表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスごと異世界転移したモブの俺、ハズレスキル【無限収納】が覚醒したので異世界で無双します  作者: よるねこ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/87

第29話 普通の採取依頼を受けただけなのに、冒険者の世界の仕組みを少しずつ知ることになった件


 宿を出た頃には、城下町はすっかり朝の空気になっていた。


 通りでは商人たちが店を開く準備をしている。荷車の軋む音、桶の水を撒く音、遠くの鍛冶場から聞こえる金属音。夜とは違う、街が動き始める音だった。


 玲奈が周囲を見回す。


「朝の街って、なんかいいですね」


「昨日より人も多いし」


「市場が動き始めてるんだと思う」


 俺はそう言った。


 真里奈先生も頷く。


「ええ」


「この時間だと仕込みの時間かしら」


 玲奈が前を指差した。


「あ、見えてきました」


 石造りの建物。


 剣と盾の紋章。


 冒険者ギルドだ。


「今日もここですね」


「まあ、そうなるな」


 俺は答える。


「依頼受けないと始まらないし」


 玲奈が笑う。


「ですよね」


 先生も静かに言った。


「焦らない」


「昨日と同じでいいわ」


 俺も同意する。


 まずは慣れること。


 それが一番大事だと思う。


 俺たちはギルドの扉を押した。


     ◇


 中は昨日よりも人が多かった。


 掲示板の前には冒険者が数人集まり、依頼票を見ながら話し合っている。奥の酒場スペースでは、朝だというのに酒を飲んでいる連中もいた。


 玲奈が小声で言う。


「ほんとに朝から飲んでますね」


「夜通しの依頼帰りかもしれない」


 俺は言った。


 先生も頷く。


「夜の依頼もあるものね」


 俺たちは掲示板へ向かった。


 玲奈が一枚を指差す。


「これどうです?」


【銀星草採取】

依頼主:薬師ギルド

報酬:銀貨三枚


 その隣にも似た依頼があった。


【三日月草採取】


 さらにもう一枚。


【青血茸採取】


 玲奈が言う。


「全部薬草ですね」


「しかも同じ依頼主」


 俺は依頼票を見る。


「薬師ギルドか」


 先生が言った。


「薬を作る人たちの組織でしょうね」


「ギルドっていろいろあるのね」


 玲奈は感心したようだった。


 俺は依頼票を見比べる。


 採取場所は同じ方向だ。


「この三つにする」


「効率いいと思う」


 玲奈が頷く。


「ですね」


 俺たちは受付へ向かった。


     ◇


「この三つを受けたいんですけど」


 俺が依頼票を出すと、受付嬢は確認した。


「銀星草、三日月草、青血茸ですね」


「はい」


 玲奈が少し身を乗り出す。


「すみません」


「この薬草ってどんなものなんですか?」


 受付嬢は説明を始めた。


「銀星草は毒からの回復薬の材料です」


「葉の裏が銀色になっているのが特徴ですね」


 玲奈がメモするように頷く。


「なるほど」


 受付嬢は続ける。


「三日月草は鎮痛薬の材料です」


「葉が三日月のように湾曲しているので、そう呼ばれています」


 そして最後に言った。


「青血茸は避妊薬の材料ですね」


 一瞬沈黙が落ちる。


 玲奈が目を瞬かせた。


「え」


 真里奈先生が軽く咳払いをする。


「……そういう薬も必要よ」


「そ、そうですよね」


 玲奈は少し困った顔をした。


 受付嬢は平然としている。


「薬師ギルドからの依頼です」


「需要は安定しています」


 そして依頼票に印を押した。


「採取場所は北側の林です」


「城門から歩いて三十分ほど」


「納品は明日の夜までにお願いします」


「分かりました」


 俺たちは依頼票を受け取った。


     ◇


 城門を出ると、街の喧騒はすぐに遠くなった。


 石畳は土の道に変わり、畑が広がる。朝露の残る草が光っていた。


 玲奈が言う。


「昨日と同じ方向ですね」


「うん」


 俺は答える。


「でも少し奥だと思う」


 しばらく歩くと林が見えてきた。


 木々がまばらに生えた、浅い林だ。


「この辺かな」


 俺たちは林へ入った。


 風が葉を揺らす音がする。


 玲奈がしゃがみ込む。


「うーん」


「それっぽい草いっぱいありますね」


 先生が言う。


「慣れないと難しそうね」


 俺は足元の草を見る。


《完全鑑定》


【雑草】


 さらに隣。


【銀星草】


「……あった」


 玲奈が振り向く。


「もうですか?」


「たぶん銀星草」


 玲奈が笑う。


「便利ですねそのスキル」


 俺は草を抜き、収納した。


 その後も林を歩き回る。


 玲奈が別の草を見つける。


「これ三日月草じゃないですか?」


 俺は確認する。


《完全鑑定》


【三日月草】


「それだ」


「やった」


 玲奈が嬉しそうに言った。


 しばらくすると青血茸も見つかった。


 青黒い色の小さな茸だった。


「これですね」


「たぶん」


 採取は順調だった。


 魔物の気配もない。


 玲奈が息を吐く。


「思ったより平和ですね」


「そうだな」


 俺は言う。


「昨日の方が大変だったかも」


 先生も頷く。


「今日は運がいいのかもしれないわ」


 俺たちは素材を集め終え、街へ戻った。


     ◇


 ギルドに戻ると、昼前になっていた。


 中の冒険者はさらに増えている。


 俺たちは受付へ向かった。


「依頼達成です」


 受付嬢は素材を確認する。


「銀星草」


「三日月草」


「青血茸」


 数を数え、箱に入れる。


「問題ありません」


「依頼達成です」


 報酬袋がカウンターに置かれた。


 玲奈が笑う。


「ありがとうございます」


 その時だった。


「お、もう終わったのか」


 後ろから声がした。


 振り向く。


 ダインだった。


「ダインさん」


 玲奈が言う。


「新人にしては早いな」


 ダインは少し笑った。


「採取依頼です」


 俺が言う。


「まあ最初はそれがいい」


 ダインは頷く。


「討伐より死ににくい」


 玲奈が苦笑する。


「やっぱり危ないんですね」


「冒険者だからな」


 ダインは肩をすくめた。


「楽な仕事ばかりじゃない」


 それから少し声を落として言う。


「あと覚えておけ」


「冒険者は自由だ」


「その分、色んな奴がいる」


 玲奈が聞く。


「色んな?」


「犯罪者だった奴もいる」


 ダインはあっさり言った。


「盗賊とか、色々な」


 玲奈が驚く。


「登録できるんですか?」


「できる」


 ダインは答えた。


「ギルドは前歴なんて調べない」


「分かれば登録は抹消だがな」


 先生が言う。


「でも捕まえたりは?」


「しない」


 ダインは首を振った。


「それは別の問題だ」


 玲奈が小さく頷く。


「なるほど…」


 ダインは俺たちを見回す。


「余計なトラブルには近づくな」


「新人はそれが一番だ」


「分かりました」


 俺は頷いた。


 ダインは軽く手を振る。


「じゃあな」


 酒場スペースへ戻っていった。


 玲奈が小さく息を吐く。


「なんか」


「思ってたより色んな人がいるんですね」


「そうみたいだな」


 俺は答えた。


 その時だった。


 背中に妙な感覚が走る。


 視線。


 誰かがこちらを見ている。


 俺はさりげなく周囲を見る。


 だが特におかしい様子はない。


「どうしたの?」


 先生が小声で聞く。


「いや…」


 俺は首を振った。


「気のせいかもしれない」


 でも違和感は残った。


 誰かがこちらを見ている。


 そんな気配だけが、ギルドのざわめきの中に紛れて残っていた。


 もちろん。


 この時の俺たちはまだ気づいていなかった。


 その視線が、これから先、少しずつ俺たちに関わってくることになるということを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ