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夏休み10

 姫さんと別れた後、白虎は夕日に染まった城壁を森の陰から双眼鏡で見つめた。

10数メートル上ったところに、いくつか窓が並んでいた。

「姫さんは、その部屋から湖と夕日が見えると言っていた。そして、今日は、目印として白虎がくるまで、ずっと部屋の明かりをつけたままにする。」って言ってくれた。

たぶん、姫さんの部屋に行くには、その城壁を登っていくしかない。

数十メートル上の窓のあるところまでのルートを登っていくのを何度も頭の中で繰り返した。

いま見える窓のすべてに登れるように日が沈むまで、イメージトレーニングした。

 薄暗くなったので、城壁の見える森の木の根元に、リュックを枕に少し眠ることにした。

湖で魚の跳ねる音や、水鳥の鳴き声に耳を澄ましていると、何かが近づいてくる気配がした。

目を開けると、ユキが何かを加えてこちらに向かってくるところだった。

「ユキ。」小さくそして、そっと声を掛けた。

それに気づいたユキは、一目散に白虎のところにやってた。

そして、口にくわえていたものを白虎に渡した。

それは、姫さんのハンカチにくるまれたサンドイッチだった。

「ありがとう、ユキ。」

ユキは、周りを気にするように、振り返りもせずにすぐにお城の方に帰っていった。

姫さんのくれたサンドイッチでおなかを満たすと白虎は、再び眠ることにした。

 0時が過ぎた。

おもむろに上半身をおこす。周りからは、何も聞こえてこなかった。

ただ、湖に写った月が綺麗だった。

「さて、行くとするかな。」

そして、城壁を見上げると、明かりがついている窓が2つあった。

『どっちだろう?』

『しょうがない、右端の窓から行くしかないか。ちがったら、そのまま横に移動するしかないけど。』

 中世の前に建てられたそのお城は、城壁のところどころに足の掛けられる隙間が有った。

下さえ見なければ、登れるだろう。

 白虎は、双眼鏡で何度も見直したルートをゆっくりと登り始めた。

1時間をかけて、一番右端の明かりのついた窓のところにたどり着いて、中の様子を伺った。

その部屋からは、話し声が聞こえてきた。

「ユキを始末したら、娘には、手を出さない約束でしょ?」

「そうだな。あのまま、記憶を無くした状態で日本に居ればいいものを。」

「戻ってきたのが、間違いだったな。」

「飛行機ごと、始末しようとしたが、あの娘、俺を脅しやがった。」

「あの子には、手を出さないで!」

「今となっては、そうはいかない。」

「相変わらず、臆病ね。黒龍の名が泣くわね。」

「うるさい。お前も、ユキとお前の娘が一緒に居た時の力を知らんから、そう言えるんだ。」

「そうね。私のお母様のお気に入りと私の娘、そう、青龍の孫娘だから、そこに、私が加われば、あなた方でもただで済まないわよ。」

「お前の旦那が、どうなってもいいならやってみろよ。」

「そんなことを言って、すでに殺したんじゃないでしょうね。」

「ここに来る前に、娘のことを聞いたが一切口を割らんかった。仕方なく、お前の娘の記憶を借りてまんまと化けることができたがな。」

「それに、そんなに簡単に最後の切り札を始末しないさ。」

「おい、誰か窓から覗いてないか?」

「相変わらず臆病ね。ここまで、登ってくるような命知らず人間には、居ないわよ。」そう言って、レイラのお母さんが窓を開けて周りを見た。

一瞬、白虎と目があった。やばい、と思った瞬間

「ほら、誰も居ないわよ。夏でも風が冷たいから窓は閉めるわよ。」

そして、さっきより大きな声で、

「うちの娘に変なことをしたら、あなたでも許さないわよ。」

「わかった、わかった。」そう男の声が言った。そして、

「わかりました。お母様。」と白虎が小声で言った。

「さあ、もう寝ましょ。」そう言って、二人は、部屋の明かりを消して部屋を出て行った。

 しばらくして、白虎は、そっとその部屋の窓を開けた。カギは、してなかったというより、さっき姫さんのお母さんが窓をを開けたときにカギを掛けなかったのだ。

「ありがとうございます。お母様。」

部屋に入った白虎は、廊下の方に耳を澄ませた。

ドアを薄めに開けて誰も居ないこと確認した。そして、もう一つの明かりのついていた部屋に焦る心を抑えて静かに向かった。


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