朝食
お風呂から、上がるとアキとサキが待っていた。
「姫様、お体をお拭きいたします。」
そう言うと、生地の柔らかなバスタオルで全身を丁寧に拭いてくれた。
「あら、ユキは?姫様一緒にお風呂に入ってませんでした?」
「ユキなら、お風呂の湯船の中で浮かんでるわよ。」
「あら、大変。」そう言って、アキがお風呂の扉を開けて入っていった。
「姫様、お洋服がやっと届きました。」
そう言って、下着から順にはかせてくれた。そして、お気に入りの薄ピンク色のブラウスにハイウエストのロングスカートを身に着けた。
その姿を見たサキは、うっとりとした目で見つめていた。
「行くわよ、サキ。」
「はい。」
「おじい様、この格好気に行って下さるかしら。」
「大丈夫です。姫さまなら、何を着ても、着ていなくてもこの世のものとは思えないくらいすごく素敵です。」
「そう。ありがとう。じゃ、食堂に行きましょう。」
お風呂の中からは、『ユキ、大丈夫?』という声が聞こえてきた。
お風呂から出るときに何度も声を掛けたのに、放心状態のユキをそのまま置いてきてしまった。
「まあ、そのうちに、もとにっ戻るでしょ。」
食堂の扉を開けて、中に入ると炊き立てのご飯の香りが一気に食欲を搔き立てた。
でも、そこは、王女たるものそんな素振りは見せずに、先にテーブルで食事を済ませ、コーヒーを飲んで新聞を読んでいるおじい様に向かって
「おはようございます。」と挨拶をした。
「昨日は、よく眠れたか?」
「はい。今朝も、お風呂に先に入らせていただきました。」
「石鹸のいい香りがすがすがしいのう。」
「若い娘がいると、若がええるわ。」
「おじい様、若い娘ならこちらにもたくさんいらっしゃいます。」
「そうじゃのう、彼女らにとっては若い方じゃが、わしよりずいぶん年上じゃて。」
「そうなんですか?」
「そうじゃよ。なあ、サキ。」
「殿様、それは、内緒の話です。」
「そうじゃな、まあ、朝ご飯でも食べて、今後の話でもさせてくれ。」
「はい。そうします。」
テーブルの上には、炊き立てのご飯に、鮭の切り身、みそ汁、護摩豆腐、青菜など、色々な日本食が並んでいた。
「ほう、箸も上手に使えるのか?すごいのう。」
「玄武が、連れてきた日本料理の料理人に色々教えて頂きました。」
「そうか、そうか。」
朝ご飯を食べ終わって、紅茶を頂いてるときに祖父が昨日の経緯から話し始めた。
昨日は、朱雀と祖父が私を迎えに行くことになってはいたけど、祖父の方に黒ずくめの男たちの邪魔が入って遅れてしまったこと、そして、おじい様が到着されたときには、すでに連れ去られた後だったこと。
それから、慌てて、朱雀の後を追いかけ、東京駅で私を奪還したことを話してくれた。
「まだ、朱雀が裏切ったことは信じがたいが、レイラ、お前、朱雀から何か渡されんかったかのう。」
「いえ、別に。」そう答えはしたけど、何かが引っ掛かった。
「おじい様、そういえば、この首飾り、伯爵の息子に盗まれたのを、朱雀さんが取り返してくれて私に返してくれました。」そう言って、首飾りを外して、おじい様に渡した。
「ちょっと見せてくれ。」
おじい様は、その首飾りを掌に載せてしばらく見ていた。そして、おもむろに握りしめると、
「レイラ、この首飾りには朱雀の念が込められておる。この念のおかげで、この首飾りをしている間は何が有っても大丈夫じゃ、朱雀と同じ程度の能力を持つもの以外からの攻撃ならな。」
「要は、我ら四神以外、この念は破られないということじゃ。」
「それに、朱雀が連れていた黒づくめの男たち、あんな無粋な輩は、朱雀の部下ではなさそうじゃ。多分、お前をさらったのは、何か理由がありそうじゃの。」
そう言うと、祖父は、おもむろにスマホを取り出し、電話を掛けだした。
「今は、便利な時代じゃのう。」
「もしもし、青龍じゃが、朱雀、今話せるか?」
「昨日は、よくもうちのかわいい孫娘を誘拐してくれたな。」
「姫は、無事じゃ。今は、うちの屋敷で休んでおるわ。」
そう言うと、祖父は私にスマホ差し出した。
「姫と話したいとよ。」
「朱雀さん、レイラです。」
「元気でよかったわ。今日の夕方、カウンタックで姫様を迎えに行きます。そうして、姫様の隣国のノブコロド公国の軍隊に神戸の港で、つかまった私の部下と交換すれば・・・・。」
祖父にスマホを返しながら、
「朱雀さん、これから迎えに来るって。そして、朱雀さんの部下と引き換えに、自分の隣国のノブコロド公国の軍隊にひき渡すって。そこで、電話が切れた。」
「やっぱり、私を誘拐した理由が有ったみたい。」
「今日の夕方ぐらいって言ってたから、アキ、サキそれまで一緒に遊びましょ。」
「いいんですか、姫様。また、誘拐されるんですよ。」
「大丈夫よ。今の電話は、朱雀さんとおじい様と私で、向こうの軍隊をやっつけましょうっていうことだから。」
その日は、二人と一緒に屋敷の中でかくれんぼをしたり、葉っぱ使って変装をしたりして色々遊んで、黒いカウンタックで迎えに来る朱雀を待つことにした。
おじい様は、『準備を整える。』と言ってマキとユキを連れて、どこかに行ってしまわれた。