第2話 勇者は特別扱い、俺たちはその他扱いらしい
大広間はまだざわめきに包まれていた。
王の言葉ーーーーー「勇者召喚」
その一言だけで、クラスの空気は完全に変わってしまった。
「勇者って………マジで言ってるのか?」
「いやいや、コスプレとかじゃない?」
「でもさ、兵士とか本物っぽくね?」
クラスメイトたちが口々に言い合う。
広間は石造りで、壁には豪華な旗が掛けられている。
赤い絨毯がまっすぐ玉座にまで伸び、その両側には鎧姿の騎士が並んでいた。
どう見ても映画のセットではない。
黒崎悠人は腕を組みながら、その光景を眺めていた。
……夢ではなさそうだ。
匂いも、空気も、妙に現実感がある。
そのとき、玉座の近くに立っていた老人が一歩前に出た。
長い白髭。豪華なローブ。手には杖。
いかにも魔法使いといった格好だった。
「皆様、落ち着いてください」
老人の声はよく通った。
「これより、神の祝福によって授けられた【スキル】を確認していただきます」
その言葉にクラスがざわつく。
「スキル?」
「ゲームかよ」
老人が頷いた。
「皆様には、この世界で生きるための力が与えられております」
「意識を集中すれば確認できます」
その瞬間。
「うわっ!」
クラスの前の方で声が上がった。
「なんか出た!」
どうやら本当に見えるらしい。
「え、ちょっと待って俺も!」
「うわ、マジだ!」
クラスのあちこちで驚きの声が上がる。
悠人も少しだけ意識を集中してみた。
すると。
視界の端に、半透明の文字が浮かんだ。
………本当に出た。
ゲームのステータス画面のような表示。
思わず小さく笑ってしまう。
そのとき。
「おおおお!」
騎士たちの歓声が響いた。
広間の中央に人だかりが出来ている。
見ると、そこには天城隼人がいた。
クラスの中心人物。
スポーツも勉強もそこそこできて、誰とも仲がいいタイプのやつだ。
「勇者スキルです!」
さっきの老人ーーーー宮廷魔導士らしき人物が興奮した声を上げた。」
騎士たちが一斉にざわめく。
「本当に勇者を……」
「成功したのか」
王もゆっくり立ち上がった。
「勇者よ」
王は隼人をまっすぐ見た。
「そなたこそ、この世界を救う勇者である」
クラスメイトから歓声が上がった。
「すげぇ!」
「勇者じゃん!」
「主人公かよ!」
隼人は困ったように笑っていた。
「いや、そんなこと言われても………」
だが、王は満足そうに頷いている。
広間の空気は完全に勇者中心になっていた。
そのままスキル確認は続いていく。
「聖女!」
「剣聖!」
「魔道師!」
強そうなスキルが出るたびに、騎士たちが声を上げる。
クラスメイトたちも盛り上がっていた。
まるでゲームのガチャ結果を見ているような雰囲気だ。
その光景を、悠人は少し離れた場所から眺めていた。
隣にいた橘真里奈が、小さく息をつく。
「すごいわね」
「ですね」
「完全にファンタジーよね」
悠人は苦笑する。学生服でファンタジー?
先生もまだスーツ姿のままだった。
教室にいたまま、そのまま連れてこられたらしい。
「黒崎くん」
「はい」
「これ、本当に異世界なのかしら」
悠人は少しだけ考えた。
「たぶん」
「そうよね」
真里奈は小さく笑った。
そのとき。
「次」
魔導士が名簿を見ながら言った。
「黒崎悠人」
悠人は肩をすくめる。
どうやら順番らしい。
前に出ると、騎士たちの視線が集まった。
王も、玉座からこちらを見ている。
「では、スキルを」
魔導士が言う。
悠人はステータス画面を確認した。
表示されているスキルは二つ。
だが。
「……収納?」
魔導士が眉をひそめた。
騎士の一人が小さく言う。
「荷物持ちか?」
くすっと笑いが漏れる。
魔導士はもう一度画面を見た。
「もう一つは……鑑定」
沈黙。
数秒の静けさ。
そして騎士が言った。
「……あまり戦闘向きではないな」
別の騎士も頷く。
「補助系か」
「勇者の仲間にしては弱いな」
クラスメイトの何人かも、微妙な顔をしていた。
悠人は肩をすくめる。
……まあ、そんなもんだ。
もともと自分はクラスでも目立たない方だ。
勇者とか聖女とか、そういう役ではない。
そのとき。
隣から声が聞こえた。
「収納と鑑定なんて」
「すっごく便利そうじゃない」
真里奈だった。
悠人は思わず笑った。
「先生だけですよ。そう言うのは」
「そう?」
「だって収納と鑑定ですよ」
「でも、荷物がたくさん持てて、色々分かるんでしょ?」
「まあ、そうですね」
真里奈は少しだけ楽しそうに笑った。
「じゃあ、冒険では役に立ちそうじゃない」
その言葉を聞いて、悠人は少しだけ肩の力が抜けた。
大広間では、すでに次のスキル鑑定が始まっている。
【勇者】
【聖女】
【剣聖】
「魔導師】
どうやら、この世界には最初から主人公がいるらしい。
そして、黒崎悠人はーーーーー
どうやら、その物語の脇役らしかった。




