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選ばれた召喚獣

よくある学校の制服が、窓から入った初夏の風に揺れる。

味気ない放課後の教室で、その子は大きく溜息を付いた。


今度の夏休みに、慣れないクラスメイトと海に行く。


私は泳げない、話せない、決められないの三段構えで断ろうとしたけど、決められない優柔不断が発動して気付いたら付いて行く事になっていた。


夏になると、どうして学生はこうも羽目をはずしたがるのだろう。

どんな水着を着るのか、誰を狙うのか。つい先程までそんな談話で盛り上がっていた。


そんな会話には一切入り込めず、ただ笑顔を尽くして立っていることしか出来なかった私は、誰もいなくなった教室で独り、こうして立っていた。


押し付けられた掃除当番。


もちろん、順番ではないので気持は断ろうとしたがそんな事は出来ず。得意の笑顔と二つ返事で快諾してしまう。


巡璃めぐり、掃除終わったか?」

扉を開ける音と共に担任の声がする。

名前を呼ばれた私は、男前な女性教師に向き合い、はいと

嬉しそうな声音で返事をした。

終わったら帰れよと、特に説教もなく担任は教室から出ていく。


その後ろ姿をにこやかに見送り、掃除道具を片付ける。


クーラーも無い教室は蒸し風呂のよう。汗が頬を伝って制服に染み込んでいく。

初夏の風を惜しむように教室の窓を全て閉め、軽く机と椅子を整えると私は帰路に着いた。





数日後の午前中。

私は電車に揺られ、約束の海へと向かう。

車内の冷房は天国だが、人混みがそれを全て無駄にする。

軽くは無い荷物を抱え、押合いし合いしながら揺られていると、目的の駅へと辿り着く。


扉が開くと同時に、雪崩れるように人が外へと出て行く。

海の前に、人の波に揉まれながら私は海へと向かって行った。


「巡璃〜!遅いー」

クラスメイトが遠くから声を張り上げている。

遅い、と言われ慌てて時計を見た。

時刻は8:59を示していた。待ち合わせはその1分後の9時である。


「ごめんなさい、人混みがすごくて……」

悪くないけど謝る。軽い言い訳をしながら、私は荷物を砂浜に降ろした。

「水着持ってきた?着替えておいでよ」

「私は泳げないから。ここで荷物番してるよ」

じゃあ、その荷物は何?と問われ、皆の飲み物を買ってきたと答える。

「あんた、ホントしけてんね。別に飲み物なんてここで買えばいいじゃん」

ごもっともである。

ただ、少しでも安く済むようにと配慮した結果だ。学生は

金持ちじゃない。

そんな事を言おうものなら、貧乏臭いと罵られそうなので黙っている。


「おっ、二ツ星来てるじゃん!」

私の苗字が呼ばれ、声の方を見ると同じクラスメイトの男子がいた。

金髪に日焼け、まさに校則を外れた学生のテンプレである。

「水着着ないの?」

「泳げないんです、ごめんなさい」

本日2度目の謝罪をする。男子はふーんとジロジロと見た後、急に手を掴んできた。

「泳がないなんて勿体ない!そのまま水に入っちゃえよ!」

そう言って強い力で水際へと引っ張っていく。

濡らしちゃえよ!などと卑下た嗤い声が重なる。

他の男子も加わり海の中へと引きずり込まれた。

「やめてください!!」

優柔不断の唯一の抵抗も虚しく、複数の男子によって沖へ沖へと追いやられる。


足がつかなくなり、体の下から無遠慮な男子達の手が触り、支える。

「泳げないなんて嘘だろ。お前ら、手ぇ離せ」

「まっ、待って!私本当にっ!」

触られたくはないが、離されたくもない。

藻掻もがく手足は虚しく暴れ散らし、私は息をこぼしながら溺れていく。


「おい。マジで泳げねーんじゃね?」

気付いた時にはもう遅い。男子の何人かが追いかけようと海に潜る頃には、沈みゆく手の先が遠くに見える距離になっていた。



「……」

苦しい、息ができない。

鼻や口から入った水を出せず、苦痛に耐えながら沈んでいく。


私、死ぬのかな。


そう思いながら、深い深い水底へと意識と共に落ちていった。





「……なさい、目覚めなさい」

声が聞こえる。誰だろうと声の記憶を呼び起こす。

クラスメイトでも家族でもない。知らない人の声だなと

思い、再び微睡まどろもうとした時、頬に衝撃が走った。

「起きなさいコラ!あたしが呼んでるでしょ!!」

ぼんやりする頭と、あとから来る痛みで平手打ちをされたのだと気付く。

寝ぼけ眼に映った相手は、いかにも女神様といった風貌ふうぼうの人だった。

スモーキーローズ色の長いウェーブの髪に、白いケープをまとい、ご丁寧に柔らかそうな薄レモン色の翼を付けている。


「どちら様でしょうか?」

全く知らない初対面の人に平手打ちされ、戸惑いながらも

礼儀を払う。もしかすると、海の中から助けてくれたのかもしれない。

「あたしは女神よ!とーっても偉い神様!突然だけど、

貴方は今から転生します」

あっ、やっぱり死んだんだと思い納得する。

そうですか、と短めに答えると女神と名乗った女性は呆れたように息をつく。

「もう少し喜びなさいよ、転生よ?て、ん、せ、い。死んですぐに生まれ変わるなんて普通は出来ないからね?!」

「はぁ……」

天国か地獄か分からないが、そんな事情は露ほども知らない。喜ぶことも、悲しむことも出来ないでいると、女神は

人差し指を突き立てて話し初めた。

「いい?貴方は今から星を救うのよ。命の活気が減った星を

元気にするの。

転生した先で人々を助けて周りなさい」

「ほ、し?」

急に突きつけられた難問に、今まで習った知識は何一つ及ばない。困惑している間に、頭がぐらつき目が回りはじめる。

「えっ?まって……!」

「グッドラック!巡璃めぐり。頑張るのよ!」


再び意識は遠のいていく。

私は訳もわからず、誰にも届かない声を上げ続けた。



「━━━━っあ!」

次に目覚めた時は、ちくちくと刺さる草地の上。

慌てて起き上がると、辺りは一本の木も生えていない大草原だった。

「ここ、どこ?」

死んで生まれ変わったらしい私は、見知らぬ土地に困惑する。

故郷のどこでもない、馴染みのない空気が海外に来たかの

ように思わせ、一気に不安が押し寄せた。


まだ少しふらつく足取りで、どこへ向かうでもなく歩き出す。

空は暗く、2つの月が夜空を照らしている。

夜なのだとようやく認識し、眠気が消えた。


誰もいない草原を独り寂しく歩く。

とにかく誰かに会いたい。贅沢を言うならお布団で寝たい。

お腹も空いてきた、何か食べたいけど木の実は暗くて見当たらない。

そもそも樹木が無いから、食べ物の期待は出来なかった。

「誰かぁ、いませんか〜?」

そう声を出すと、体が浮遊感を感じ始めた。

驚いている間に、足元に光る魔法陣のようなものが現れているのが見える。

「え?ちょっと、えぇー?!!」

体が泡のようなもに包まれ、草原から1人の少女が姿を消した。




星のえにし、双子月の調べ

いにしえより開かれし金の扉をくぐ

汝、原初の時を示せ!

千天の空より、我が護り手となれ

出でよ、召喚獣!!



力強い青年の声が夜の荒地に響き渡る。

二足歩行の怪物の前に、巨大な魔法陣が幾重にも重なり展開する。

巨大な光の柱が昇り、その中から現れたのは短い黒髪の少女だった。

丸い眼鏡、太ももまであるブーツ、丈の短いスカート。白衣を思わせる長い上着に、首に巻き付けられた細長い布が揺らめく。


「は?」

「え?」

草原にいたと思えば、次は荒地にいる。

浮いてた体が急に落下し、私は尻もちを着いた。

「いった〜」

痛むお尻をさすることも出来ず、うずくまっていると誰かが叫ぶ声が聞こえる。

「なんで召喚獣なのに人間なんだよ!もう何でもいいや、お前!あいつと戦ってくれ!」

「戦うって……」

強い獣臭が鼻を突く。見上げると、3mはゆうに超す巨大な二足歩行の獣がいた。

獣と言うには形がいびつで、白くとがった角が頭や肩から生えている。怪物モンスターと言った方が正しい。

それは低く唸り声を上げると、片腕を振り上げ勢いよく地面に叩き付けた。

小さな悲鳴を漏らすその横に、大きな穴があく。

砂煙と砕かれた小石が舞い、体に激しく降り注ぐ。

「いったい、痛い!」


急に知らない青年に声をかけられ、見たこともない怪物に襲われる。

戦えと言われたけど、そんなのは無理な話である。


怪物は再び片腕を振りかざす。

「無理無理無理!!」

急いで立ち上がり、背を向けて走り出す。青年の前を通り過ぎ、遠くに逃げようとした所で体が浮いた。

「おい、逃げるな召喚獣!」

青年は杖を弧を描くように振り、少女を引き戻した。

「無理です!」

涙目で訴えるも、冷たい目の青年には響かない。

戦えと蹴飛ばされ、私は再び怪物の前へ追いやられる。



怪物の繰り出す巨腕に逃げ惑っては、身体が浮いて戻される。

泳げない、話せない、決められないに戦えないが加わる。

人間が相手にして良い相手じゃない。

そもそも喧嘩すらした事ないのだ、戦い方が分からなくて当然だ。


「んだよ、本当に使えないな!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

必死に謝る。召喚獣と言われてたけど、創作の世界にある

かっこいいアレだろうか。

人間から転生した先は、人間の姿のままの召喚獣。

とてもファンタジーとは思えない能力と姿に、自分でも落ち込む。

更に青年に足蹴にされ、使えない、屑、ゴミと罵られる。

私は謝ることしか出来ない。


そうしてる間にも、怪物は獲物を追い詰めたかのように、

余裕の笑みを浮かべてこちらに向かってくる。

再び巨腕が振り上げられ、私は殴られながら空を仰ぐ。


あぁ、また死ぬのかな。


世界はゆっくり動いている。そんなことを感じていると、

「その子に触れないで。――私の星導ステラガイドよ」

聞き覚えのある声が耳をかすめる。

ふわりと白い衣が舞い降り、スモーキーローズの髪が揺れる。

振り下ろされた巨腕は、硬い何かに弾かれ、怪物は大きく体勢を崩した。


女神様が天に手をかかげ、結界を張って守ってくれたのだ。


「え?誰?」

青年が口をあんぐりと空け、ほうけていると女神様は私の手を取った。

「貴方に戦う能力を授けます。全てを焼き尽くす炎をその体からほとばしりなさい」

私を見た瞬間、女神様の表情が緩んだのが分かった。


淡い光が握られた手から体を包み込む。

体が熱くなり、内側から力が湧いてくるのを感じる。

「さぁ、巡璃めぐり!行きなさい」

「ちょっ、女神様が戦えばいいじゃない!」

「私は自衛しか出来ないの、ごめんね〜」

ひらひらと手を振って微笑む。可愛らしいその笑顔が、今は悪魔に見えた。


仕方ないと割り切って怪物と対峙する。

召喚獣として生まれ変わったせいか、力を授かったせいか。戦う勇気が湧いてくる。

殴られた体を奮い立たせ、怪物を睨みつける。


怪物は相変わらず巨腕を振り上げて、こちらを見定めていた。

俊敏に動くタイプじゃないと悟り、私も片腕を天にかざす。

その腕に赤々とした炎が巻き付くように現れ、怪物と同じ

巨大な炎のかいなとなる。

息を飲み、互いに同時に振り下ろす。

「いっけー!!!」

学生だった頃では考えられない声を張り上げ、怪物を殴り倒す。

相手の肉が焼ける匂い、硬い筋肉を引き裂く感触が伝わる。

それに気持ちが高揚し、その心に呼応するように炎が大きくなる。

炎は怪物の全てを包み込み、やがて灰となって消えていった。


「やったやったー!さーすが私の転生者!」

女神様が嬉しそうに抱きついて、頬擦ほおずりしてくる。

熱烈な歓迎を受け、殴られた痛みが和らいだ気がした。

「す、すっげーじゃないかお前!」

ずかずかと青年が割り込み、強く手を握られた。

それに体がびくついて拒絶反応を起こす。


あの時、海に引きずり込まれた恐怖と感覚が先程までの高揚感をき消した。


「ちょっと、やめ……」

「なあなあ!そんな強いなら俺と永続契約してくれよ!」

振りほどきたくても振りほどけない。

さっきの戦いとは真逆に体がすくんでいく。


パシっと、乾いた音が鳴り響く。

女神様が青年を平手打ちし、睨みつけていた。


「その子は私の星導ステラガイドよ。貴方(ごと)きが触れていい存在じゃないわ」

「なっ、なんだよ星導ステラガイドって。ただの召喚獣だろ?あんたの所有物じゃない!契約したのは俺だ!」

青年は怯むことなく言い返す。その言葉が女神の逆鱗に触れた。

女神様は青年の手から杖を奪い取ると、両手に持ちそれをひざに叩き付け真っ二つに折った。

放心する青年に女神は告げる。

「あらぁ、召喚術師なのに大事な杖がないないなっちゃったわね〜。これで契約はご破算、繋がりとなるアイテムが無いと自動解約されるわ」

カランと音を立てて折れた杖が転がる。

青年はその場にひざをつき、無念と項垂うなだれた。



「大丈夫だった?巡璃めぐり、今傷を癒してあげるからね」

優しい手が私の手を包み込む。新緑を思わせる色が体を包み、痛かった身体はすっかり癒され元気になった。

「女神様……あの、私」

色々聞きたいことがある。それを察して、女神様は場所を変えましょうと言って手を引いた。


その手に導かれるまま、荒野を歩く。

夜が明け始め、空は薄暗い模様へと変わっていく。

「女神様、召喚獣とは何でしょうか?」

手を繋いだまま質問する。女神様は少し振り返ると答えてくれた。

「召喚獣とは、文字通り術者に召喚されて使役される獣。

様々な能力を宿した一発逆転を狙える強さを持つ存在よ」

「私にそんな能力ないのですが」

怪物を前に逃げる事しか出来なかった。足がすくむ事なく逃げれたのは、人間としてより召喚獣としての側面が強かったせいだろうか。

「うーん、それなんだけど能力が一部封印されちゃってるみたいなよね。ごめーんね!」

あどけない笑顔で舌を出し、女神様は悪くなさそうに謝る。

「それなのに私は戦わないといけないのですか?」

「そうねぇ、人々を助ける為だもの。そこは割り切ってね。

あと、召喚獣だから世界のあちこちから呼び出されるわ」

突然移動する事確定である。


だから、と女神様は立ち止まる。

こちらを振り返り、両手で手を握りしめる。優しい天使の

ような微笑みをこちらに向けた。

「貴方の事が心配だから、一緒に付いていく事にするわ!」

「……」



夜明け前の黄昏色が、昇る朝日で塗り替えられ黄金色に染めていく。

これが、女神様との旅の始まり。

星導ステラガイドと呼ばれた召喚獣の私が踏み出す、

未知の物語。


その先に、試されるのが星だけでないことを、私はまだ知らなかった。

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― 新着の感想 ―
転生までテンポが早くて良いですね。 人間が召喚獣扱いという設定も面白いです♪
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