武道館
亜紀先生が武道館に着くと白虎が、他の部員に剣道を教えていた。
「皆さん、ちょっと竹刀を構えてもらえますか。」
「自分が、一人づつチェックします。」
「部長と副部長は、構えが綺麗ですね。これに、迫力が付くと、強そうに見えますよ。」
「三宅さんは、ちょっと構えが固いですね。それに剣先がちょっと高いです。もう少し下げてください。それと、握りが強いです。右手は、小鳥をそっと持つイメージ、そして、左手は、卵を握りつぶさない感じで。一度振りかぶってください。」
「竹刀が、低いです。頭の上でもこれぐらい上げてください。」そう言って、白虎は、三宅さんの手を持ち上げた。
「これぐらいでないと、打ち込みが生きてこないんです。」
それから、一年生の佐々木さんに
「構えてみてください。」
すうっと、上がる竹刀。剣先が今にも自分をつら抜こうとしている。視線も自分ではなく後ろの武道館の壁、いやもっと遠くを見ている。
足もわずかに膝をまげ、いつでも跳躍できるように構える。体重すら感じないような身軽さを感じさせながら、その体から出される一撃は、非常に重そうだった。
「もしかして、剣道してた?」
「少し。」そう言って笑った。
『嘘だ。』そう、白虎が思った。
今、彼女が、少しでも動けば、どのように逃げようかと考えてる自分に気付いた。
「わかりました。」白虎も、笑ってその場を離れた。
「白虎、どう?」
「亜紀先生、すみません。勝手に仕切らせてもらってます。」
「いいのよ。」
「でどう?」同じ質問を繰り返した。
「いいですね。特に一年の佐々木さん。私と同等かもしれません。三年生も、二年生も対外試合までには、もう少しよくなると思います。ただ、体力が、少し心配だと思います。」
「そうですか?では、掛かり稽古をしてみてください。」
「わかりました。」
「では、皆さん。防具をつけて、掛かり稽古をしてください。」
「部長、一年の佐々木さんとお願いします。」
「副部長は、三宅さんと。」
「時間は、三分で区切ります。」
「白虎、時間は、区切らなくてもいいわ。」
「わかりました。」
四人は、正座して、武具を付け始めた。
静かな中で、紐がすれる音だけが気持ちよく流れた。
すぐに武具を付けた四人が向かい合って、竹刀を構えた。
「始め。」白虎の声が、武道館に響いた。
四人の奇声が、武道館を埋め尽くした。
互いが、息をつく暇もなく竹刀を振り下ろす。
自分の力の限りを、出し惜しみをせずに相手に叩き込む。
白虎は、たぶん、一分も持たないと思ったが、すでに五分以上もみんな打ち合っている。
しかも、息が上がった感じもない。
「白虎、わかった?」
「彼女たち、息してない?」
「大丈夫よ、息はしてるわよ。」月に一回、理事長が、真紀先生に化けて、彼女たちに呼吸法を教えていた。それは、どんなに激しく動いても、息が上がらない呼吸法だった。
そうすることで、相手に、呼吸の切り替わりを見破らせない。
あえて、息が切れたように肩を上下させ、相手に打たせて、それをかわして一本を取ったりもする。
「白虎、わかった?あなたは、呼吸が荒いのよ。」
「そこだけ何とかしなさい。」
「ありがとうございます。」白虎が、亜紀先生に頭を下げた。
亜紀先生は、胸をなでおろした。
『良かった、理事長に色々教えて貰ってて、良かったわ。』
「止め。」白虎が声を掛けた。
「五分休憩。」
そう声を掛けると、白虎は、素振りを始めた。
呼吸を意識しながら、めいいっぱいの速さで竹刀を振った。
竹刀が切り裂く風の音があたりに響いた。
五分が、あっと言う間に過ぎた。肩は、上下に動き回っていた。
「駄目だ。」そう叫んで、白虎は、その場に座りこんだ。
「あなたは、筋トレしすぎなのよ。もっと、しなやかに筋肉が動くようにしなさい。」
「はい。」
4人は、その後、竹刀を2本持った白虎の動きに合わせて、2段打ちの練習をした。
こまめに、休憩を入れて水分を取るようにした。
2時間程度で、練習が終わった。
「ありがとうございました。」各自が、武道館に挨拶をして、更衣室に向かった。
白虎だけは、正座した状態で、瞑想を続けていた。
静かに長く呼吸することを意識しながら、それが、今日学んだことだ。
しばらくして、目を開けると武道館の神棚に、深々と頭を下げ、男子寮に戻っていった。
「さてと、今日の授業の宿題と復習と明日の予習をするかな?」
一瞬、姫様のことが、頭をよぎったが、対外試合までは我慢することにした。




