病院
白虎は、病院に駆け込むなり、通りかかった看護師にすぐに姫を見てほしいと懇願した。
その状況が、あまりに緊迫していたので、その看護師は、
「今、すぐに先生を呼んできますのでそこでお待ちください。」
そう言って、病院の待合の長椅子を指さした。
白虎は、『いや、』と言いかけたが、諦めてその看護師が指さした長椅子に姫を寝かした。
しばらくして、さっきの看護師が、毛布を持って来てくれた。
「もうすぐ先生が来ます。その前に、状況を教えてください。」
そう聞かれて、白虎もたじろいでしまった。姫が、どうしてこんな状態になっているのか、具体的には、何も知らない。ましてや、誘拐の話をしても変な奴らと思われるだけだ。
とっさに、
「学校で、食事をしていたら急に意識を失ったんです。」とうそを付いた。
「何か、変なものを食べたのかしら?」
「もしかしたら、その食べ物に何か薬品が入っていたかもしれません。」と白虎が言った。
そのとき、ちょうどその看護師が呼んでいた医者が来てくれた。
「ここでは、診察ができないのでこちらに来てください。」
白虎は、再び姫様をお姫様抱っこをして、その看護師と一緒にその先生の後をついっていった。
そして、診察室のプレートのかかった部屋に入っていった。
「そこのベッドに寝かして。それで、君は、彼女の身内かな?」言い淀む白虎。
「でなければ、とりあえず外で待っててもらえるかな?」
さっき、誘拐されたところなので、姫様をひとりにするのは不安だったけど、その診察室に他に出口が無いことを確認してから、頷いた。
「何か有ったら読んでください。」
「わかった。それと、ご家族に、連絡してもらってもいいですか?連絡がつかなければ、学校の関係者でもいいですよ。」
先生は、姫の瞳孔に光を当てて状況を確認しながら言った。
「わかりました。」そう言って、白虎は、部屋を出た。
ひとまず、医者に診てもらえるので、大丈夫だろうと思ったのと、連絡するすべがなかった。
診察室の前の長椅子に座って、待ってるしか仕方が無かった。
さっきの看護師さんも一緒だから、たぶん大丈夫だろう。
しばらくして、さっきの看護師と先生がが出てきた。
「医師としては、患者の身内と確認できない以上は、何も言えない。」と言って、その診察室を出て行った。それと、『彼女の意識が戻らないと、何もできない。』とのことだった。
「先生が一通り確認し、胃洗浄をしたが、何もなかったとのことです。『麻酔か催眠薬かを吸うか飲むかをして、一時的に意識を失っているだけだろう。』とのことです。」時間が経てば、目が覚めると思います。」
「それと、あなたを疑うわけではないですが、警察にも連絡させていただきます。」
「あなたも、気になるでしょうけど、入室は出来ません。私が、付いているので目が覚めて、彼女があなたを呼べば、お入り頂けます。」
「わかりました。」白虎は、そこで待機しているしかなかった。
「すみません。この状況を学校の先生に連絡したいんですけど、自分は、今、何も持っていないので電話、お借り出来ないですか?」
「そう、わかったわ。ついてきて。」
そういうと、看護師は、ナース室の電話を使うよう指示した。
他の看護師が、怪訝そうな顔をしたが、彼女がそれなりの立ち場の人間らしく、誰も何も言わなかった。
白虎は、学校に電話して、亜紀先生を呼び出してもらった。
すぐに、亜紀先生の声が受話器から聞こえた。
「今、佐紀がその病院に向かってるから、もう少し待ってて。」
「で、姫様の状況は?」
「やっぱり、麻酔薬か催眠薬で眠っている状況だそうです。そのうちが気が付くでしょうとのことです。それと、自分は、身内ではないので診察室には、入れてもらえてないです。」
「心配ね。病院は、わかってるから、理事長から、その病院に電話してもらって、診察室に入れるように手配するわ。」
「お願いします。」それで、電話が切れた。
「連絡ついた?」
「はい。学校の先生がすぐ来てくれるそうです。僕も、彼女も寮生なので、先生しか頼れなくて。」
「それと、彼女の祖父からも、こちらの病院に連絡を入れてもらうようにしました。」
「そう、わかったわ。」
白虎は、すぐに、診察室の前まで戻ってきた。
ほんとは、中の姫の様子を見に行きたかったが、立ち入り禁止なので仕方が無い。
ひたすら、胸のペンダントを握りしめ、そこから、姫様の声が聞こえてくるのを待つしかなった。
しばらくして、佐紀先生が来てくれた。
さっきの看護師と一緒に、診察室の前にやってきた。
「白虎、大丈夫?」
「自分は、大丈夫です。」
「良かった。今から、姫を病室に移動させるから一緒に付いてきて。」
姫は、キャスター付きのベッドでその診察室から出てきた。
まだ、意識は戻ってないようだった。
もしかしたら、このまま意識が戻らなかったらどうしよう。そんなことを思いながら、そのベッドの後を付いて行った。
中央のエレベーターで5回まで上がった。
そして、個室の病室に入っていった。
「白虎、姫さんと子っと一緒に居てね。私は、入院手続してくるわ。理事長とも相談したんだけど、大事を取って明日までこの病院にいることにしたわ。貴方の着替えも持ってきてるわよ。」そう言って、白虎にカバンを渡した。
「ボディーガード頑張ってね。」
そう言って、佐紀先生は、病室を出て行った。
白虎は、着替えを済ませると、姫さんのベッドの傍に、椅子をおいて、姫さんの手を握った。
その手は、とっても冷たかった。
白虎は、その手を温めようと祈るように握った。
そして、その手が、徐々に温かくなっていくのを感じた。
「白虎?」おもむろに頭の上から声が聞こえた。
ビックリして、頭を上げると目を開けて、白虎を不思議そうに見ている姫様の顔がそこにあった。
白虎は、うれしくて
「姫さん。」と叫んで、思わずそのきゃしゃな体を思いっきり抱きしめてしまった。
「痛い。白虎。」
慌てて、腕を解いて離れようとしたが、今度は、姫さんが、白虎を抱きしめていた。
「ありがとう、白虎。私を助けてくれたのね。」
「すみません。怖い思いさせて。」
「大丈夫よ。絶対、あなたが来てくれると信じていたから。」
その時、扉をとんとんと叩く音がした。
「いい雰囲気の中、ごめんなさい。入院手続は終わったわ。私も、すぐにチア部と佐々木の面倒を見ないといけないのでこれで失礼するわ。続きは、私がいなくなった後でしてね。」
「先生、チア部の人達は、大丈夫なんですか?」と姫が聞いた。
「大丈夫よ。貴方が、一番ひどいから。」
「先生、佐々木は?」心配そうに白虎が聞いた。
「あれも、大丈夫よ。相手を50人ぐらいのしてから、気を失ったみたい。それより、相手の方がみんな重症よ。ちょっとは、手加減して、と言いたいけど、無理ね。大事な姫さんを誘拐した連中なんてこの国の敵よ。」
「理事長も、大臣に直接文句言ったみたいよ。相手は、知らんぷりしたみたいだけど。」
「じゃ、私はこれで失礼するわ。」そういて、佐紀先生は、病室をでていった。
姫と白虎は、しばらく見つめ合って、それから、安堵感から笑いが込み上げてきた。
しばらくして、病室のドアをノックして、先生と看護師が入ってきた。
「学校の先生から、意識が戻ったと聞いたので、ちょっと見せてください。」
外に出ようとした白虎を先生は引き留めて、姫の脈拍を取って、簡単に問診をした。
「大丈夫なようだね。貴方のおじい様から、大事をとって一晩入院させたいとのことなのでそのようにします。」「この病院の理事長も後から挨拶に来たいとのことなので、せわしないかもしれないけど我慢してください。」「医者として、駄目だと言ったんだけど。じゃ、私は、これで失礼する。」そして、白虎の方を見て、
「もし何かあったら、すぐに呼んでください。」と言った。
静かになった病室に、綺麗な夕日が差し込んできた。
白虎と姫は、その夕日に照らされながら、そっとキスをした。




