夏休み6
馬車は、王女とユキを載せて、お城に向かった。
街の風景も、石畳の道もすべてが懐かしかった。
「ここは、やっぱり私の故郷だわ。」
「日本もいいけど、こんなに自然は無いし、人もギスギスしてる。」
お堀の橋を渡って、そのままお城の中へと入っていった。
「ユキ、やっと戻ってきたわね。」
城の中に入ると、お母様の執務室に向かった。
「とりあえず、ユキのことで文句を言ってやる。」
勢い込んで、ドアを何度もノックする。
しばらくして、静かに扉が開くとメイドの女性がそーっと顔を出した。
「姫様、お戻りになられたのですか?」
「今、戻りました。」そう言って、ドアをおおきく開けた。
その部屋の中には、誰も居なかった。
先ほどのメイドに向き直って、
「私の母親は、仕事もせずにどこに行ったの?」と聞いてみた。
「先ほどから窓の外を見てらしたんですけど、いきなり部屋を飛び出して行かれました。」
「怖い娘が来たから、ちょっと、お風呂に潜ってくるとか、おっしゃられたような気がします。」
「そう、ありがとう。お風呂に行ったのね。」
「ユキ、私たちもお風呂に行きましょう。」
そう言うと、姫とユキは、小走りにお風呂に向かった。
扉の外で、中の様子を伺うと確かに鼻歌を歌いながら、誰かがお風呂に使っているのが分かった。
姫が思いっきり、扉を開けると湯船にワイングラスを片手に母親が湯船に浸かっていた。
「お母様、今戻りました。」
「あら、レイラ、戻ったのね。」
「ユキも一緒です。よくもあの時は、ユキを鉄砲で打ったわね。」
「あら、記憶も戻ったのね。」
「そんなに怖い顔をせずに一緒にお風呂に入りましょ。」
「真昼間に入るお風呂も、最高よ。特にデザートワインを飲みながら。」
そういうと、裸のまま湯船から上がって、ユキと姫をそのまま湯船に引きずり込んだ。
「お母様、酔ってらっしゃる。」
「服を着たまま、湯船に引きずり込むなんて。」
「お風呂の中だもの、脱げば、いいじゃない。私もさっきから裸よ。」
そう言われて、姫は来ていた服を全部脱いだ。
『今日は、よく裸になる日ね。』
「ちょっとは、落ち着いた?」
そう母親が聞いてきた。
「最初から、落ち着いてます。」
「じゃ、ユキから事情は、聞いてるでしょ。そう言うことだから。」
「どういうことですか?」
「娘のためなら、母親は、何でもするってことよ。」
「ユキの願いもあなたのためってわかったから、泥をかぶるのも平気で、ユキを打ったのよ。」
「それなら、先に教えてくれてもよかったじゃない。」
「そんなことをしたら、あなた止めたでしょ。それに、いつもユキと一緒だったからしかたなくよ。」
「でもあなた、あなたは、あの時怒りに任せて、私や玄武に噛みついたでしょ。」
「そんなことしてません。」
「したのよ、貴方。ここを見て。」そう言って、肩の所を見せた。
痛々しい歯形が、今も残っていた。
「あの時あなたがするべきことは、怒りに任せて私に噛みつくことじゃなく、ユキのことを心配すべきだったのよ。貴方の力が有れば、もっと早くユキは元気になったのよ。」
「私たちは、特別な力を持っているんだから、怒りに負けて、その力を使うと後で苦しむのは自分よ。」
「前に、その力を使ったのは、みんなのためになるようにでしょ。それが、本来あの力を発揮するスイッチにしないといけないの。」
「わかった?まだまだ、子供よね。ユキもそう思うでしょ。」
「でも、ユキのために怒ったのもわかるから、そこは責めないわ。」
姫さまは、下向いたまま動けなくなってしまった。
「レイラ、私のおっぱいが吸いたくなったらいつでも言いなさいよ。」
「お母様、ごめんなさい。」
「反省したのね、じゃ、いいわ。」そう言うと母親は、湯船から上がった。
「それから、今日の0時にお庭に来てね。会わせたいのがいるから。」
振り向きもせずにそう言うと、さっそうと歩いてお風呂から出て行った。
落ち込んだ姫のまわりをユキが右往左往していた。
「ユキ。」そう言って、ユキを捕まえると、その銀の毛の中に顔をうずめた。




