表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスごと異世界転移したモブの俺、ハズレスキル【無限収納】が覚醒したので異世界で無双します  作者: よるねこ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/95

第19話 先生の恋を応援しようと女子たちが作戦会議を始めた結果、なぜか俺の人生が大きく動き始めていた件

 今日の訓練は城の訓練場での訓練だった。


 各々が自分の武器を構え騎士の号令に合わせ延々と振る。


 森での様々な訓練を経験した生徒たちはみな真剣だった。


 この世界で生きるには戦う力が必要なことを理解している。


 昼休み。


 午前の訓練が終わり、王城の中庭にはいつものように生徒たちが集まっていた。


 石畳の広場の隅にある木陰は人気で、少し遅れると座る場所が無くなる。黒崎ユウトは水袋を片手に、運よく空いていた石のベンチに腰を下ろした。


 短槍を使い始めてから数日。


 腕や肩の使い方が少しずつ分かってきたとはいえ、午前中の訓練が終わる頃にはさすがに疲れる。特に今日は突きの反復が多く、肩がじわりと重かった。


 水を飲み、短く息を吐く。


 その時だった。


「黒崎くん」


 聞き慣れた声がして、隣に桐谷玲奈が腰を下ろした。


「ん?」


「ちょっと聞いていいですか?」


 いつもの軽い調子に見えるが、どこか狙った感じのある声音だった。


 ユウトは少しだけ身構える。


「……何?」


 玲奈はにこっと笑った。


「そんな警戒しなくて大丈夫です」


「いや、玲奈がそう言う時って大体ろくでもないだろ」


「ひどいですね」


 玲奈は口を尖らせたが、すぐに表情を戻した。


 そして、少しだけ真面目な顔で聞く。


「先生のこと、どう思ってます?」


「え?」


 あまりにも唐突だった。


 ユウトは思わず聞き返す。


「先生って……橘先生のこと?」


「はい」


 玲奈はあっさり頷いた。


「どうって言われても……」


「正直にお願いします」


 なぜ今そんなことを聞かれるのか分からない。


 だが、別に隠すような話でもない。


 ユウトは少し考えてから答えた。


「いい先生だと思うよ」


 玲奈がじっとこちらを見る。


 ユウトは肩をすくめた。


「ほら、きれいだし」


「優しいし」


「ちゃんと生徒のこと考えてくれるし」


「いい人だよな」


 玲奈の目がわずかに見開かれる。


 そして次の瞬間、明らかにテンションが上がった。


「なるほど」


「はい、なるほどです」


「いや、何が」


 ユウトが首を傾げると、玲奈はぐっと顔を近づけた。


「黒崎くん」


「はい?」


「先生のこと好きですか?」


「え」


 今度は本気で言葉に詰まる。


 好きか嫌いかで言えば――。


 そんなの、答えは決まっている。


 ユウトは小さく息を吐いた。


「そりゃあ」


「美人でいい人なんだから好きだよ」


 玲奈の顔がぱっと明るくなる。


「よっしゃ」


「え?」


 だがユウトはそこで肩をすくめた。


「でも先生なら恋人ぐらいいるだろうし」


「大変だよな」


 玲奈の笑顔がぴたりと止まった。


「……恋人?」


「いや、普通いるだろ」


 ユウトは当然のように言う。


「若いし」


「きれいだし」


「仕事もできるし」


「俺より年上だし」


「そういう人って、普通もう恋人くらい――」


 そこまで言って、玲奈の顔が固まっていることに気づいた。


「……玲奈?」


「なるほど」


 玲奈は真顔だった。


「どうした?」


「いえ」


 玲奈はすっと立ち上がる。


「とても参考になりました」


「何の?」


「いろいろです」


 そう言い残して、玲奈は女子たちの方へ戻っていった。


 ユウトはしばらくその背中を見送る。


「……何だったんだ?」


 意味が分からない。


 だがそれ以上深く考える前に、集合の声が飛んだ。


「休憩終わりだ! 訓練場へ戻れ!」


 騎士の声に生徒たちが動き出す。


 ユウトも立ち上がり、短槍を手に取った。


 その途中、ふとさっきの会話を思い出す。


(きれいだし、いい人)


 自分で言っておいて何だが、あらためて考えると少し気恥ずかしい。


(……まあ、事実だしな)


 そこでふと、先日の宿屋で見えてしまった情報が頭をよぎった。


(………それにスタイルもいいもんな)


 慌てて首を振る。


(いや、何考えてるんだ俺)


 先生は先生だ。


 そう言い聞かせながら、ユウトは訓練場へ向かった。


    ◇


 その夜。


 宿舎の女子部屋では、いつものようにガールズトークが始まっていた。


 ただし、今日の空気はいつもより明らかに熱い。


 中心にいるのは、もちろん桐谷玲奈だ。


「では、報告します」


 玲奈が腕を組んで言った。


 女子たちが一斉に身を乗り出す。


「どうだった?」


「聞けた?」


「黒崎くん何て言ってたの?」


 玲奈は深く、重々しく頷いた。


「……由々しき事態です」


 部屋が一瞬しんと静まる。


「え?」


「何それ、怖い」


「どういう意味?」


 玲奈は真剣な顔で続けた。


「まず朗報です」


「黒崎くんは先生のことを」


「きれいだし、優しいし、ちゃんと生徒のことを考えてくれる、いい人だと言っていました」


 一拍の沈黙。


 次の瞬間。


「キャーーーーーー!」


 女子部屋が爆発した。


「言ったの!?」


「ほんとに!?」


「先生!」


 橘真里奈の顔が一瞬で真っ赤になる。


「なっ……!」


「ちょ、ちょっと待って!」


「なんでそんな話をしてるのよ!」


 玲奈は冷静に言った。


「必要な情報収集です」


「収集しなくていいわよ!」


 だが女子たちはもう止まらない。


「きれいって!」


「いい人だって!」


「先生ちゃんと見られてるじゃないですか!」


「う、うるさい!」


 真里奈は枕を抱きしめ、わたわたと手を振った。


 だが玲奈は人差し指を立てる。


「ただし」


 女子たちの熱が少し落ち着く。


「ここからが問題です」


「え?」


 玲奈は低い声で言った。


「黒崎くん」


「先生には恋人がいると思っています」


 部屋が完全に止まった。


「……は?」


「え?」


「なんで?」


 玲奈は昼の会話をそのまま説明した。


「先生なら恋人ぐらいいるだろうし」


「大変だよな」


 そこまで再現したところで、女子たちが一斉に騒ぎ出す。


「うわー!」


「それはダメだ!」


「勘違いしてる!」


「そりゃ動かないよ!」


 玲奈は腕を組んだまま、重々しく頷いた。


「そうです」


「つまり、由々しき事態です」


 真里奈は赤い顔のまま固まっていた。


 恋人がいると思われている。


 だから、あの子は自分から来ない。


 その事実は、想像以上に胸に刺さった。


「……そんなの」


 小さく漏れた声に、女子たちの視線が集まる。


 真里奈は少しだけ唇を噛んだ。


「そんなの……ずるいわよ」


「先生?」


 玲奈が首を傾げる。


 真里奈は顔を伏せたまま言う。


「きれいだとか、いい人だとか」


「そんなこと言われたら」


「……嬉しいじゃない」


 部屋が一瞬静まり返ったあと、女子たちが一斉ににやついた。


「先生」


「それ、もう完全に……」


「言わないで!」


 真里奈が真っ赤な顔で叫ぶ。


 だがもう遅い。


 玲奈は静かに告げた。


「結論です」


「このままでは、黒崎くんから告白は絶対にありません」


 女子たちが頷く。


「うん」


「無いね」


「完全に無い」


 玲奈はさらに続けた。


「つまり」


「先生から動く必要があります」


「ええええ!?」


 真里奈が飛び上がる。


「無理よ!」


「そんなの!」


「先生」


 玲奈の声は驚くほど真剣だった。


「黒崎くん、先生のことちゃんと見てます」


「きれいだって」


「いい人だって」


「好きだって」


「でも、恋人がいると思って止まってるんです」


 その一言一言が、じわじわと真里奈の胸に落ちていく。


 嬉しい。


 でも悔しい。


 そして――少しだけ、勇気が湧く。


「……私から」


 気づけば口から出ていた。


「え?」


 玲奈が目を丸くする。


 真里奈は深呼吸した。


「チャンスがあるなら」


「……私から言うわ」


 その瞬間、部屋がまた爆発した。


「キャーーーーーー!」


「先生ーーー!!」


「ついに決意した!」


「やったーー!」


「ちょ、ちょっと静かにしなさい!」


 真里奈が慌てるが、女子たちの興奮は止まらない。


 玲奈が拳を握る。


「では作戦会議です」


「待って、何でそうなるの!?」


「必要だからです」


 玲奈はベッドの上に正座し、まるで作戦参謀のような顔で言った。


「先生が告白を決意した以上」


「成功率を最大まで上げる必要があります」


「告白に成功率とかあるの!?」


「あります」


 玲奈は断言した。


 そして指を一本立てる。


「第一段階」


「二人きり作戦」


「黒崎くんと先生を自然に二人きりにします」


 女子たちが一斉に頷く。


「大事」


「まずはそこ」


「邪魔者を排除しないと」


「排除って言い方やめなさい!」


 真里奈が叫ぶ。


 玲奈は続ける。


「第二段階」


「距離を縮める作戦」


「会話を増やします」


「ちょっとした感謝」


「相談」


「さりげないボディタッチも有効です」


 女子たちがにやにやする。


「腕組みとか?」


「近くに座るとか?」


「夜道で裾つかむとか?」


「やめなさいってば!」


 真里奈は完全に顔を覆った。


 玲奈は止まらない。


「第三段階」


「デート作戦」


「城下町に二人で行ってもらいます」


「きゃー!」


「定番!」


「でも強い!」


「だから何で勝手に話が進んでるのよ!」


 玲奈は最後に指を立てた。


「最終段階」


「告白作戦」


 女子たちが拍手する。


「完璧!」


「流れが綺麗!」


「応援したい!」


 真里奈は枕を抱えたまま、弱々しく言う。


「……本当にやるの?」


 玲奈はまっすぐ頷いた。


「やります」


「先生の恋愛応援団長として、私は最後まで責任を持ちます」


「誰が団長よ……」


「私です」


 即答だった。


 女子たちがどっと笑う。


 その後もしばらく作戦会議は続いた。


 誰がどうやって二人きりの時間を作るか。


 どのタイミングで玲奈が自然に離脱するか。


 先生がどう声をかければ不自然じゃないか。


 話が進むたびに真里奈の顔は赤くなるが、完全に否定することはもうなかった。


 それどころか、時々小さく考え込むような顔を見せる。


 そのたびに女子たちは「おっ」と目を輝かせた。


 やがて話題は少し先の未来へ移る。


「でもさ」


 女子の一人が言った。


「先生、もしこの国を離れることになったらどうするんですか?」


 その質問に、部屋が少し静かになった。


 最近、生徒たちの間では将来の話がよく出るようになっていた。


 商人を志ざす者。


 農業を考える者。


 騎士を目指す者。


 同じクラスで異世界に来たとしても、ずっと一緒にいられる保証はない。


 玲奈はそこで、当然のように言った。


「私、先生が王国を離れるなら一緒に行きますよ」


「え?」


 真里奈が目を丸くする。


「何言ってるの?」


「決まってるじゃないですか」


 玲奈は胸を張った。


「先生の恋愛応援団長としては」


「最後まで見届けないといけません」


 女子たちが吹き出した。


「それ理由になる?」


「玲奈ならなる」


「ありそう」


 真里奈は頭を抱えた。


「お願いだから、もっと他に理由を考えて……」


 だが玲奈は真剣そのものだった。


「いえ」


「すごく大事な理由です」


「先生の恋の結末を見ずに離脱なんてできません」


「離脱って言わないで!」


 女子たちはまた笑う。


 その笑いの中で、真里奈は少しだけ肩の力を抜いた。


 ――王国を離れる。


 その言葉は、以前ならただの想像だった。


 でも今は違う。


 それぞれが、それぞれの生き方を考え始めている。


 ならば、自分も。


 教師として。


 一人の女として。


 考えなければならないのかもしれない。


 そう思った時、昼のユウトの声が頭の中で蘇る。


『きれいだし』


『いい人だよな』


 胸の奥が、またじんわりと熱くなった。


「……先生?」


 玲奈が覗き込む。


 真里奈は慌てて顔を上げた。


「な、何よ」


「また思い出してました?」


「思い出してない!」


 即答したのに、女子たちは誰も信じていなかった。


「先生、分かりやすい」


「ほんとかわいい」


「うるさい!」


 真里奈の抗議が部屋に響く。


 だが、もうさっきまでのような本気の拒絶ではなかった。


 照れながらも、少しだけ前を向き始めた人間の声だ。


 その頃。


 男子部屋では、ユウトがベッドに寝転がっていた。


 窓の外では夜風が吹いている。


「……なんか寒いな」


 理由は分からない。


 だが背中に妙な寒気が走る。


 その原因は、すぐ上の女子部屋で着々と進行していた。


 玲奈を団長とする――


 先生恋愛応援作戦。


 そしてその作戦は、これから少しずつ、確実にユウトの日常を揺さぶっていくことになるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ