転機
7時過ぎに再び目覚めた。
その時には、すでにユキはベッドから消えていた。
姫は、服を着替えて、食堂に向かうことにした。
食堂には、すでにおじい様が新聞を読んでいた。
「おじい様、おはようございます。」
それから、佐紀に
「朱雀様とお連れの方は?」と尋ねた。
佐紀が答える代わりに、おじい様が
「朝早くに帰っていったわい。やっぱり、部下のことが気になったんじゃろう。」と言った。
「そうなんですね。ご挨拶したかったですわ。」
「夏休みが、終わったら会いに行けばいいさ。その前に、暑中見舞いを出せばいい。」
「そうします。」
「おじい様、ご報告が有ります。」そう聞いて、その老人は、姫の目をまじまじと見つめた。
「何か、重大なことじゃのう。」その目が、そう告げておる。
「実は、私、2年前の記憶が戻りました。」
「ユキに、有ったのか?」
今度は、姫が、おじい様の目をまじまじと見つめた。
「そうです。昨夜、眠れなくて深夜にお風呂に入りに行ったら、そこにユキがいました。」
「そうか、姫は、風呂好きじゃったの。」
「黙っていて、申し訳なかった。実は、まだ、お前にユキを合わせるのは早いのじゃ。今は、お前のおばあさんから霊力をもらって普通に暮らせてはいるが、お前に会うとそのもらった霊力を、すべてお前に与えようとする。それぐらい、お前とユキは、繋がりが強いんじゃよ。そのまま行くと、ユキが、お前の飲み込まれてしまう。それもいいとは思うが、今は、まだ早い。」
「今は、自分で、霊力を練れるように頑張ってるところじゃ。後、半年は、難しいかの。」
「だから、姫、あと半年ユキに会うのは、我慢してくれ。」
「だから、ユキは、私と一緒に眠ってるときに狐の姿に戻ったんですね。」
「そうじゃの。霊力を使いすぎると本来の姿に戻ってしまう。」
「もし、お前が望むなら、夏休みの間だけ、ユキを狐の姿でお前の傍に置いておくのは問題ないがのう。」
「ほんとう?でも、我慢します。半年待って、本当に元気になったユキに会うようにします。」
「そうか?まあ、時々は、会いに行かせるさ。」
「あの扉を使って?」
「そうじゃの。」
「後、ユキは、お前の母親のやったことは、何か言っていたか?」
「あれは、ユキが、私を守るために強くなりたいとお母様にお願いしたからだって言ってました。」
「そうじゃな。っようくなるために、生まれ変わる必要が有ったから、いやな役をお前の母親にさせてしまった。それも、お前の目の前で。」
「日本にお前を来させるためにも、普通の人間として、招き入れたかったんじゃ。」
「日本にも、我ら、4神以外に多くの御柱がいるからの。お前のあの力が、反発を買う恐れが有ったからのう。記憶をなくすことで、うまく日本に潜り込めた。」
「記憶が、もどったけど大丈夫なの?おじい様。」
「大丈夫じゃろ。もしもの時は、母親の所に送り返す。それに、今の御柱も我らの力を頼るしかないからの。」
「お前のおばあさまが、御柱とのパイプ役じゃから、ここにいる限りなにも出来んて。」
「そうなんですね。」今の話を聞いて、昨日ユキと一緒に居たときに金色のオーラを纏ったことは黙っていようと思った。
もしかしたら、すでに気付いているのかもしれないけど。
おじい様と食事をとっていると、おばあ様が食堂に入ってきた。
姫は、席を立ちあがり、
「おばあ様、おはようございます。」と、おばあ様と呼ぶには、不似合いな容姿に向かって挨拶した。
「私、記憶が戻りました。それと、ユキに霊力を与えて頂きありがとうございます。」
レイラは、体を45度の折り曲げて、深々とお辞儀した。
「私の方こそ、あのようなことしかできなくて、ごめんなさいね。それと、あと半年は我慢してね。」
「大丈夫です。ユキをよろしくお願いします。」
「元気になったユキとあなたが組めば、この世に怖い物無しになれるから。貴方達が、これからの希望よ。」
「だから、今、色々な勢力があなた達を狙ってくるのよ。特に、平和になると困る連中が。」
「あなたの母親もそれが分かってるから、敵の目を引き付けるように破天荒にふるまってるけど、そこは、玄武がうまくフォローしてくれてるわ。みんなの前で、ユキを打ったのも、敵にユキが死んだと思わせるためよ。」
「母親は、娘のためなら、鬼にもなれるから。だから、お母さんを許してあげてね。」
「ユキからも、そう言われました。」
「私一人、お母様を恨んでたなんて、恥ずかしいです。」
「すべては、あなたを思ってのこと。多分、あなたは、これで、どんな場合でもどんな相手でも、思ったままの感情を相手にぶつけることはでき無くなったはずよね。貴方が、すべてのものに、慈愛の心で接すれば、世界が平穏に過ごせるようになるわ。貴方のオーラがそう告げてる。」
「さあ、座って。一緒に朝食を食べましょう。」
3人は、時々冗談を言いながら楽しそうに食事をした。
こんな幸せな時間がいつまでも続いてくれればいいと姫は思った。
姫は、まだ、世界をそうできる唯一の存在であることに気付いていなかった。




