移したモブの俺、ハズレスキル【無限収納】が覚醒したので異世界で無双します  作者: よるねこ
第一章

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第37話 高山薬草を採りに山へ入ったら思ったより本格的な遠征になった件


まだ空が白み始める前の街を、ユウトたちは黙って歩いていた。


エルドリア共和国の朝は早い。


市場の準備をしている商人がもう動き始めているし、荷車を引く男たちも見える。

それでもさすがにこの時間は人通りが少なく、昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。


ギルド前で合流した五人は、そのまま街の門を抜け、山へ向かう街道へ入った。


先頭はダイン。


その後ろにガルド。


ユウト、マリナ、レイナが続く。


レイナが小さくあくびをした。


「眠いです」


ユウトも苦笑する。


「俺もです」


マリナが言った。


「だから早く寝なさいって言ったのよ」


レイナが少しだけ笑う。


「先生も少し眠そうですよ」


「……気のせいよ」


どう見ても少し眠そうだったが、ユウトはそこには触れなかった。


ダインが前を向いたまま言う。


「山に入る前に休憩は一回だけだ」


「無駄に止まるな」


「わかりました」


ユウトが答えると、ガルドが地図を見ながら補足した。


「昼前には麓に着く」


「そこから登る」


レイナが聞く。


「今日中に着きますか?」


「山の中腹までだな」


ガルドは答えた。


「そこで野営する」


「薬草があるのは、もっと上だ」


つまり今日は登るだけ。

採取は明日になる。


ユウトは周囲の景色を見ながら歩いた。


街道を少し離れると、もう空気が違う。

人の手が入った畑や道具小屋は消え、低い草地と木立が広がっている。


遠くには山が見えた。


思っていたより高い。


「結構ありますね」


ユウトが呟くと、ダインが短く答えた。


「ある」


レイナが顔をしかめる。


「今から少し帰りたくなってきました」


マリナが笑う。


「まだ早いわよ」



日が昇る頃には、街はもうかなり遠くなっていた。


最初の休憩は川辺だった。


小さな流れの脇に腰を下ろし、ユウトは収納から水袋を出す。


保存パンと干し肉も出した。


ガルドがそれを見て言った。


「やっぱり便利だな」


ユウトは肩をすくめる。


「運ぶだけならですけどね」


ダインが水を飲みながら言う。


「それだけでも十分だ」


レイナはパンをかじりながら周囲を見ていた。


「静かですね」


「この辺りはまだ安全だ」


ダインが答える。


「問題は山に入ってからだ」


マリナが聞く。


「魔物はいるの?」


ガルドが頷いた。


「いる」


「ただ、群れで出るような場所じゃない」


「それでも油断はしない方がいい」


ユウトは干し肉を噛みながら、ガルドの横顔をちらりと見た。


表情は落ち着いている。


だが、ずっと気を張っているのが分かる。


娘のことがあるのだから当然だ。


ユウトが何気なく聞いた。


「娘さんって、おいくつなんですか?」


ガルドは少しだけ視線を落とした。


「七つだ」


レイナが小さく声を上げる。


「まだ小さいですね」


「ああ」


ガルドは短く答える。


「だから助けたい」


当たり前の言葉だった。


でも、その短い言葉に全部入っていた。


マリナが静かに言う。


「助けましょう」


ガルドは少しだけ目を細めた。


「……ああ」


ダインが立ち上がる。


「行くぞ」


休憩は終わりだった。



山道に入ると、空気はさらに変わった。


土の匂いが濃くなる。


木々も高くなり、鳥の声が近くなる。


街道とは呼べない細い道が続き、足元には石が増えた。


ユウトは槍を背負い直す。


「思ったより本格的ですね」


ダインが前を見たまま言う。


「遠征だからな」


レイナが少し息を吐く。


「こういう時、収納スキルちょっと羨ましいです」


「荷物は軽いですけど、足は疲れますよ」


「それはそうですね」


マリナが歩きながら周囲を見ている。


王国にいた頃よりも、剣の扱いが自然になってきていた。


腰に下げた剣に時々手を添えながら、道の左右を警戒している。


その様子を見て、ユウトは少しだけ安心した。


先生はちゃんと強くなっている。


いや、強くなろうとしている。


昼過ぎ、少し開けた場所で二度目の休憩を取った。


ユウトが水を出し、レイナが座り込む。


「きついです」


「まだ中腹にも着いてない」


ダインのその一言に、レイナがさらに顔をしかめた。


「聞かなければよかったです」


ガルドは周囲を見ながら言う。


「今日のうちに少しでも上まで行きたい」


「明日の朝は時間との勝負だ」


マリナが確認する。


「薬草はそんなに朝限定なの?」


ガルドが頷く。


「日が高くなると駄目だ」


「露が落ちる前が一番いい」


ユウトはそこで少し考える。


収納に入れれば、採取後の状態は維持できる可能性が高い。

でも、採取のタイミングまではどうにもならない。


結局、朝に間に合わせる必要はある。


ダインが立った。


「行くぞ」


本当に無駄がない。


レイナが小さく言う。


「ダインさん、容赦ないですね」


ガルドが言った。


「山ではそれくらいでいい」


「甘い方が危ない」


レイナはしぶしぶ立ち上がった。


「がんばります」



夕方になる頃、ようやく中腹の少し開けた場所に着いた。


木々の密度が少し薄くなり、地面も比較的平らだ。


ダインが足を止める。


「ここだ」


ガルドも周囲を見て頷いた。


「悪くない」


「今日はここまでにしよう」


ユウトは軽く息を吐いた。


思っていたよりずっと疲れていた。


レイナはその場に座り込みそうになりながら言う。


「やっとです」


マリナが苦笑する。


「まだ野営の準備があるわよ」


「うわあ」


ユウトは収納から道具を出していく。


水袋。


保存食。


松明。


毛布。


ロープ。


ダインがそれを受け取って、手際よく役割を振った。


「ユウト、焚き火」


「レイナ、周囲確認」


「マリナ、食事の準備」


「ガルドと俺で外を見る」


「わかりました」


五人になると、準備はかなり早かった。


レイナは周囲を見ながらも、焚き火の様子をちらちら気にしている。


マリナは鍋の準備をしていた。


以前の野営よりも手際は良くなっている。


ユウトがそれを見ていると、マリナが気づいた。


「なに?」


「いえ」


「前より慣れましたね」


マリナは少しだけ得意そうに笑った。


「当然よ」


「いつまでも同じじゃないわ」


その言い方が少し嬉しそうで、ユウトもつられて笑った。


レイナが言う。


「先生、それ入れすぎると辛くなりますよ」


「入れてないわよ」


「今ちょっと危なかったです」


「入れてないって言ってるでしょう」


そんなやり取りをしているうちに、ダインとガルドが戻ってきた。


ダインが鍋を見る。


少し沈黙。


ユウトは思わず笑いそうになる。


だが今回はダインは何も言わなかった。


鍋を覗き込み、匂いを確かめてから言う。


「大丈夫だな」


マリナが小さく息を吐いた。


「よかった」


レイナが小さく笑う。


「先生、今日は合格ですね」


「今日はってなによ」



夕食は思っていたより美味しかった。


干し肉と野菜を煮込んだだけの簡単なものだが、歩き続けたあとの体にはありがたい。


焚き火の前で五人が食べる。


空気は静かだった。


山の夜は、街とは違う静けさがある。


レイナが星を見上げる。


「きれいですね」


ユウトも上を見る。


「王国より見える気がする」


ガルドが言う。


「山だからな」


ダインは食べ終えてから言った。


「明日はもっと早い」


「日が昇る前に動く」


レイナが顔をしかめる。


「今日よりですか」


「当然だ」


ユウトが聞いた。


「場所まではどれくらいですか?」


ガルドが答える。


「朝なら一時間ほどだ」


「ただ、道は悪い」


マリナが剣の柄に触れながら言う。


「魔物は?」


「出る可能性はある」


ダインが答えた。


「だが採取が優先だ」


ユウトは頷いた。


「わかりました」


少し沈黙。


そのあと、ガルドが珍しく自分から口を開いた。


「娘はな」


全員が顔を上げる。


ガルドは焚き火を見ながら続けた。


「最近、あまり外に出られない」


「少し動くだけで疲れる」


レイナが小さく視線を落とした。


「……」


「だから急がないといけない」


ガルドの声は変わらない。


でも、その静かな言葉の方が重かった。


ユウトは言った。


「採ります」


ガルドは顔を上げる。


ユウトは続けた。


「ちゃんと見つけて、持って帰ります」


ガルドは少しだけ目を細めた。


「……ああ」


ダインが立ち上がる。


「見張りを決める」


それから見張り順を決めて、夜は静かに更けていった。



翌朝。


まだ空が暗い。


冷たい空気で目が覚める。


ユウトが身を起こすと、ダインがすでに起きていた。


焚き火の残り火を見ながら座っている。


「おはようございます」


「おう」


短い返事。


少ししてレイナも起きた。


「寒いです」


「山だからな」


マリナも起きて、毛布を肩に掛けながら言う。


「本当に冷えるわね」


ガルドはもう装備を整えていた。


その顔に迷いはなかった。


東の空が少しだけ白くなり始めている。


時間は多くない。


ダインが言う。


「行くぞ」


五人は立ち上がった。


誰も無駄なことは言わない。


山道を登る。


足元は昨日より悪い。


石が増え、道も細くなった。


レイナが小さく息を吐く。


「これ、思ったより大変ですね」


「思ったよりじゃない」


ダインが言う。


「最初から大変だ」


ユウトは前を見ながら歩く。


冷たい空気が肺に入る。


空は少しずつ明るくなってきていた。


ガルドが前方を指した。


「あそこだ」


その先、斜面の上に少しだけ開けた場所が見えた。


朝露を受けた草が白く光っている。


ユウトは息を整える。


たぶん、次で決まる。


見つけられるか。


間に合うか。


ちゃんと持ち帰れるか。


全部これからだった。


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