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クラスごと異世界転移したモブの俺、ハズレスキル【無限収納】が覚醒したので異世界で無双します  作者: よるねこ
第一章

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第10話 先生と二人で城下町でお買い物


 城門を抜けると、空気が変わった。


 王城の中よりも人の気配が濃い。石畳の道を馬車が通り、露店からは威勢のいい声が飛ぶ。焼きたてのパンの匂いに、香草の香り。行き交う人々の服装は少し古風だが、町の活気そのものは妙に生々しく、どこか現実味があった。


「……思ったより普通ね」


 隣を歩く橘真里奈が、少し意外そうに呟いた。


「もっとこう、いかにも異世界って感じを想像してたわ」


「俺もです」


 黒崎悠人も周囲を見回す。


 石造りの建物が並び、店先には果物や干し肉や布が並んでいる。ここだけ切り取れば、少し時代の古い町並みにも見えた。


 だが――やはり異世界だと思わせるものは、ちゃんとある。


 通りの向こうには武器屋があった。店先に剣や槍が堂々と並び、壁には盾が掛けられている。さらに通りを歩く人々の中にも、腰に剣を下げている者や、革鎧を身につけている者が珍しくない。


「武器屋が普通にある」


 真里奈が小さく言う。


「しかも武器を持ってる人が普通に歩いてる」


「日本なら警察案件ですね」


「間違いないわね」


 二人は少しだけ笑った。


 だが、そのすぐ先には別の意味で異世界らしい建物もあった。


 他よりひときわ大きな石造りの建物。入口付近には武装した男女が集まり、壁の掲示板には紙が何枚も貼られている。魔物の牙らしきものを提げた男が中へ入っていき、別の女は槍を背負ったまま仲間と地図を広げていた。


 悠人は足を止める。


「……あれって」


 真里奈も視線を向けた。


「ええ」


「たぶん、冒険者ギルドね」


 いかにもそれらしい。


 掲示板には遠目にも依頼書らしき紙が見えた。討伐や護衛や採集、そんな文字が並んでいるのだろうと想像できる。


 ちょうどその時、中から大柄な男が出てきた。片手には刃こぼれした剣、もう片方には血の染みた袋を提げている。入口の脇には魔物の頭骨のようなものまで無造作に置かれていた。


 酒臭い笑い声も聞こえる。


 生活感のある街並みの中に、そういう荒っぽさが当然のように混ざっている。


「本当にあるんですね」


「あるでしょうね」


 真里奈は少しだけ苦笑した。


「むしろ、ない方が不思議かも」


 異世界らしい建物を前にしても、今は中を覗く余裕はない。今日の目的は別だ。


 真里奈は周囲を気にするように少し声を落とした。


「……黒崎くん」


「はい」


「今日の目的、ちゃんと覚えてる?」


「衣類の買い物ですよね」


「声が大きい」


 真里奈が即座に小さく叱る。


 そして耳まで赤くしながら、さらに声を潜めた。


「……下着もよ」


「すみません」


 悠人も少しだけ声を落とした。


 真里奈はため息をつく。


「この世界のもの、作りが合わないの」


「サイズも大雑把だし」


「布も微妙で」


 その言い方には、かなり切実な困り方がにじんでいた。


 そういえば、男子の間ではこういう悩みはまったく聞かない。こちらの世界の下着でも、男は大して不満を抱いていないようだった。多少簡素でも気にしないし、動ければ十分だと思っている者が多い。もちろん、悠人もそう思っている。


 だが女子は違うらしい。


「……やっぱり大変なんですね」


「大変よ」


 真里奈は即答した。


「………かなり」


 二人はまず布屋に入った。


 店の中には色とりどりの布が壁一面に吊られており、奥では女性店員が慣れた手つきで布を裁っていた。


 真里奈は最初、いかにも教師らしく控えめだった。


「……この布、柔らかいわね」


「でも少し高いかしら」


 店員が笑顔で応じる。


「長持ちしますよ」


 真里奈はしばらく迷ってから、小さく頷いた。


「じゃあ……これを少し」


 次の店では衣類を見る。


 この世界の女性用下着は、やはりかなり簡素だった。機能性重視というより、とりあえず身につけるもの、という印象だ。サイズも細かく分かれておらず、体に合わせるという発想があまり強くない。


「……やっぱり合わないわね」


 真里奈が小さくため息をつく。


「サイズも合わないし」


 その言葉を聞いた瞬間、悠人の頭に昨日のことがよぎった。


 完全鑑定。


 視界に浮かんだ真里奈の情報。


 身長、体重、そして――。


(……先生、スタイルいいもんな)


 思わず顔が熱くなる。


「……黒崎くん?」


 真里奈が不思議そうにこちらを見た。


 悠人は慌てて視線を逸らす。


「い、いえ」


「なんでもありません」


 真里奈は少し首をかしげ、それからふっと表情を和らげた。


「ごめんね」


「え?」


「こんなところまで付き合わせちゃって」


「本当なら一人で来るつもりだったのに」


 少し照れたように言う。


「でも……黒崎くんと一緒で助かったわ」


 悠人の顔がさらに熱くなる。


 だが、その理由は真里奈の思っているものとは違う。


 真里奈はその反応を見て、くすっと笑った。


(あら……照れてる)


 どうやら二人とも、まったく別の理由で赤くなっているらしかった。


 次に入ったのは、小さな雑貨店だった。


 店の棚には見慣れない道具が並んでいる。金属の輪や、奇妙な形の瓶、用途の分からない木製の器具。


 真里奈がその一つを手に取った。


「……これ何かしら?」


 細い金属の棒の先に、丸い石のようなものが付いている。


「飾り……?」


 悠人は少し首をかしげた。


「ちょっと鑑定してみます」


 真里奈が興味深そうに見る。


「そんな簡単に分かるの?」


 悠人は軽く意識を向ける。


 視界に文字が浮かんだ。


 ――香草粉砕棒

 薬草や香草をすり潰すための道具。


「……あ、薬草なんかをすり潰す道具みたいです」


 真里奈が感心したように目を丸くする。


「へえ……便利ね」


 店主が頷いた。


「お、よく分かったな兄ちゃん」


「薬屋がよく使うやつだ」


 真里奈が小さく笑う。


「鑑定スキルって本当に便利なのね」


 悠人は少し曖昧に頷いた。


「まあ……そうですね」


 だが真里奈は、少しだけ首をかしげていた。


 黒崎悠人の鑑定は、どこか普通の「便利」とは違う気がしたからだ。


 それから何軒か店を回るうちに、真里奈の遠慮は少しずつ薄れていった。


「……これも」


「あっこれも良さそうね」


「これは部屋着に使えそうだし」


 気がつけば、真里奈の腕には布の包みや衣類や小物がかなり増えていた。


 悠人は少し苦笑する。


「先生、結構買いましたね」


 真里奈は少し恥ずかしそうに笑った。


「……だって、やっとまともな物が見つかったんだもの」


「女子はいろいろあるのよ」


 買い物を一通り終えた二人は、人通りの少ない路地の方へ移動した。


 真里奈が荷物を抱え直し、小さく息をつく。


「……重い」


「持ちますよ」


「ありがとう。でも……」


 真里奈は少し迷ってから、思い出したように言った。


「黒崎くんって、収納のスキルあったわよね」


「あります」


「もし良かったらなんだけど」


 荷物を見下ろしながら、少し申し訳なさそうに言う。


「収納してもらってもいい?」


「もちろんです」


 悠人が荷物に触れ、意識を向ける。


 次の瞬間、布の包みがふっと消えた。


 真里奈が目を丸くする。


「……本当に便利ね」


「普通の収納でも便利そうだけど」


「黒崎くんのは、ちょっと違う感じがするわ」


 真里奈は真面目な顔になった。


「それに、鑑定も」


「え?」


「さっきもそうだったけど、黒崎くん」


「説明しようとして、少し困った顔してたでしょう?」


「そんなに情報が多いの?」


 悠人は曖昧に答える。


「……多い、です」


「やっぱり」


 真里奈は腕を組んだ。


「教師ってね」


「生徒の変化を見るのが仕事なのよ」


「黒崎くんのスキル、たぶん普通じゃないわ」


 悠人は黙って聞いていた。


 自分でもそう思っていた。だが、こうして他人に言葉にされると少しだけ重みが違う。


 真里奈が周囲を見回す。


「でも、ここで確かめるのは危ないわね」


「見られるとちょっと面倒ですね」


「そうね」


 少し考えてから、真里奈が思い出したように顔を上げた。


「そういえば、さっき宿屋さんがあったわ」


「個室なら、落ち着いて検証できそうね」


 そしてすぐに、慌てて付け加える。


「こ、これはあくまでスキル検証のためだからね!」


「勘違いしちゃダメよ?」


「絶対勘違いしないでね」


「はい」


 悠人は素直に頷いた。


 真里奈だけがなぜか顔を赤くしていた。


 城下町の通りを少し戻ると、目当ての宿屋はすぐに見つかった。


 木の看板が揺れている。


 真里奈は一度だけ立ち止まり、宿の入口を見てから小さく息を吸った。


「……入るわよ」


「はい」


 二人は顔を見合わせ、そして宿屋の扉を押した。


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