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7話 お薬と聖女

 そして、年が明けました。ダナタークさんの帽子コレクションに毛糸でできた物が加わりました。お似合いです。

 エザークの畑に少しだけ変化がありました。わたくしとプーが理力を用いていない場所。そこに、小さな芽がひとつ!


「やりましたわあ……」

『ぷうぅ……』


 感慨深いですわね。この畑にはなにもしていませんけども。やっぱり元々の育成環境と近しい条件が必要ですわね。じゃあ、やっぱり冬しか栽培できないかしら。

 理力の影響がある畑は、安定してたくさん栽培できています。なのでお薬の研究自体はとても順調だそうです。毎日キコールさんと研究員さんたちからお礼を言われますわ。ちょっとだけ面映ゆい気持ちです。

 そして。


「――臨床試験に移行する」


 重々しい表情でキコールさんがわたくしへ告げました。それって今までやっていた研究とどう違うんですの。わたくしが疑問を口にするより早く、研究員さんのひとりが「人で、効果があるかを試験するんです」と述べました。


「――まあ、まあ! じゃあ、お薬としての形になったんですわね⁉」

「そういうことだ」

「やったー!!!!」

『ぷっぷー!!!!』


 その日はみんなでお祝いしました。

 臨床試験は、実際に症状のある患者さんの中から志願者へ処方します。そうして一般に流通させるための安全性の最終確認をするんだそうです。治験とも呼ばれるそうな。最終確認なので、もうすでに十分な試験をくぐり抜けて来ています。で、病院で志願者を募集してもらい、実際に投薬してもらい経過観察をします。

 今回わたしたちが開発に関わった『アニーク』は、熱病のお薬です。罹患した最初期に高熱が出て、そこで他の病気と合併し亡くなる方が多いのは、わりと多くの人が知っています。もし存えても、その後ずっと微熱と倦怠感が続き生活に支障が出るそうで。不治の病に分類されているんです。熱でずっと顔が赤く見えるため『赤面熱』と呼ばれています。


 ――子どものころ、いっしょの部屋で過ごしていた子を思い出しました。赤面熱にかかってしまって。あのとき、わたくしが聖女として覚醒できていたら……いえ、もう過ぎたことですわね。


 治験結果が出るのは少し先……と思っていたのですが。二週間が経ったころ。治験患者さんが次々と快癒していく、と報告を受けました。びっくり。すばらしいですね!


「では、一般に流通させますのね?」

「そうしたいのはやまやまだが……現状エザークの栽培をあなたに依存している以上、どうしても薬価を高く設定せざるを得ない。まだまだ、庶民の手が届く物とは言えない」


 治験に参加された患者さんは庶民の方たちですけれど。それは、被験者となる代わりにお薬代が免除されていたからなんです。ちなみにイキュア・クリアスへ、何通も分厚いお礼のお手紙が届きましたわ。わたくしも読ませていただきましたけれど、みなさん長年の患いから解かれた喜びと感謝をたくさん書いてくださっていました。わたくしでもお役に立てたのだと、うれしかったですね。

 あらためて、わたくしたちはエザークの栽培と供給の安定化に取り組みます。理力を使えばすぐなんですけれど。キコールさんも、他の研究員さんも、セネガーも。それは奴隷労働みたいだからダメだ、と譲ってくれませんでした。


「今後、ずっと『アニーク』のために畑仕事をし続けるつもりか?」

「いいじゃないですか。わたくし、土好きですもの」

「もしあなたになにかあったとき、製造できなくなる薬なら、いっそ市場に流さない方がいい」

「んむう」

『ぷぷう』


 そんなわけで。今後は理力なしで育ってくれたエザークを用いる方向へ舵を切りました。わたくしとプーが力を貸して育成したエザークは、お薬として正式に登録するために必要な分を賄うのに使います。そして正式名称も『アニーク』になりました。あらー。ちょっと恥ずかしい。

 やっぱり、しばらくは高級なお薬になってしまうそうです。でも治験に参加された方からの評判が良すぎて、問い合わせが殺到しているそうな。イキュア・クリアスも人手が足りなくなって、急きょ求人を出しました。キコールさんがちょっと得意そうな顔をしていました。

 事務職員さんが新しく雇用されました。それに、以前お勤めされていた研究員さんが二人ほど戻って来てくださったみたい。なんだか、これまで少人数でキリキリ舞いしていたのがウソのようです。


「あのお、アニさん……」


 理力を使わないで土と格闘し、わたくしとプーとセネガーで畝を作るのが一番早いのはだれか競争していたとき。事務職員の女性が申し訳なさそうに声をかけて来ました。


「はい! なんでしょう! ちょっと! お待ちください!」


 セネガーの圧勝でした。悔しい。


「なんか、偉そうな人が、アニさんに会わせろって来てるんですけど。名乗ってくれないんですが」


 事務職員さんがそう言うと、セネガーが「どこにいる?」と反応しました。「応接部屋にお通ししました」と。


「じゃあ、キコールへそいつらが来たと伝えてくれ。俺が行く。アニはここでプーと待ってろ」

「いやいやいや」

『ぷぅぷぅぷぅ』

 

 思わずつっこんでしまいましたわ。プーも真似しました。かわいい。わたくしのお客様なのになんでセネガーが行くんですの。と思いつつ、偉そうな人にいい思い出がないので、セネガーが応対するの大賛成! わたくしがそう言うまでもなく、スタスタと向かってしまいましたけれど。

 で、だいたい一時間後。

 プーと種まき競争をしていたら、セネガーが戻って来ました。難しい顔をしたキコールさんもいっしょです。とりあえずわたくしたちの熾烈な闘いを終わりまで見守ってくださり、それから声をかけて来ました。


「――アニ。想定していた事が起こった」

「なんですの?」

「王宮からの使者が来た」


 わたくしは、息を呑みました。ひゅっと喉が鳴りました。


「今は退いてもらったが。……あなたの、今後を。話し合いたい」


 ああ、ろくでもない事態の予感です!


他の連載が完結間際で佳境のため、今回からしばらく隔週朝7:00の更新のみです

よろしくお願いいたします

次の更新は4月10日(水)7:00~です


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感想おきば



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― 新着の感想 ―
[良い点] ぶぅぷぅぷぅかわいい! プーはどんな時もかわいいですね。 お薬が無事できてよかったです。 あと、毎度のダナタークさんの帽子ネタ、なんか楽しいです。
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