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祈り

 その日の夜、姫が城の中で黄龍の神殿への禊の準備のために、一糸もまとわぬ姿で湯船に浸かっていた。

そして、湯船から上がるとメイドたちがバラの香りの石鹸で立てた泡を,両手ですくいその泡で姫様の体に障らないようにしながら洗いだした。

そのころ、ユキは、湖のほとりで満月の光を全身に浴びていた。

禊が始まるのは、夜0時を待ったころ、月が天頂に上り北極星の周りに星々が集まった時に始まる。

それは、神秘的で誰も見たことが無い儀式だった。

 姫は、体を洗い終わると、今にも溶けてなくなりそうな薄衣を身にまとい、お城の中の祭壇でひたすら祈りをささげる。

 そして、その姿は何人も見ることを許されなかった。

国王も妃も自室にこもり、ひたすら祈ることしかできなかった。

 月が、ゆっくりと天頂に登ったのをたしかめてから、1匹の白い虎が姫様の傍に近づき、そっと頭で背中を押した。

無言で立ち上がる姫に、その白い虎は付き従った。

 湖のほとりでは、すでにユキが、月の光を浴びて、いつもの数倍の大きさになっていた。

姫様は、その白銀の狐の背中に乗って、静かに湖の中に沈んでいった。

白い虎は、その湖に何人も近づかないように咆哮を上げた。

ユキは、月の光をため込んだ体を輝かせながら、湖底にある神殿に向かっていった。

昨日、お風呂で白虎と泳ぎ方を練習していたのはこのためだったのかもしれない。

姫がその神殿に近づくと、静かにその門が開いた。

そして、そのまま、その宮殿に吸いこまれていった。

そこは、湖の底とは思えないほどの広い世界が広がっていた。

青い空、向こうには、山々が広がっていた。

別世界に迷い込んでしまったようだった。いや、間違いなく別世界に入り込んだのだ。

ユキの背中から、地面に降りた姫は、足元が異様に柔らかいのを感じた。

それは、水の中を揺らめく水草のようだった。

姫様は、自分の周りを白い球が飛んでいるのを感じた。

「ユキ?」なぜか、それがユキだと思った。ユキは、姫様の足元に静かに横たわっていた。

気付くとユキにもたれかかり、横たわっている自分の姿を見た。

「姫さま、この世界では魂だけが行き来できる世界です。」

「だから、自分が行きたいと思うところに行くことができます。ユキに、姫様が行きたいところをおっしゃってください、どこにでもお連れします。」

「ユキ、黄龍の所に行きたい。」と心の中で念じた。

「畏まりました。」と答え終わると、目の前に黄龍が現れた。

 周りの景色が変わっているところを見ると、自分たちが移動したのだろう。

黄龍は、ぎろりと、こちらを見ただけで、再び目を閉じた。

「黄龍様、ご機嫌はいかがですか?」

姫が、尋ねた。

ちらっと、姫を見ただけで再び、黄龍は目を閉じた。

「好きにしろ。」そう声がした。

「お前ごときには、興味すらわかん。」

姫は、その黄龍に、もたれかかって眠ることにした。

ユキは、そのそばでじっとしていた。

ひとしきり眠った後で、湖のほとりで姫が目を覚ました。そして、ユキと白虎がそばで眠っていた。

朝日が、眩しかった。

夜中に湖に入ったはずなのに、全然濡れていなかった。そして、姫の右腕に今まで見たこともなかった紋章が浮かび上がっていた。

しばらくして、ユキと白虎が起き出した。

 姫様の右腕の紋章を見て、白虎は、喜びの咆哮を、ユキは、全身の白銀の毛を震わせた。

「どうしたの、二人とも?」

そこに、白虎の咆哮を聞いた、国王と妃がお城の方からやってきた。

そして、姫様の右腕に浮かび上がった紋章を見ると姫様を抱きしめた。

何が起きたのかわからない姫は、ただ戸惑うばかりだった。

「お父様、お母様何が有ったの?」

「私は、昨日湖の神殿の黄龍と出会って、好きにしろって、言われたから、そのまま黄龍にもたれかかって眠っただけです。目覚めたら、ここに居ました。」

「姫よ、この紋章は、黄龍の紋章で、黄龍の力を姫が引き継いだことを示しているんだ。」

「この力をどう使おうと、お前の自由ということだ。」

「そうなの?でも、昨日の私と何も変わらないわ。」

 後から、妃が、姫にガウンを掛けた。

「国王、ひとまず、お城に戻って、朝ご飯でも一緒に食べましょう。」

「白虎も、ユキもありがとう。お疲れでしょう。今日は、お城でゆっくり休んでください。」

国王と妃と姫とユキと白虎はゆっくりとお城の方に歩き出した。



















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