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15話 聖女、勲章をもらう

 叙勲式、それなりに派手な式典となりました。なんだか来賓に隣国の大使さんとかも。なんでですの。

 キコールさんも参加されていました。聴衆の中にいるのを見つけました。そこは来賓席じゃありませんの? わたくしの関係者ですわよ? 薄い茶色のぼさぼさな髪を後ろへなでつけてキレイに整えて。立派なお召し物を着て。丸いメガネはされていませんでした。誰かと思いましたわ。周囲のお嬢さんたちからたくさん秋波を受けていましたねえ。ちゃんとしていたら美形ですからねえ、キコールさん。気づいていないっぽかったですけど。

 もちろん、セネガーとプーはいません。プーの存在が公になったら、そこそこ大変になりそうですしね。別に隠していたわけではありませんけれど。お手紙とか送れたらよかったんですけれど、なんだかわたくし外とのやりとりを禁じられていたのです。勘弁してほしいですわよねえ。

 女性が叙勲されるのは、すんごいひさしぶりなんだそうです。三十年ちょっとぶりですって。それだけ、アニークの存在が大きいんですわね。んんん。ミューリア様のお言葉に真実味が一層加わりましたわ。

 天井がものすごく高い式典会場で「聖女アニ」と、宣誓官によってわたくしの名前が高らかに宣言されました。わたくしは「はい」と返事をして席から立ち上がり、進み出ます。

 王様がわたくしよりも一段高い場所で、わたくしの前へとやってきました。その様子を確認してからわたくしはひざまずき、頭を垂れます。そして頭上で王様が述べた言葉を聞いていました。


「愛すべき受勲者、来賓、そして聴衆席の者」


 さすが王様。朗々とした声には、会場の意識をひとつにする力があります。


「ここに皆とともに、我が国の発展に多大なる貢献をした者へ勲章を授与する栄誉ある機会を迎えたことを、大変嬉しく思う。まず初めに、受勲者のこれまでの努力と功績に対し、心より敬意を表し、感謝の意を述べよう」


 あらー。うれしいー。王様直々に褒めてくださるんですってー。でも褒められる本人は、しゃがんで下向いたままの姿勢なんですわよー。なんか納得行きませんわねー。


「土の聖女アニ。あなたは赤面熱の治療薬である『アニーク』の開発を通じて、我が国に計り知れない貢献をした。あなたの献身的な努力と卓越した働きにより、エザークの安定供給が実現され、多くの人々の生活が向上した。あなたの活動は、我々にとって大きな模範であり、その影響は今後も長く続くであろう。我が国と社会のために尽力したその姿勢は、次世代の人々にとっても大いなる励みとなる」


 いえ、べつに国と社会のためにとか思ってませんの。一攫千金狙えると思っただけですの。それに、その理由だったら、真っ先にキコールさんが叙勲されなきゃおかしくないですこと? あの人金のためより社会のために研究開発してましたわよ?


「本日ここに紫陽花勲章と騎士爵を授与するにあたり、皆とともに、あなたの功績を称え、深い感謝と敬意を表する」


 そこまで言われた後、やっと「面を上げよ」と言われました。ちょっと首が疲れました。王様が、大臣から受け取った容れ物を、しゃがんだままのわたくしへ差し出します。この姿勢不自然だと思いませんの。わたくしは両手を差し伸べて容れ物を受け取りました。


「身に余る光栄にございます。この栄誉に浴し、いただきましたご厚情を励みとし、これからも研鑽して参ります」


 ミューリア様から「こんな感じで」と教えていただいた文言を諳んじ、もう一度頭を下げました。王様は「うむ、励めよ」とひとことおっしゃり、下がって行かれました。……これで終わりですの? わたくしこの姿勢からどうしたらいいんですの。


「聖女アニ、退場」


 宣誓官が述べました。えっ、なにそれ聞いてない。とりあえず出ればいいんですのね? すっと立ち上がり、その場で淑女の礼。そして、御前を辞す場合の作法に則って会場から出ました。えーっと、来賓からも聴衆からも、じーっと見られていて怖かったです。

 とりあえず、キコールさんと落ち合いたいんですけれども。控え室へ下がって、みなさんが帰って行く流れの中で捕まえようと思います。でもそうこうしていたら、次々と来賓の方が訪問して来られて、お祝いを述べて行かれるんですのよー。それどころじゃありませんでしたわ。

 結局、式典自体は午前中でしたのに、わたくしが自分の宮殿へ戻れたのは、夕方でした。お腹すきましたわあ。

 そして宮殿には、たくさんのお祝いの品。そしてキコールさんが待っていました。よかったですわ。


「まあ、お会いできないで終わるかと思いましたわ、キコールさん!」

「私も少しそう思ってしまった。最初、こちらでもけんもほろろにされてしまってね。途方に暮れたよ」

「あらあ、そんなことしたんですの、兵士さん?」


 入り口を守っていらっしゃる兵士さんへ声をかけると、しらんぷりされました。なんですのよ、もー。メイドさんはいそいそとお茶を汲み換えたり、いろいろしてくださっているのにー。


「プーは、どうしていますか」


 一番気がかりなことを真っ先に尋ねました。予想していたのか、キコールさんは即座に「元気だよ。でも、あなたがいなくて落ち込んでいる」とおっしゃいました。


「さすがに、王都に連れて来たら騒ぎになってしまうと思ってね。留守番をしてもらっている。私がいない間、エザーク担当官としてがんばってくれているはずだ」

「そう。それはよかったですわ」


 ちょっと、ため息をつきました。ミューリア様からマリウム公爵領へ招待を受けているので、プーとの再会はまだまだ先になりそうです。さて、ないしょ話をしましょう。満を持してミューリア様の真似をしてみます。わたくしはパン、とひとつ手を叩きました。……何も起きません。しーんとしました。


「……もー! もー! なんですのよ、もー!」

「……どうしたの、アニ」

「メイドさん、兵士さん、ちょっとわたくしたち、ないしょ話したいんですの! お部屋の外に出ていただけますか!」


 わたくしが言うと即座に兵士さんが「なりません」ときっぱりとおっしゃいました。メイドさんも「それは、できません」とはっきりおっしゃいました。

 なんだか、親類ではない未婚の男女をふたりっきりにしちゃダメなんですって。それ誰が決めたの? 人類みんな守ってる? わたくしにだけ適用してません?

 しかたがないので、兵士さんもメイドさんも、ないしょにしてくださるっていう約束でそのまま話しました。もー。わたくし叙勲者ですのよ? もっと敬われてもよくないです?


「イキュア・クリアスが、王室御用達になると聞きました」

「……うん。複雑な心境だよ」

「あらあ、どうしてですの? いいことじゃありませんか」

「私が誇れるのは、あなたと友人になれたことだけだよ、アニ。他は、薬学研究に携わる者であれば、だれしもが為す事ばかりを繰り返して来ただけだ」


 うーん、自己評価の低いイケメンですわね! メイドさんが、はうって感じで胸を押さえています。なるほど、あなたこういうのがお好きですのね。わかる。


 「そんなことはないと、わたくしは思いますけれど。そもそも、エザークのために土下座をしたのは、他のだれでもなくてあなたでした」

「違いない」


 ちょっと笑ってから、キコールさんは真剣な表情で「あなたのことを、心配している」とおっしゃいました。


「エザークは、本当に貴重だから。イキュア・クリアスにも連日、多くの問い合わせが来る。プーとセネガーが畑を守ってくれているが、何度か窃盗にも遭っている」

「えー⁉ そんなことになっているんですのー⁉」

「人的被害はないし、新たに警備も厚くしたから、今は心配ない」


 安心させようとしたのか、キコールさんは笑いましたけれど、ぜんぜん安心できません。ミューリア様の言葉が真実味を帯びて来ました。


「エザークは、正直なところ、どうなってもいいんだ。あなたたちが尽力してくれたおかげで、いろいろな環境下での栽培を試みれた。だから、なくなったとしてもいずれまた、栽培できる希望がある」

「それは、ようございましたわ!」

「でもね、アニ。あなたは、唯一人の人だよ。聖女であってもなくても、アニはひとりなんだ」


 切実な声色でしたわ。なんか告白されてるみたいで恥ずかしいんですが! イケメンなんだからそういうことホイホイ言わないでほしいですわね! キコールさんは「畑のエザークが盗れないとなったら、あなたが狙われるかもしれない」とおっしゃいました。


「えーと、そのことなんですけれども、キコールさん」


 やっぱり、みんな考えることっていっしょなんですわねえ。わたくしの状況を、わたくしよりも周囲の人たちが把握しているのはなぜなんですの。


「水の聖女のミューリア様が、わたくしを保護してくださるそうですの。マリウム公爵領へ匿ってくださるそうですわ」


 わたくしがそう言うと、キコールさんは夕焼け色みたいなキレイな瞳をまんまるにしました。


「本当か⁉ それは、願ってもないことだ!」

「ええ。じつは明日、もう移動しますの」

「早っ」

「えっ」

「どういうことでしょう?」


 キコールさんとのないしょ話なのに、兵士さんとメイドさんが反応されました。まあ、言ってませんでしたからね。なんで言わなかったんだ的な圧を感じます。だって、ミューリア様とのないしょ話ですしー。

 なんだかね、その後に兵士さんもメイドさんも、大慌てで準備されました。わたくしに着いてくるんですって。なぜ。お二人の名前は、それぞれリメイン・ボールドリーさんとカーサ・パルサさん。なんで今まで聞いてなかったかっていうと、まさかこんなに長いこと、軟禁されるなんて夢にも思っていなかったからですわ!

 それにしてもお腹すきました。めちゃくちゃ放置されてるんですけれど、キコールさんとごはん食べに出ちゃおうかしら。

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[一言] もうすぐプーに再会できるかな??
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