第14話 女子会で先生がいじられまくった翌日、野営訓練が始まったら収納スキルが意外と便利だった
夜。
宿舎の女子部屋では、今日もいつものように小さな声の会話が続いていた。
この宿舎は女子二人部屋が基本だが、夜になると何人かが集まって自然と女子会になる。訓練が終わったあと、こうして話すのはすっかり日課になっていた。
ベッドの上に座っている橘真里奈の周りには、数人の女子生徒が集まっている。
話題は当然――今日の出来事だった。
「先生」
桐谷玲奈がニヤニヤしながら言う。
「今日のデートどうでした?」
「デートじゃないわよ!」
真里奈は即座に否定した。
しかし周囲の女子たちは誰一人信じていない。
「えー」
「どう見てもデートでしたよ」
「城下町で二人きりですよ?」
「しかも下着探しに」
「言うな!」
真里奈が顔を真っ赤にして叫ぶ。
女子たちは大笑いする。
「先生かわいい」
「ほんと分かりやすい」
玲奈が笑いながら言った。
「でも黒崎くん優しいですよね」
「荷物全部持ってくれてましたし」
「護衛みたいにずっと棒持ってましたよね」
別の女子が言う。
「あーあ」
「黒崎くん全然分かってないよ」
「ほんとだよね」
「普通そこは剣とか持ってかっこつけるところなのに」
真里奈は小さく言った。
「でも…あれがいいのよ」
女子たちが一斉に真里奈を見る。
しまった、と真里奈は思った。
玲奈がにやりと笑う。
「先生」
「今完全にフォローしましたよね?」
「してない!」
女子たちはさらに盛り上がる。
「先生絶対好きですよね」
「そういうのじゃないってば!」
「でも黒崎くんってけっこういいよね」
別の女子が言った。
「頼れるし」
「優しいし」
真里奈は思わず言った。
「ダメとは思わないけど…」
一瞬、部屋が静かになる。
そして次の瞬間。
「言った!」
「先生言った!」
「今の完全に肯定ですよ!」
「違うのよ!」
真里奈は完全にパニックになった。
女子たちは大爆笑する。
「先生、明日の訓練頑張ってくださいね」
「黒崎くんの前でかっこいいところ見せないと」
「だから違うって言ってるでしょ!」
その夜は、かなり遅くまで女子会が続いた。
――――――
翌朝。
宿舎の食堂にはいつもの朝食が並んでいた。
黒いパンと薄いスープ。
悠人はパンをちぎりながら周囲を見る。
今日は妙に女子たちがにやにやしている。
視線もなぜか自分に向いている気がする。
(……なんだ?)
玲奈と真里奈が食堂に入ってくる。
女子たちがすぐに騒ぎ始めた。
「先生おはようございます!」
「今日も頑張ってください!」
何を頑張るのか分からない。
真里奈は少し恥ずかしそうな顔をしている。
その時、食堂の扉が開いた。
レオンが入ってくる。
騒いでいた生徒たちが一瞬で静かになる。
「今日より訓練を再開する」
レオンは短く言った。
「それと今日は野営訓練も行う」
食堂がざわめく。
「野営?」
「森で一泊する」
生徒たちの表情が少し引き締まる。
これまでは日帰りの訓練ばかりだった。
だが野営となれば話は別だ。
より実戦に近い。
――――――
午前。
クラスは騎士たちに引率されて森へ向かっていた。
装備は訓練用の武器。
そして野営道具。
テントや食料など荷物も多い。
騎士の一人が言った。
「収納スキル持ちは荷物を預かってくれ」
悠人は袋に手を触れる。
(収納)
袋が一瞬で消えた。
それを見ていた生徒が言う。
「収納スキルって便利だよな」
騎士が頷く。
「便利だぞ」
「収納スキルなら、だいたい馬車一台分くらいは入る」
生徒たちが驚く。
「そんなに?」
騎士は笑った。
「ああ」
「それだけ運べるとかなり便利なんだ」
「遠征だと荷物が一番大変だからな」
食料、水、道具、テント。
長距離の移動では荷物が大問題になる。
それを一人で運べるなら、それだけで戦力だ。
悠人は内心思う。
(馬車一台分か)
(俺のは無限だけどな)
もちろん言わない。
荷物もあえて控えめに収納しておく。
――――――
森の奥。
騎士が指示を出す。
「ここで野営する」
テントを張る準備が始まる。
悠人は収納からどんどん荷物を出していく。
騎士が感心した。
「やはり便利だな」
「収納持ちは野営だと重宝する」
生徒たちも作業に慣れてきた。
テントが立ち、焚き火が用意される。
すると女子たちが騒ぎ始めた。
「先生ダメですよ」
「黒崎くんと同じテントは」
真里奈が真っ赤になる。
「そんなこと考えてないわよ!」
女子たちは大笑いする。
男子たちは首をかしげる。
「何の話?」
「内緒ー」
悠人はなんとなく背中が寒くなった。
(なんか嫌な予感がする)
――――――
夜。
焚き火の周りに生徒たちが座っている。
森は静かだった。
騎士が言う。
「野営では油断するな」
「夜に出る魔物も多い」
空気が少し引き締まる。
悠人は焚き火を見ながら思う。
(テント)
(焚き火)
(見張り)
(これ…完全に冒険者生活だな)
隣で玲奈が小声で言った。
「先生」
「黒崎くんの隣ですよ」
真里奈が慌てる。
「やめなさい!」
女子たちが笑う。
悠人はため息をついた。
(なんで俺なんだ…)
焚き火の火が静かに揺れていた。
森の夜は、まだ始まったばかりだった。




