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冬童話2025

紙飛行機の遺しゆくもの

作者: 壊れた靴

 幼い女の子が、紙飛行機をそっと飛ばしました。

 紙飛行機には、沢山の荷物が積まれていました。

 紙飛行機は、ゆっくりと、飛びました。

 紙飛行機は、ゆっくりと、荷物を落としながら飛びました。

 固い地面の上に、優しく落としました。

 柔らかい地面の上に、力強く落としました。

 湿った土の上に、軽やかに落としました。

 乾いた土の上に、重たげに落としました。

 熱い砂の上に、涼やかに落としました。

 冷たい雪の上に、暖かに落としました。

 小さな水たまりの上に、大げさに落としました。

 大きな水たまりの上に、控えめに落としました。

 荷物が落ちていくたびに、女の子は大きな喜びと、小さな寂しさを覚えました。

 紙飛行機は、全ての荷物を落としました。

 全ての荷物を落とした紙飛行機も、落ちました。

 それから、長い時間が過ぎました。季節は何度も巡りました。


 幼い女の子は、年老いたお婆さんになりました。

 お婆さんは、沢山の家族に囲まれていました。

 お婆さんは、ゆっくりと、眠りました。

 お婆さんは、ゆっくりと、笑いながら眠りました。

 お婆さんは、紙飛行機に乗る夢を見ました。

 紙飛行機は、お婆さんを乗せて飛びました。

 紙飛行機は、お婆さんが幼い女の子だった時と同じ路を飛びました。

 同じ路でも、変わった景色もありました。

 同じ路でも、変わらない景色もありました。

 落とした荷物のいくつかは、美しく小さな花になっていました。

 落とした荷物のいくつかは、美しく大きな木になっていました。

 落とした荷物のいくつかは、美しく小さな虫になっていました。

 落とした荷物のいくつかは、美しく大きな獣になっていました。

 落とした荷物のいくつかは、美しく小さな貝になっていました。

 落とした荷物のいくつかは、美しく大きな魚になっていました。

 荷物の育った姿を見るたびに、お婆さんは大きな大きな喜びと、小さな小さな寂しさを覚えました。

 紙飛行機は、落ちることなく飛び続けました。

 紙飛行機は、お婆さんを乗せて、落ちることなく飛び続けました。

 それから、長い長い時間が過ぎました。季節は何度も何度も巡りました。

 

 年老いたお婆さんは、いなくなりました。

 お婆さんの沢山の家族も、いなくなりました。

 けれど、彼らはもっと沢山の家族になりました。

 お婆さんの見た、花も、木も、虫も、獣も、貝も、魚も、いなくなりました。

 けれど、彼らは大きな大きな世界になりました。

 そしてまた、誰かの飛ばした紙飛行機が、世界を静かに見下ろしています。

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― 新着の感想 ―
少女が歳をとって、いつかこの世から去っても、彼女の残したものはずうっと残り続けるのですね。
2024/12/28 19:50 退会済み
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