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クラスごと異世界転移したモブの俺、ハズレスキル【無限収納】が覚醒したので異世界で無双します  作者: よるねこ
第一章

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第25話 王城を出て冒険者になることを伝えたら、レオンさんが俺たちの訓練を自分から引き受けた理由を騎士たちから聞いてしまった件


 その日の訓練場は、いつもと変わらない朝の空気に包まれていた。


 石畳の地面。並べられた木槍と木剣。遠くでは騎士たちが朝の準備をしている。冷たい空気の中で、槍の穂先が光を反射していた。


 黒崎ユウトは短槍を構える。


 踏み込む。


 突く。


 引く。


 もう一度。


 レオンが腕を組んで見ている。


「……慣れてきたな」


 低い声が聞こえた。


「はい」


 ユウトは槍を下ろす。


 最初にこの武器を持ったときは、正直重く感じた。棒とは違う。先端に重みがある。だが今は、その重さがむしろ安心感になっている。


「振ってないのはいい」


 レオンが言う。


「槍は突く武器だ」


「はい」


「それでいい」


 それだけ言って、レオンは視線を外した。


 訓練はまだ続いている。だがユウトは今日、どうしても言わなければならないことがあった。


「レオンさん」


「なんだ」


 短い返事。


 ユウトは槍を立て、まっすぐ言った。


「決めました」


 レオンは黙っている。


「俺、冒険者になります」


 風が一瞬、訓練場を通り抜けた。


 レオンは驚かなかった。


「そうか」


 それだけだった。


 あまりにもあっさりしている。


 ユウトは少し拍子抜けしながら続けた。


「王城、出ます」


「訓練、ありがとうございました」


 その言葉に、近くで見ていた真里奈と玲奈も一歩前へ出た。


「私も一緒に行きます」


 真里奈が言う。


 そして玲奈。


「私もです」


 レオンは三人を見た。


 ほんの一瞬だけ。


 それから言う。


「好きにしろ」


 その声はいつもと同じだった。


「ここは牢屋じゃない」


 ユウトは小さく息を吐いた。


 止められるかもしれないと思っていた。


 だがレオンは止めない。


 ただ最後に一言だけ言った。


「ただし」


 三人が顔を上げる。


「死ぬな」


 それだけだった。


    ◇


 その日の夜。


 宿舎の食堂はいつもより賑やかだった。


 長い木のテーブルに、生徒たちと騎士たちが混ざって座っている。パンとスープの匂いの中で、あちこちから話し声が聞こえていた。


 その中央で。


 ユウトは立ち上がった。


「ちょっといいか」


 ざわつきが止まる。


 クラスメイトたちがこちらを見る。


「俺たち」


 ユウトは一度、玲奈と真里奈を見た。


 二人が頷く。


「王城を出る」


 一瞬、食堂が静まり返った。


「え?」


「マジ?」


「出るって?」


 ざわめきが広がる。


 相沢翔太が目を丸くした。


「黒崎、本気か?」


「ああ」


「冒険者になる」


 ざわざわと空気が揺れる。


 だが、騎士たちは騒がなかった。


 むしろ、どこか納得したような顔をしている。


 一人の騎士が言った。


「そうか」


 それだけだった。


 別の騎士が笑う。


「まあ、お前ならそうする気がしてた」


 その言葉に、生徒たちは逆に驚く。


「え?」


「そうなんですか?」


 騎士は肩をすくめた。


「顔見りゃ分かる」


「お前、最初から騎士団向きじゃない」


 ユウトは苦笑する。


「よく言われます」


「だろうな」


 騎士はパンをかじりながら言う。


「隊長も止めないだろ」


 別の騎士が笑った。


「むしろ喜ぶかもな」


 その言葉に、玲奈が首をかしげる。


「喜ぶ?」


「なんでですか?」


 騎士たちは顔を見合わせた。


「隊長言ってないのか?」


「たぶんな」


 そして一人が言った。


「隊長はな」


「いつもそうなんだ」


 ユウトたちは黙って聞く。


「貧乏くじを自分から引く」


 玲奈が瞬きをした。


「……どういう意味です?」


 騎士は少し笑う。


「お前たちの訓練だ」


「本当はな」


「誰もやりたがらなかった」


 食堂が静かになる。


「え?」


 誰かが言った。


「なんで?」


 騎士は指を折りながら説明する。


「勇者じゃない」


「巻き込まれただけ」


「死んだら責任」


「出世にもならない」


「むしろ失敗扱い」


 生徒たちは黙る。


 その空気の中で、騎士は続けた。


「だからみんな避けてた」


「勇者パーティは王城が抱える」


「お前たちは……どうするか」


 そこで別の騎士が言う。


「その時だ」


 少し思い出すように言った。


「隊長が言った」


 騎士たちが真似をするように低い声を出す。


「俺がやる」


 静かな声だった。


「巻き込まれたガキたちを放置するほど」


「騎士団は落ちぶれてない」


 食堂が完全に静まり返った。


 玲奈が小さく言う。


「そんな理由で……」


 真里奈も呟く。


「だから……」


「真面目に訓練してくれたのね」


 騎士は頷いた。


「隊長はそういう人だ」


 ユウトは少しだけ視線を落とした。


 最初から、ずっと。


 あの人は本気だった。


 自分たちが勇者じゃないことを、誰よりも分かっていたのに。


 それでも訓練してくれた。


 もう一人の騎士が言う。


「ダインも言ってたな」


「隊長は」


 少し笑って続ける。


「いつも貧乏くじを自分から引く」


 ユウトは思い出す。


 ギルドで聞いた言葉。


 あれは本当だった。


 玲奈が静かに言った。


「レオンさんらしいですね」


「だな」


 騎士が頷く。


 その時、相沢が手を挙げた。


「俺たちは」


「もう少し訓練してもらいます」


 みんながそちらを見る。


「自信ついたら」


「旅立つ」


 別の生徒も言う。


「いきなりは無理だし」


「俺もそう思う」


「もう少し強くなりたい」


 その言葉に、騎士たちは笑った。


「それがいい」


「焦るな」


「ここは逃げない」


 玲奈がユウトを見る。


「私たちは」


 ユウトは頷いた。


「先に行く」


 真里奈が小さく笑った。


「でも」


「また会うわ」


 食堂の空気が少し柔らかくなる。


 騎士が言った。


「隊長に礼は言っとけ」


「……はい」


 ユウトは静かに答えた。


    ◇


 食堂を出たあと。


 三人は夜の中庭を歩いていた。


 星が出ている。


 静かな夜だった。


 玲奈が言う。


「なんか……」


「レオンさんっぽいですね」


「ええ」


 真里奈が頷く。


「自分では何も言わない」


 ユウトは空を見上げた。


 レオンはきっと。


 これからも何も言わない。


 だが、それでいい気がした。


「生き残らないとな」


 ユウトは小さく言う。


 玲奈が笑う。


「ですね」


 真里奈も頷く。


「ええ」


 ユウトは静かに言った。


「冒険者として」


「生きる」


 その決意は、もう揺れていなかった。

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