トンネル
首都高をそのまま走っているとトンネルに入った。
明るく照らす照明が、なぜかぼやけて見えてきた。
そして、進行方向の左側の壁が崩れ、黒い空間が口を開けた。
あっと、思った瞬間、スピードを落とすことなくバイクは、そのままその中に入っていった。
そして、一瞬にして、トンネルは何事もなかったように元の状態に戻った。
バイクとは、いきなりアスファルトから砂利に変わった道を何事もなかったように疾走した。
しばらく行くと、大きな屋敷が見えていた。
バイクが、近づくとその屋敷の門が、自動に開いた。
『もしかしたら、自分は、また、誘拐されたのかもしれない。』そんなことを思っていたが、逃げるにしてもここがどこかわからない。
ただ、私の腕の中の2匹に狐だけが心のよりどころだった。
「着いたぞ。すまなかったな。もう少し、まともな迎え方をすればよかったんじゃが。」
そう言って、その男は、ヘルメットを脱いだ。
「あれ、お爺ちゃん?」
2匹の狐が、コーンと鳴いて、バイクから飛び降りた。
「まあ、詳しい話は、屋敷の中でしよう。おなかすいて無いかな?それとも、体が冷えたんならお風呂に入るか?」
自分もバイクを降りたけど、祖父に会えた安心感から、そのままそこに座り込んでしまった。
祖父は、そんな自分をお姫様抱っこをして、屋敷の中に運んでくれた。
2匹の狐は、先に進んで扉を開けてくれた。
「お爺様、私、このままお風呂にはいって良いですか?」
「構わんよ。このまま、お風呂まで直行じゃ。」
そう言って、大きく笑った。
大きな玄関、そして、広い廊下。エアコンが聞いているのか、11月にしては、温かい。
そのまま、廊下をまっ直ぐに歩いて、いくつもの部屋を通り過ぎた突き当りにお風呂が有った。
「サキ、アキ一緒に入ってやってくれ。」
そう言うと、祖父は私を降ろしてくれた。
二匹の狐は、いつの間にか人間の姿になっていた。
「お前たちも、疲れたじゃろ。ゆっくり浸かるといい。話は、晩御飯の後じゃ。」
アキとサキと一緒にお風呂に入った。
お城のと同じぐらいに広いお風呂だった。
いつものように、アキとサキが尻尾で体を洗ってくれた。
「ありがとう。」
2匹の尻尾を抱いて湯船に浸かっていた。
「そろそろ出るね。」
そう言って、脱衣場に歩いて行った。
そこには、アキとサキにそっくりなメイド姿の女性が建っていた。
「ユキとマキです。サキとアキとは、姉妹です。」
「ほんと、そっくりね。」
「お体をお拭きします。お着替えもお持ちいたしました。」
「ありがとう。」
二人は、ふわふわのバスタオルで優しく体を拭いてくれた。
「姫様は、この世のものとは思えないぐらい綺麗なお肌。それに、とてもお綺麗。」
「あなたたちも、かわいくて好きよ。」
「ありがとうございます。」
着替えは、お城で着たことが有ったような着物だった。やっぱり下着は付けないのね。
「姫様、このまま、食堂でよろしいでしょうか?お疲れでしたら、一度お部屋の方へご案内します。」
「ありがとう、おなかも空いたし、色々お爺様にもお聞きしたいので、食堂にお願いします。」
「かしこました。こちらになります。」
お風呂とは、反対側に食堂が有った。
天井も高くて、パーティでもできそうな広い食堂だった。
「疲れてないか?」お爺様が声を掛けてくれた。
テーブルには、すでに料理が運ばれていた。
茶碗蒸しに、以前お城で食べた懐石料理が並んでいた。後、すき焼きの甘い香りが、私の食欲をくすぐった。
「いただきます。」
そう言って、目の前の茶碗蒸しから食べ始めた。
「おいしい。」
暫くして、祖父が今回の経緯を話し始めた。
「まずこの場所だが、日本の仙台の近くじゃ。」
「わしの領域だから、朱雀も迂闊には、入り込めないから安心してくれ。」
「あのトンネルの入り口は、この家の前の道とつながっているんじゃよ。」
「今、玄武が、レイラの国に行ってるから、南の守り神の朱雀が東京まで出張ってきた。」
「だが、皇居の周りは、我ら四神の不可分領域じゃから、それを利用してバイクで助けに行った。」
「わしも、歳じゃからああいうものでも使わんと、階段を早く登れんて。」
「で、ここからが本題じゃ。」
「わしも、何故、朱雀が裏切ったかわからん。わしら、四神は、他国からの侵略には、力を合わせて立ち向かうが、それ以外は、平等な立場なんじゃ。」
「わしの孫娘をさらったところで、どこにもメリットはないはずじゃが。」
「お前の、お母さんが、失踪からして腑に落ちない。今は、死んだことになっとるがの、どこかで生きているかもしれん。そう思って、今回の王位継承の機会に玄武にお前の所に行ってもらった。」
「お前のお母さんと玄武は、仲が良かったからの。」
「そうなんだ。そんな、感じ少しもなかったけど。」
「それが、今回は、裏目に出てしまった。」
「後は、西の白虎がどう動くじゃが、たぶん大丈夫だろう。」
「それに、まだ、朱雀も本当に裏切ったのかわからん。」
「東京駅でも、その気なら、もっと抵抗できたはずじゃからのう。」
「まあ、今日は、これぐらいにして後はゆっくり休んでくれ。」
「サキ、アキ、孫娘を部屋まで案内してやってくれ。」
「わかりました。お嬢様、行きましょう。」
何事もなかったように寝室に向かったと言うか、何も考えられなかった。
そして、二人と一緒に、2階の奥の部屋の寝室に向かった。
「きょうも、一緒に寝るからね。」
それだけ言うと、広いベッドに横たわると同時に眠ってしまった。