夏休み5
毛布をかぶりながら、ユキと飛行機の外を眺めたり、機内食を二人で分け合って食べたり、そして、狭いシートでユキを枕代わりに眠ったりと、あっと言う間に故郷に戻ってきた。
「ねえ、ユキ、お城が見える。」
記憶が1年ぐらいなかったかけど、お城だけは覚えていた。
それは、父親と暮らした楽しいひと時の思い出の場所でもあった。そして、突然死を告げられた悲しい思い出の場所でもあった。
でも、父親が死んだことは、頭では分かっていたけどその亡骸を見たわけではない。
北の国の遠征に出かけて、そのまま帰らぬ人となったのだ。
もしかしたら、どこかで生きているかもと思ったけど帰ってこない人を待てるほど、国と言う組織は悠長にはできていなかった。年若い少女をいとも簡単に祭り上げそして、無理やり国を動かそうとする。国そのものが、まるで生き物のように姫を飲み込んで、動き出した。
まあ、そんなことは、今となってはどうでもいいこと。
すでに、お母様が、国王代理として働いている以上この国もしばらくは安泰でしょう。
何事もなかったように、飛行機が空港に着いた。
気が付けば、隣の紳士は、大きないびきをかいて眠っていた。
ユキと私は、その紳士を起こさないように前のシートの背もたれを乗り越えて、通路に出ることにした。
そして、『この国に入れば、私は国王だから、ユキを入国させるぐらいどおってことないわ。』と思っていたのが大きな間違いだった。
ユキをカバンに入れて、入国審査に向かい最初に、自分の名前を告げた途端、大きなサイレンが鳴り響き、警備員が、駆けつけてきた。その騒ぎで、ユキが、警備員を威嚇したものだからさらに話がややこしくなった。
そのまま、ユキと別室に連れていかれ、やれ服を脱げだの、タトウーはないか?、どこから来たのか?など散々な目に合わせられた。
1時間ぐらいたって、空港に玄武が迎えに来た頃には、裸のままユキで前を隠すような格好で、取調室に監禁状態だった。
「姫様、すみません。仕事が、忙しくて姫様を迎えにいけなくて、秘書に、1時間ほど丁重に空港でおもてなしするようにと、空港に連絡させたのですが…。」と言って、目が笑ってる。
「これが、一国の王女を丁重にもてなすという行為ですか?丁重に弄ぶの間違いじゃなくって?」
「おう、そうかも。秘書が、言い間違えたんですね、きっと。」
「でも、無事につけてよかったです。」と言って、そのまま、部屋から連れ出そうとしたので、
「玄武、今すぐ私のカバンと服を持ってきなさい。」
「失礼しました。今すぐに。」そう言うと、そそくさと出て行った。
しばらくして、扉が開いたかと思うとそっとその隙間から、カバンと服を差し入れた。
「ユキ、なんか玄武性格変わってない?」
激しく頷く、ユキ。
「良かったわ、貴方がいてくれて。記憶が戻ったとはいえ、それが有ってるかどうか心配になる特があるもの。」
服を着て、カバンを持ってユキを小脇に抱えてそのまま、玄武と空港のロビーに出た。
なんとなく懐かしいような風景が広がった。
1年以上記憶がなかった状態が続いたので、なんとなく既視夢のような感覚だった。
「さあ、ユキ行きましょう。」
「姫様、すみません。動物の持ち込みは、保健所に行って注射をしなくてはいけません。」
「ユキを連れて、ちょっと来てください。」
玄武は、そう言うと、姫とユキをロビーの反対側の検疫と空いてあるところに連れて行った。
「ユキ、悪いけどここでちょっと注射を受けてもらうよ。注射が嫌いなのは知ってるけど。」そう言って、玄武は、ニヤッと笑った。
「ユキ大丈夫よ。私が、抱っこしてて上げるから。」
二人で、狭い部屋に入るとちょっとイケメンの先生が、椅子に座っていた。
ユキもそれに気づいたみたいで、おとなしくなった。
「綺麗な狐さんですね。じっとしていてね。すぐに終わるから。」
その獣医の聴診器をあてられ、
「元気そうですね。」と言い終わらないうちに消毒してあっという間に注射を終わらせた。
ユキは、怖がる隙もなく終わった注射にあっけにとられていた。
「もう終わりましたよ。動けますか?」
「大丈夫です。」と言うと、
「姫さんじゃなく、こっちの狐さんね。今日1日静かにしていてくださいね。」
注射の成分もあったのか、ユキは、しばらくすると眠ってしまった。
そのまま、玄武と空港の外に出ると、いつもの馬車が待っていた。




