あまりに居たたまれなかったので、やらかしました
反省の仕方は、人それぞれ。
深く反省する者あれば、浅く反省する者あり。
そもそも、反省するという習慣を持たない者だっている。
けれど、突っ走って来た者が足を止め、数年分まとめて振り返るのは考えものだ。
「……なんて哲学的に考えている場合じゃないんだけど、ほんと、どうしたらいいんだか」
わたしは深い溜め息をついた。
フォルシアン国の伯爵家の一人娘ポーリーナ・トーシュこと、この話の語り手であるわたしは、生まれつき魔法の才に恵まれていた。
勉学に励んで更に才能を伸ばし、十二歳になった時、超難関の試験を突破して魔法先進国であるステンホルム帝国に留学を果たした。
幼い時に母を亡くしており、父を一人で残していくのは少しだけ心配だった。けれど、父は快く送り出してくれたのである。
「お父様、行ってまいります」
「気を付けて。手紙を書いておくれ」
「ええ、きっと」
しかしわたしは、あまりに魔法の勉強が楽しくて、次第に父への手紙を書き忘れるようになってしまった。
そして書き忘れるだけならまだしも、父からの手紙を読むのも忘れるような有様。
家族への愛情より魔法への情熱が勝り、魔法学園の卒業試験では次席をとった。
「最後まで、貴方に勝てなかったわね」
わたしは、帝国を去る挨拶として、六年間切磋琢磨してきたエイナル・フェルセンに声をかけた。
彼は帝国に生まれ、幼少期から魔力量と魔法の才能で注目されてきたという。
どうやら貴族令息であるらしいのだが、学園では身分は忖度されない。
本人が語らないので、わたしも特に聞き出そうとは思わなかった。
「僕の方が、入学前の教育環境に恵まれていたからね。
このまま君と同じ環境で修練を積んだら、いつか並ばれたかもしれない」
「負けるかも、じゃないのね」
「負けない。そこだけは譲れない!」
「貴方らしいわ」
「君は、どうしても国に帰るの?」
「ええ。魔法の勉強にかまけて、ろくに連絡もしていなかったから。
しばらくは、親孝行しなくちゃ」
帝国ほどではないが、故国にもそれなりに魔法使いの需要はある。
探せば何か職はあるだろうと思い、わたしは進路を決めていなかった。
「そうか。……また会えるといいな」
「そうね。その時を楽しみにしているわ」
六年の間、二人は同志であり相棒だった。
周囲の暇人たちに、恋は生まれないのかと訊かれたこともある。
けれど、そんな暇があったら少しでも魔法を究めたいわたしは、その話に乗らなかった。
後から考えれば、あまりにも気持ちの余裕が無かったと思うけれども、あの頃はただ前に進むことに夢中だったのだ。
帝国から故国へは、大陸横断鉄道が通っている。
一週間の旅をして、わたしは懐かしい我が家へ帰って来た。
「ただいま、お父様!」
「……え? ポーリーナかい?」
父トシュテンは、すっかり大人になったわたしに驚いていた。
「そうよ。ご無沙汰してしまってごめんなさい。
これからしばらくは、埋め合わせをするわね」
「……卒業したのか?」
「ええ、お陰様で」
成績優秀だったわたしは奨学金で学費も生活費も賄えてしまった。
それで余計に、家への連絡が疎かになっていたかもしれない。
「ただいま帰りました、お義父様!」
少しばかりの沈黙が降りた応接室に、元気な声が響いた。
部屋に勢いよく入って来た少女は十歳ほどに見える。
「お義父様?」
自分の父を「お義父様」と呼ぶ少女の出現に、わたしは戸惑う。
しかも、続いて現れたのは、しっとりと落ち着いた、感じの良い女性だ。
「あなた、ただいま戻りました。あら? お客さまでしたか。
失礼いたしました、トシュテンの妻のデレシアでございます」
「妻?」
妻と名乗った婦人は、わたしの顔をよく見て、気付いたらしい。
「……もしかして、ポーリーナさん?」
「はい」
「まあ、やっとお会いできたわ。
貴女のいらっしゃらない間に屋敷に入ってしまって、申し訳ないと思っていましたのよ」
「ポーリーナさん、ってお義姉様?」
「ええそうよ。リナのお義姉様よ」
「こんな綺麗な方がお義姉様! 嬉しい。
わたしはリナです。よろしくお願いします、お義姉様!」
「え、ええ、こちらこそ……」
あまりに現状が呑み込めない。
一人でゆっくり情報を整理したほうがよさそうだ。
「あ、あの、少し休ませていただいても?」
「まあ、気が利かなかったわね。ポーリーナさんを客間にご案内して」
「畏まりました、奥様」
躾の行き届いたメイドが、鞄を持って先に立った。
客間は記憶と同じ場所にあったが、内装はすっかり変わっていた。
屋敷内はどこもかしこも落ち着いて居心地良く整えられている。
思い出してみれば、昔は女主人がいないせいか、少しちぐはぐなところもあったのに。
『まるで、違う家みたい……』
年配の使用人が多かったはずだが、六年も経っているせいだろう。
見覚えのある顔を、一人も見ていない。
それに、なんとなく、自分の部屋も家を出た時のまま保たれているような気になっていた。
『そんなはず、ないのにね』
時の経つのも忘れていた六年は、思った以上に長かったようだ。
夕食時、義母に謝罪された。
「ごめんなさいね。貴女のお部屋は今、リナが使っているの。
もしも、そこをお使いになりたかったら、少し時間をいただければ整えますから」
義母はとても気遣いのできる良い方だ。
少しも押しつけがましさが無い。
「お母様、お義姉様と一緒にお部屋を使うことは出来ないの?」
義妹が可愛い我が儘を言う。
「貴女はまだ小さいから、そのほうが嬉しいかもしれないけれど、お義姉様はもう大人なのよ。お一人になりたい時もあるのだから」
「そうなの? でも、お義姉様、時々は遊んでくださるでしょう?」
「ええ、わたしで良ければ」
「ありがとうございます!」
義妹も、良い子だ。
昔はいつも少し寂しげだった父も、すっかり落ち着いて、良いお父さんぶり。
円満な家庭に、突如飛び込んできた異分子。
わたしこそ、邪魔者。
六年間の不義理を、心から後悔した。
「お義母様、部屋はそのままで大丈夫です。
まだ、今後のことを何も決めていませんし、客間で十分ですから」
「そう? 何か不都合があれば、いつでもおっしゃってね」
「ありがとうございます」
なんとか取り繕い、客間に戻ったわたしは、運び込まれていたチェストを開いてみた。
『まあ、懐かしい』
そこには、母との思い出の絵本や人形、手刺繍が施された子供服などが丁寧に仕舞われていた。
家を出る時に持って行ったのは、形見のブローチが一つだけ。……だったことを、今思い出した。
義母は大切な思い出の品だと考えて、整え、防虫など施し、保管していてくれたのだ。
ハッと思い出して、わたしはマジックバッグに収納してあった父からの手紙を取り出し、順番に読み始める。
『お前が留学して半年も経っていないが、この度、縁あって、後妻を迎えることにした。お前の義妹となる連れ子が一人いて、とても明るい良い子だ。名前は……』
何と言うことか。父が再婚してから、もう五年以上経っていた。
つまり、わたしは留学直後から父との交流を疎かにしていたのだ。
「ああ、恥ずかしい。穴があったら入りたい……」
何通もの手紙をゆっくり噛み締めながら読んでいるうちに、気が付けば夜が明けていた。
どの手紙を読んでも、父の愛情を感じた。
わたしは、その気持ちをずっと踏みにじって来たのだ。
居たたまれない。ただひたすらに居たたまれない。
実家に帰って来たはずなのに、我こそ異分子という思いが募るばかりだった。
コンコンとノックの音がする。
少し、転寝をしてしまったようだ。
ちょっとボンヤリしながらも返事をしたつもりだったが、いつまで経っても反応がない。
いったん遠ざかった足音だが、しばらくすると戻ってきた。
今度は二人の人物が部屋の前にいるらしい。
「ポーリーナさん? 開けますよ」
そう言ってドアから覗いたのは、義母。
「あら、いらっしゃらないわね」
『……ここに居りますが?』
ベッドに腰かけたままのわたしからは義母がはっきり見えているのだ。
彼女に、わたしの姿が見えないはずが無い。
「……奥様、ベッドの上にお手紙が広げられているようですが」
一緒に来たメイドが、そこから状況が察せるだろうと、確認を促す。
「いいえ。個人の手紙を勝手に見ることは許されません」
「申し訳ございません」
「久しぶりにお帰りになったのだし、近所に出かけたのかもしれないわ。
迷子になるほど街並みも変わっていませんから、少し様子を見ましょう」
二人はすぐに去ってしまった。
不思議だった。
ずっとベッドに腰かけていたのに、義母にもメイドにも、自分の姿は見えていないようだ。
二人とも、悪戯を仕掛けてくるような雰囲気の人ではないし。
『だとしたら、本当にわたしの姿が、他の人に見えなくなってるの!?』
とりあえず、昨夜のことを思い出してみる。
確か、自分が異分子で、邪魔者で、穴があったら入りたいと……
転寝しかけた時に、それを魔法で実現してしまった結果が、今の状態だとしたら。
『穴には入らなかったけど、透明人間になったのかも?』
ベッドから立ち上がり、廊下を覗いてみようとする。
ところが、ノブには触れられるのに、なぜか回せない。
『結界?』
結界まで作ったの? わたしが?
もしかすると、客間を穴と捉えて、入ったまま出られないようにしてしまった?
『どうしよう……』
無意識に放った魔法だとしたら、どこから解析すればいいのか?
しかも、このままだと家族が心配して大騒ぎになるかもしれない。
『あの子にも心配させてしまうわね』
義妹の少しはにかんだような笑顔を思い出す。
それから、どれくらい時間が経ったのだろう。
廊下から数人分の足音が聞えて来た。
「済みません、突然お邪魔したのに、お嬢様の部屋まで見たいなどと言う不躾で」
「いいえ、こんな時ですから、ご協力いただければ助かりますわ」
「はい。もしも、魔法の痕跡があれば、何かわかるかもしれませんから、とりあえず確認をさせてください」
義母と話す若い男性の声には覚えがある。
魔法学園のライバルで、首席のエイナルだ。
「お邪魔にならないよう、わたしたちは向こうに行っておりますわ。
ご用があれば、お呼びくださいませ。よろしくお願いいたします」
「わかりました」
義母たちは、彼を残して戻って行った。
「そこに居るね、ポーリーナ。君の気配がする」
ドアを開き、結界に触れたエイナル。
魔力を確認するように佇んでいた彼が、やがて口を開いた。
『エイナル、わたしのことがわかるの?』
「結界魔法に、姿が見えなくなる魔法?
さすがだね。さすが、僕のポーリーナ」
『誰が、貴方のポーリーナですって!?』
「はは、怒ったね? たぶんだけど。
怒ったら少し元気が出るだろう?」
『確かに』
「元気が出たところで、深呼吸して落ち着いてみようか?」
『すーはー……ハッ、わたしったら、なんで素直に従っちゃってるのかしら?』
「僕の言うとおりにするのは癪かもしれないけど、今は協力させてくれ」
『そうね、そうだわ。一人じゃどうしようも出来ずに困ってたんだもの。
落ち着け、落ち着け、すーはー』
「いつも前を向いて走っていくタイプの君が、こんな引きこもり系魔法を使ったとしたら、解くのに時間がかかるかもしれないね」
『なるほど、それはなかなかのヒントね。
いつも自分が考えないような方向性の魔法、か』
ということは、開放する、外へ出る、というような力とは逆方向の……
あ、手掛かりが掴めそう。
そして一時間後、無事、わたしは姿を取り戻し、廊下に出ることが出来た。
「ありがとう。あなたのお陰ね」
「珍しく素直だな」
「素直がお嫌なら、引っ込めるけど」
「はは、君らしい。
ところで、こんな時に何だけど。ちょっと相談があって」
「そうよね、何か用があるからここまで来たのよね。
わたしの危機を察知して、即座に駆け付けるなんて出来るわけないし……」
「あ、いや、察知していなかったわけでは……」
「え?」
「いや、なんでもない。
相談の件だが、君、帝国の魔法師団に入る気はないかな?」
「魔法師団?」
「知っての通り、僕は魔法師団に入ったんだ。
だけど入団早々、本気出したら、相方の希望者がいなくってさ」
帝国の魔法師団には、魔法学園の卒業試験で五位の者までは入団試験を免除するという伝統がある。
つまり、今なら、わたしは即入団可能というわけだ。
「帝国に来ないか?」
「行くわ。修行が足りないって痛感したもの。
すぐに戻って、手続きを……」
「手続きは僕が代行できる。
君は、またしばらく戻れないかもしれないんだから、ご家族と過ごさないと」
「……そうね。本当にそうね」
わたしたちの会話が聞こえたのか、廊下の角からひょこりと義妹のリナが顔を出す。
「お義姉様!」
「リナ」
「お義姉様がお散歩に行ってらっしゃるって、お母様に聞いたの。
だから、玄関を見張っていたのに、どうしてもうお部屋に戻っているの?」
「君のお義姉様は、すごい魔法使いだからね。
玄関なんて必要ないのさ」
「ちょっと! それじゃあ、わたしがお行儀の悪い人みたいじゃない?」
「行儀に気を遣うような人は、魔法使いに向かない」
それは、ある意味そうなんだけど、義妹の前で格好がつかない。
「ふふふ。
お義姉様は素敵な恋人がいるのね!」
「こ、恋人じゃないわよ、ただの……」
「お嬢さんはお目が高い!
これから恋人になる予定なんだ。是非、協力して?」
「はい!」
エイナルは自分のマジックバッグから、ふかふかのウサギのぬいぐるみとピンクと白でまとめた小さな花束を出した。
優し気なイケメンからプレゼントをもらって、小さな淑女リナは大喜び。
「ちょっと! 大事な義妹を賄賂で丸め込まないで」
「大丈夫よ、お義姉様。
ダイヤモンドをもらったって、わたしは最初にお義姉様の味方をするわ」
ダイヤはとりあえずもらっておくのね?
ちゃっかりした義妹で心強いわ。
手続きを急ぐから、とエイナルは挨拶だけで帰って行った。
「それにしても、ポーリーナさんたら、帝国の皇族の方とお知り合いだったのね」
「皇族?」
「エイナル様は、皇帝陛下の弟君のご子息だそうよ。
身分証明書を見せていただいたのよ。ここに身上書もいただいてあるわ」
「身上書?」
どうして、魔法師団に入るのに勧誘者の身上書が提出されているの?
「帝国で仕事をするのは不安だけれど、エイナル殿が目配りしてくださるなら安心だ」
父もすっかり篭絡されている。いつの間に。
「素敵なお兄様よね。お義姉様、婚姻式はいつ?」
「え? 婚姻式!?」
そんな話、出てましたっけ?
「リナ、そんなに急かしては駄目よ。
エイナル様は、これからゆっくり距離を縮めるおつもりなのでしょう」
「あの、わたしは魔法使いとして仕事に行くだけなのですけど」
「ポーリーナさん、一度、よく自分の心の中を見直してみてごらんなさい。
何も見つからなければ仕方ないけれど、もしも、何か見つかったら……」
そうだ。結論を急ぐのは、わたしの悪い癖。
もらっていた手紙を読まずにいたように、大事なことを取りこぼしている可能性は大いにある。
「はい。一度、よく思い出してみます」
「お義姉様、お時間が空いたら、わたしと少し遊んでくださる?」
「ええ、もちろんよ」
それからの一週間、わたしは家族との穏やかな時間を大事に過ごした。
数年分のわたしの不義理を、家族はゆっくりと埋めてくれた。
だがしかし、部屋での一人の時間はなかなかにスリリングだったのだ。
なぜなら、マジックバッグから次々と見過ごせないものが出て来たせいである。
もちろん、マジックバッグに他人が勝手に何かを入れることはできない。
使用者として登録されている者のみが、それを扱えるからだ。
確かに、出て来た物は全て、わたしが入れたのだ。
けれども。
『これも、あれも……こんなものにまで!』
何ということか! わたしが普段使う物、特に身に着ける物のほとんどに追跡と防御の魔法が付与されていた。
怒りたい! 猛烈に怒りたい!
けれど同時に、彼がこんなにもわたしを心配していたのだと、思い知らされてしまった。
ああもう、どうしたらいいのかしら?
そしてもう一つ。
引き籠り魔法を発動したせいで、あの時は気付かなかったけれど。
いくら追跡魔法を施していたからといって、普通ならエイナルがすぐにわたしのもとに駆け付けられるはずがなかった。
少なくとも同じ国内ならば、わたしという的に向かって転移することも可能だったろう。
しかし、国家間の無許可転移は禁止されているし、許可があったとしても莫大な魔力を消費してしまうのだ。
唯一考えられるのは、国家間移動ポータルの使用。
短時間でその使用が可能だった彼は、間違いなく皇族に連なっているのだろう。
今まで気安く接してきたけれど、わたしのライバルは、そんな人だったのだ。
全ての支度が整ったとエイナルが迎えに来た日。
どんな顔で、どんな態度で迎えればいいのか、わたしは悩んでいたのだけれど。
「……どうして、そんな大きな花束を抱えてきたの?」
「礼儀、かな?」
どこか人をおちょくるように飄々とした彼は、ホールに生けるような巨大な花束を手にしている。
すっかり毒気を抜かれたわたしは、大人しく彼を屋内へと案内するしかできなかった。
応接室で対応する家族一同は、皆、上機嫌だった。
「お嬢様のことはお任せください」
「よろしくお願いいたします」
「お父様、それではわたしがお嫁に行くみたいよ」
「私は既に許可を出した。エイナル殿がお前をその気にさせたら、後はお任せするからお好きにどうぞ、とな」
「あなた、リナの前ではもう少しオブラートに包んでいただけるかしら?」
「お母様、わたし大丈夫よ。むしろ、ワクワクしちゃう!」
「これ!」
わたしを置いてきぼりに、話はどんどん進む。
というか、もう結論が出てるのかしら?
でも、一言いわなくちゃ!
「エイナルの気持ちは嬉しいけど、勝手に人の持ち物に魔法を付与するのは許しがたいわ」
「その件は謝る。でも、やっておいてよかった。
追跡信号が全て消えたから、君の危機を察知できた。
君の魔法の才能はすごいんだ。
無意識にそれをこじらせて自分を閉じ込め、戻ってこれなかったらと思うと、今でも僕の心臓が止まりそうだ」
「……それは、本当にごめんなさい」
「僕も悪かったけれど、君も確かにやらかした。
そして、今後も何かをやらかすだろう」
うう、言い返せないわね。
「だが、そんな君のことが、僕は大好きだ。
君のピンチには真っ先に駆け付けて、君を救いたい」
「エイナル」
「一生、君の一番近くにいる許可を、僕にくれないか?」
「あなたって、そんなに遠回しに言う人だった?」
「そうだね。うん。単刀直入に行こう。
婚約してください」
彼の手には、いつの間にか指輪のケースが乗っていた。
「綺麗ね、これは?」
「強力な追跡魔法と防御魔法が付与された、世界最高に素敵な指輪だ」
凄い貴重な宝石に見えるけど、その説明が無い。
彼にとっては、わたしの身の安全が最優先なのだ。
ああもう……わたしの完敗だ。
「負けました。あなたと婚約するわ」
「もしも、渋々なら、もっと時間をかけて口説くけど?」
「いいえ、喜んで嫁ぐわ!」
あっ、嫁ぐ宣言は早かったわね。
けれど、その言葉に、エイナルは頬をわずかに染める。
……可愛いわ。
「そんな気はしてたけど、嬉しいな。よろしくね」
わたしたちはガッチリと握手をした。
だって、ここは応接間で家族が勢ぞろいしているんだもの。
お義母様は、今にも『キャーキャー』と歓喜の叫びを発しそうなリナの口を押えていたし、お父様は「うんうん、よかったよかった」とうっすら涙を浮かべつつ頷いていた。
二人きりで、いい雰囲気になるのは、もうちょっとだけ、おあずけだ。