留学
知らない教室、そして、周りは賑やかな日本語が溢れていた。
ここ1年の記憶がない。
鏡を見ると、青い目の少女が映っている。
これが自分だと認識はできるけど、どうしてここにいるのかわからない。
もう、この学校に転校して、1か月以上経つけど。
「ハイ、授業を始めます。」
日本語は、ちゃんと理解できる。でも、何故わかるのか、そしてしゃべれるのかわからない。
教室の前では、50才前の男が、スーツを着て授業を始める。
「今日は、日本の歴史について講義します。」
今まで、こんな部屋で、みんなと一緒に勉強した記憶がない。
いつも一人で、誰かに勉強を見てもらっていたような。
隣の子に聞いたら、「海外で暮らしてたんでしょ?それって、専属の家庭教師がいたってことでしょ。うらやましい。」
そうかもしれない。でも、何か違うような気がする。
でも、パスポートは持っていない。
国籍は、日本。名前は、青島レイラ。多分、母親が日本人で父親が外人なのだろう。ただ、母親のことを思うと、憎しみが湧いてくる。思い出したくもないという感情に苛まされる。
今は、この学校の女子寮に入っているから、身内の人間とも今まで会ったことが無い。
変な話だけど、気が付いたらこの学校の女子寮のベッドに寝ていた。
二人部屋。
そして、同部屋の方は、山田佐紀さんで、3年生とのことだった。
この学校では、3年生と1年生がセットで同室に入る。
3年生が、1年生の面倒を見てくれる。
そうすることで、寮費が半分で済むとの事だった。
山田さんは、私のことは、なんでも知っているみたいだった。
お昼も何度か一緒に食べたことがる。
「これ好きよね?」って、言って、私の好きなものをお皿に取ってくれる。
何も言ってないのに、プレートの上のお皿は、私の好きなものばかり。
そして、多くもなく少なくもなく絶妙な量を入れてくれる。
洗濯とかも、知らない間にしてくれる。
「あの、これ。」洗濯物を指さすと
「ごめんなさい、私も洗濯するところだったから、一緒に洗わせて頂いたわ。」
それが、1度では無く、日常的だった。
だから、この寮にきて、1度も洗濯したことが無い。
「洗濯は、どこですればいいんですか?」と自分の下着を洗いたくて、1度聞いたことがある。
その時も、一緒に洗ってあげるから、と言って私の手から、持って行ってしまった。
教室では、隣の席の白川真紀さんが、色々教えてくれている。
不思議なのは、二人とも私を姫と呼ぶことだ。
レイラって呼んでとお願いしても、姫の方が呼びやすいとのことだった。
この二人から、姫と呼ばれると、周りの人がこちらをじっと見るから嫌なのに。
姫様でもなんでもないし、ちょっと記憶喪失気味の普通の女の子なのに。
そんな、違和感のある日常も、1か月が経つとなんとなく馴染んできた。
白川さん以外のクラスメイトとも、時々話せるようになったし、授業も徐々にわかるようになってきた。
特に、英語に関しては、ネイティブの発音だったので、先生の代わりに本を読まされたりした。
そのたびに、隣の白川さんが先生を睨んでいたのは、ちょっと気になったけど、英語をきっかけにクラスの女子から、声を掛けてもらえるようになった。
「レイラさんって、帰国子女よね。今度、英語教えてね。」みたいに。
後は、もう少し、記憶が戻れば、なんとなく不安になるこの喪失覚もなくなるのに。




