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5ー② キアラ

 

 アミーリアの元へ宝石商レヤード(アラン)が来た日の夜中、ギディオンはキアラの子供部屋を訪れていた。

「なんでだ。なんで若い男が来る……」

「ちらない」

「勝手に息子に変えるなんて……。厳選した意味がないではないか」

「しょだね」

「……なんで俺に断りもなく……」

「はぁ……」

「ため息つきたいのは俺の方だ……」

 今日のギディオンは、途轍もなく打ちのめされ、落ち込んでいた。

 さっきから、“どうして宝石商レヤードの息子アランが来ることを止められなかったのか”を、くどいほど繰り返し愚痴っていた。

 何回も同じことを聞かされて、もうウンザリだ。返事がおざなりになるくらいは許して欲しい、とキアラは思う。


 どうも愚痴の内容を精査し統合すると……こう云うことらしい。

 アミーリアと面会できる商人は全員ギディオンの厳しい審査を合格したものに限られていた。

 審査基準は、身元の調査が終了し問題のなかった者で、女性もしくは年配の男性。若い男性などはもってのほかだった模様。

(相当嫉妬深……、ぅんんッ。ママはずいぶん大事にされているのねっ)

 小説の方では、アミーリアは孤立して閉じ籠っていたって書いてあったし、わざわざ訪ねた商人は腹に一物あるレヤードだけってことだったのだろう。

 だがギディオンの愚痴から推測すると、現実(こっち)のアミーリアには、いままで何人もの商人が紹介されていたようだ。

 ここでキアラははたと気が付いた。

(……ああ! そうか。それでママはファーニヴァル領内の情報を掴んでいたのか! なるほど納得~)

 アミーリアが城の外の状況を良く知っていた謎がやっと解けた。レヤードの前にも何人かの商人と会っていて、うまくいろんな情報を聞き出していたのだろう。

 ただ、こんなに過保護……ぅんんッ……、面会できる人間を厳選し制限してまで、わざわざ商人と引き合わせるのはどうしてなのか。小説通り閉じ籠らせておけば、こんなに心配することないだろうに。


「やはりアミーリア様はシルヴェスター王子のことが忘れられないのだろうか」

 苦悩のせいか、眉間の縦シワがいつもより深く本数も増えていた。

 表情は険しく凶悪さは増しているが、瞳は死んだ魚のように光が消えて力がなく、いつもの迫力は欠片もない。

「うぅん。しょれはないよ」

 アランとシルヴェスター王子が似たカンジなら、絶対にそれはナイといえる。だって、全然ママの好みのタイプじゃないから。

「そうだろうか。俺は気が利かないから……。そう言われて……はぁ……」

 突然ギディオンの頭がガクリと沈み込んだ。どうやら落ち込みが底辺まで到着し、さらに穴まで掘っているらしい。いじけたように(うずくま)り、黙ってしまった。

 虎というよりデカい熊が丸まっているみたいだ。

 しかし、そこまで言ったなら全部ゲロってから落ち込んで欲しい。中途半端なままじゃ、気になって眠れやしない。

「…………いわれて、どーちたの?」

「…………せめて、贈り物くらいしろ、と……それで……」

「……しょれで?」

「商人を呼んだ……が、……失敗した……」

 蹲ったまま、頭をガシガシと掻きむしっている。

「んんー……」

 キアラはしばし考え、ギディオンの断片的な言葉(ワード)といままで観察してきた事象を繋ぎ合わせて推理を試みた。

 ——恐らく、こう云うことではないだろうか。(注:若干キアラの脚色アリ)

 結婚後、シルヴェスター王子に心を残している(とギディオンは思っている)アミーリアに対して複雑な感情を抱き、アミーリアが好き過ぎるが故に傍から見ておかしな態度を取り続けるギディオン。

 しかし、心の底ではアミーリアと仲良くしたいと切望し悩んでいるのは、家臣の誰もが知るところである。

 そんなギディオンを見兼ねた家臣の誰かに「せめて、贈り物でもしてご機嫌をとったらどうか」とアドバイスをされた。

 贈り物をするのはいいが、気の利かない武骨な自分が選んだものを贈るよりは、商人から直接アミーリアが気に入ったものを買ったほうがいいだろうと(斜め上に)考え、商人を呼んだ。(きっとアドバイスした人は「そうじゃない」と呆れ果てたことだろう)

 ⓵ でもアミーリアにはギディオンの意図が全く伝わらず、商人が来てもまったく買い物をしなかった。

(——ということが、失敗した?)

 ② もしくは、招喚する商人は、アミーリアに近付けても自分が嫉妬しない者(女性か年配の男性)を厳選したはずが、どうした訳か若い男——それも最も忌避すべきシルヴェスター王子似——が来てしまい、しかもアミーリアがその商人を気にしている。

(——ということが、失敗した?)

 って、ところだろうか。

 失敗したのは⓵と②どちらか。いや、両方かもしれない……と、キアラは考察した。


「キアラ、アミーリア様が話をしたいと言ってきたんだ……。別れ話だろうか」

「ちやうよ、……たぶん」

 王家肝入りの政略結婚なんだから、別れられる訳ないじゃん。と、キアラは思うのだが。

「あの男が気に入ったのだろうか」

「ちやうよ、……たぶん」

 だからママの好みじゃないんだって。

「やはりアミーリア様はシルヴェスター王子のことが……はぁ」

「…………」

 もうくどい! それさっきも言った!

 キアラがだんまりしていると、ギディオンは自分でも思考がループしていることにやっと気が付いたのか、自嘲するような笑みを浮かべて、大きなため息をついた。

「……もう戻るよ。おやすみ、キアラ」

 疲れたように立ち上がると、キアラの頭をひと撫でして、ギディオンは子供部屋を出て行った。

 あんなに意気消沈したギディオンは見ているだけで可哀そうになるが、キアラは逆にいい機会なのではないかと、実は内心思っていた。

 いままで、なんだかんだと二人は顔を合わせることを避けていた。

 宝石商レヤードの登場によって、アミーリアとギディオンは(ようや)く話し合いの席を作れそうなのだ。

 この機会に、是非本音をぶつけ合い、お互いの気持ちを確認し合っていただきたい!

 いや、そこまでいかなくても、お互いが好意を持っているってわかれば……。

 いやいや、そこまで贅沢は言わない!

 せめてお互い嫌っていないとわかれば、何か進展が望めるんじゃない⁈ と、キアラは期待していた。

 そして驚いたことに、ギディオンは次の日「話があると聞いた」といって、早速アミーリアのいる子供部屋へやって来た。

(頑張ったじゃん! パパ!)

 キアラはギディオンが一晩でなにかが吹っ切れて、やっとアミーリア(ママ)との関係修復に乗り出したのだと大いに喜んだ。

 アミーリアも意外に思いながらも内心は絶対に喜んでいた。

 その証拠に今日はギディオンに向けて笑顔をみせているし、これなら話し合いは結構うまくいくんじゃない? とキアラの期待は非常に高まっていた。

 このあと、手ひどく裏切られるとは、思いもせずに。


ありがとうございました。

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