第36話 ガルドさんの娘を助けるため高山薬草の採取遠征へ行くことになったのでまずは準備を整える件
ガルドの娘の話を聞いたあと、ユウトたちはそのまま冒険者ギルドのテーブルに残っていた。
ギルドの中は相変わらず騒がしい。
依頼の相談をする声、笑い声、酒の匂い。
だがユウトたちの席だけは、少しだけ静かな空気になっていた。
ガルドがテーブルの上の紙を指で押さえた。
「薬草のある場所はここだ」
簡単な地図だった。
街から山へ向かう道が描かれている。
ユウトが聞く。
「結構遠いですね」
ガルドが頷いた。
「ああ」
「日帰りは無理だ」
ダインが腕を組んだまま言う。
「一泊だな」
レイナが少し目を輝かせた。
「野営ですね」
マリナが少し呆れた顔をする。
「楽しそうに言うわね」
「遠征ですから」
レイナは笑っている。
ユウトは地図を見ながら言った。
「朝採取なんですよね」
ガルドが答える。
「そうだ」
「日の出から少しの間だけだ」
「その時間を過ぎると薬効が落ちる」
ユウトは頭の中で計算した。
山の距離。
登る時間。
採取時間。
それに帰りの移動。
(収納があれば…)
可能性は高い。
だがまだ確信は持てない。
ダインが言う。
「まずは準備だ」
「市場に行く」
⸻
エルドリア共和国の市場は、王国のものよりずっと騒がしかった。
屋台がずらりと並び、人が行き交う。
商人が声を張り上げている。
「干し肉!安いぞ!」
「保存パンだ!」
「旅人!こっち見ていけ!」
レイナが楽しそうに周囲を見る。
「すごいですね」
ユウトも周囲を見回した。
「王国より多いな」
マリナが言う。
「商業国家だもの」
ガルドが説明する。
「ここは交易都市だ」
「物が集まる」
ダインが言った。
「必要な物を買う」
そして指を折る。
「保存食」
「水袋」
「ロープ」
「松明」
「防寒具」
レイナが言う。
「結構ありますね」
ダインはユウトを見る。
「運ぶのは問題ないだろう」
ユウトは苦笑した。
「まあ」
収納がある。
荷物の量は問題にならない。
それでも装備はきちんと揃える。
ガルドが干し肉を選びながら言った。
「山は冷える」
「夜はかなり寒い」
マリナが聞く。
「高い山なの?」
「そこそこ」
ガルドは答えた。
「薬草は高い場所にしか生えない」
レイナが干し肉を見ている。
「これ美味しそう」
店主がすぐに反応した。
「お嬢さん見る目ある!」
ダインが値段を聞き、少し値切り、買った。
レイナが感心したように言う。
「慣れてますね」
ガルドが言う。
「長いからな」
ユウトは二人を見た。
確かに慣れている。
遠征に必要なものを迷いなく選んでいく。
レイナが言った。
「二人仲いいですね」
ガルドが答える。
「腐れ縁だ」
ダインは短く言った。
「長いだけだ」
それでも二人の空気は自然だった。
長い付き合いなのがよく分かる。
買い出しは一時間ほどで終わった。
ユウトが荷物を収納していく。
干し肉。
保存パン。
ロープ。
水袋。
次々と消えていく。
レイナが言う。
「やっぱり便利ですね」
ユウトは笑った。
「まあ」
ダインはその様子を見ながら、少しだけ目を細めた。
やはり普通の収納とは違う。
だが何も言わない。
ただ一言だけ言った。
「助かる」
⸻
夕方。
ユウトたちは宿に戻った。
三人部屋。
ベッドが二つ。
レイナがベッドに倒れ込んだ。
「疲れました」
ユウトも椅子に座る。
「結構歩いたな」
マリナが言う。
「明日は早いわ」
ガルドが言っていた。
夜明け前に出発。
山に登り、朝の採取に間に合わせる。
時間との勝負だ。
レイナが言った。
「ちゃんと寝ましょう」
ユウトが笑う。
「昨日もそう言ってたな」
「今日は本当に寝ます」
マリナが言う。
「そうして」
「明日は大事な遠征よ」
レイナはすぐ布団に入った。
「おやすみなさい」
数秒後。
寝息。
ユウトが苦笑する。
「早い」
マリナも笑った。
「若いわね」
ユウトが言う。
「先生も若いですよ」
マリナが少し目を細めた。
「そういうこと言うと」
「レイナに聞かれるわよ」
ユウトが笑う。
「寝てますよ」
その時。
布団の中から声がした。
「聞こえてます」
ユウト
マリナ
「「寝なさい」」
⸻
翌朝。
まだ空が暗い時間だった。
ギルドの前に五人が集まる。
冷たい空気。
レイナがあくびをした。
「眠い」
ユウトも少し眠そうだった。
「朝早いな」
ダインが言う。
「山は遠い」
ガルドが静かに言った。
「頼む」
その言葉は短かったが重かった。
ユウトは頷く。
「行きましょう」
五人は歩き出した。
街を出て。
山へ向かって。
ガルドの娘を助けるための遠征が、静かに始まった。




